先日、田舎の妹から宅配便が届きました。中は、セトカという柑橘類とビニール袋に入った初取りのヒジキとワカメでした。もうそんな季節なのかと思いつつ、ビニール袋を開けると鮮新な潮の香りがにおい立ちます。
この香りは、子どもの頃のある記憶に繋がります。まだ小学校にも上がらぬ頃、春先お彼岸の前、海沿いの丘の上にある墓地に母と掃除に行くのが習わしでした。子どもの足で片道30分の行程はそれなりに大変です。しかし、この行動には楽しみがあります。墓地の大掃除が終わると下の浜に降りてお昼を食べ、磯をするのです。「磯をする」、つまり標準語でいうところの潮干狩りです。
収穫物は、海が荒れて流れ着いたワカメやカジメ。岩場に芽を出したばかりの柔らかいヒジキ。ミナと呼ぶ巻き貝。そして砂浜のマテガイです。マテガイは砂に空いた穴を見つけて食塩を落とし込み、飛び出すところを捕まえます。たまに、顔を近づけすぎて貝の吹き出す潮がかかると、見ていた母が笑います。あの頃、父の死後笑うことの少なかった母の笑顔を見て、子供心にうれしかったことを今も思い出します。早春の潮の香りはそんな思い出とともに私の中にあります。
その浜も、今は沖合の大型船の桟橋建設で潮の流れが変わり、ただの干潟になりました。便利さと引き替えに何かを無くしたような気がします。