「痛い!」
あかねの体は、満身創痍、傷だらけだった。
うっかり、体に手があたろうものなら、ギロリと大きな目でにらんでくる。
「ごめん、ごめん」
看護士さんにも、よく怒っていた。
看護士さんの中にも、ドジな人がいて、緊張すると普段やらない失敗をやらかす。
あたっちゃいけないと思うと、ついあたってしまう。
私も似たようなタイプなので、その若い看護士さんが他人とは思えなかった。
今頃、どうしているだろう。ベテランの看護婦さんになっているかしら。
一年以上、お風呂にも入っていないし、体を抱きしめるどころか、触ることも出来なかった。
亡くなって、家に帰ってきたとき、私は彼女の体をさわりまくった。
皮膚はカサカサのはずなのに、体液が体中の細胞に充満してパンパンで皮膚はツルツル。
骨と皮だけになっていた足も、腫れ上がって丁度いい太さになっていた。
髪も少し短いけれど、ベリーショートと言えなくもない。
皆とお別れするときは、「元気な時の姿で」との意志が働いているみたいだった。
式の前に、口元が寂しいと、ご自分のルージュを娘に塗ってくれた友人。いま、そのルージュは仏壇に。
浴槽につかるとき、お湯の中から痛々しい手が出てくる。
その手をつかんでさすってやる。
妄想が始まる...