引越しから1年くらいで、ようやく仲良しさんができた。
彼女は「はーちゃん」
はーちゃんとの出会いは「こうもりを知ろう!」という講演会だった。
公民館のような小さな会場で、15人くらいが参加していた。
そこに、はーちゃんと、はーちゃんのお母さんがいた。
講師が、はーちゃんのお父さんで、彼女は、講演の「お手伝い」に来ていたのだ。
ケージに入っていたキクガシラコウモリが逃げ出し、みんなで部屋中追いかけて、講演会は盛り上がった。
この辺りは蝙蝠がたくさんいて、民家の雨戸の戸袋で夜を過ごす横着者がいるらしい。
引っ越してきたとき、雨戸の戸袋に黒い糞が山のように溜まっていた。(その時はネズミの糞だと思っていた。)
冬のある日、雨戸を開けた時にボタッと何かが落ちる音がした。
戸袋を覗いてみると、黒いものが見える。
カチカチに固まった蝙蝠だった。どうやら冬眠中に落ちてきたらしい。
このまま戸袋に返して、雨戸に挟まってもいけないし...「どうしたものか?」
箱に入れて、ストーブの前に置いておいたらモソモソ動き出した。
リンゴ一かけとモモのフードを入れて一晩お泊り。
明け方、箱を外に出したら、どこかへ飛んで行った。
そんなこんなで娘は、はーちゃんと仲良くなった。
はーちゃんの家では、自分の家以上にくつろいでいたみたいで、はーちゃんのお母さんが笑いながら様子を聞かせてくれた。
6年生になる時、こちらに戻ることになって「一緒に修学旅行に行こうね。」という約束は守られなかった。
しかし、二人は旅先の若草山で偶然出会う。二人の執念の為せる技か。
娘は二日目の日程で、はーちゃんは1日目の日程。バスの駐車場で出会ったらしい。
娘は、帰ってくるやいなや「かあさん、奇跡だよ!」と嬉しそうに話してくれた。
4月になって退院したら、はーちゃんに会いに行くと言っていた。髪の毛も伸びて、松葉杖で会いに行くつもりだった。
元気なうちに合わせてやりたかったが、勝手に連絡を取るわけにいかない。
娘が眠り始めた日、はーちゃんのお母さんに電話を入れた。会いたがっていたことだけ伝えて受話器を置いた。
次の日、はーちゃんが来てくれた。風邪で高熱があったのに、無理をして来てくれた。
もう意識はなかったけど、娘は気づいていただろうか。
その夜、娘は逝った。