1本のわらしべ

骨肉腫と闘う子供とその家族とともに

芋づる式に

2009-01-09 20:18:48 | Weblog
ひとつの記憶から、別の記憶たちが芋づるを手繰るように蘇る。

2年前のお正月。
大晦日から3日まで外泊許可をとって、娘が帰ってきた。
その頃には痛み止めのロキソニンが効かなくなっていたので、
モルヒネの錠剤が処方された。
病院に戻る日の夕方。福祉タクシーのおじさんが迎えにきてくれた。
大人4人がかりで、バスタオルと足を持って「せーのーで」と車椅子に乗せる。
それから、やはり4人がかりで階段を降りる。
ところが、その日はそうはいかなかった。
車椅子に移った娘が「お尻が痛い。」と言いだした。褥瘡(床ずれ)がひどく痛むらしい。この様子では病院までもたないだろう。
でも褥瘡の処置は明日に延ばせない。モルヒネも外泊日数分しか出ていない。今夜には薬が切れる。
仕方がないのでナースセンターに電話をかけると「動かせないようでしたら褥瘡の処置の道具とモルヒネを取りに来てください。」という返事だったので、急いで主人が病院へ向かった。
福祉タクシーのおじさんには謝って帰っていただくことにした。今まで何度もドタキャンしたが、おじさんはいつも笑って「また明日ね。」と帰っていかれる。
主人が戻ってから褥瘡の消毒をした。
私は病院で先生が処置をされるのを見ているので、その通りにやってみる。
体を90度横に起こして、みんなで支える。起こしている間、本人はかなり辛いので手早くやらなければならない。器材、ガーゼ、ラップ等を前もって準備しておく。それまで娘の褥瘡を見た事がなかった家族は息を呑んだ。直径5センチはあった。クレーターのように肉がえぐれていた。そこに黒いものが見える。移植した蝶骨を止めたボルトの頭だった。

次の日、娘は病院に向かった。

Wii

2009-01-09 08:30:23 | Weblog
2年前のお正月、我が家にWiiがやってきた。
1月2日、朝から近くのスーパーに並んで抽選。30パーセント位の確立でWiiの購入権利が当たる。Wiiが当たるんじゃなくて買う権利が当たるのである。
主人は早々と並んだ。何時間かして主人と息子が四角い箱を抱えて帰ってきた。
その頃、人気だったWii Sportsのソフトも一緒に買ってきていた。
久しぶりに病院から帰宅していた娘を喜ばそうと一生懸命の主人。
姉と弟がゲームを始めた。だんだん白熱してくる。
不意に和室の襖が閉まった。
娘は、その頃3度の手術のため寝たきりで、動かせるのが右手だけになっていた。
Wii Sportsはテレビゲームだけれど体全体を使って遊ぶゲーム。娘には出来なかった。楽しそうに盛り上がる姉弟を見ていて、最初は嬉しそうにしていたが、だんだん不機嫌になっていった。
その後、慌てて他のゲームを買いに走ったのは言うまでもない。

これが、亡くなる1ヶ月前のこと。
まさか、この1ヶ月後に亡くなるなんて予想だにしなかった。
娘は治ると信じていたし、体も元通りになると思っていた。少しは不自由は感じるかもしれないがリハビリを頑張れば自分で立って歩けると信じていた。
この先、骨肉腫に打ち勝って退院してきた時、自分の体の現状を知ったとき、娘はどんな反応を見せるだろう。
治療中は生き残ることに精一杯だが、その後は残った障害、後遺症と闘わなければならない。
人目を人一倍気にする娘。また、そういうお年頃である。
「きっとグレるだろうな~。」

いま思えば呑気な母だった。