米財務長官の友人が予言する世界経済のゲームチェンジ
池上 ドナルド・トランプ大統領は、今年1月に就任したその日から矢継ぎ早に大統領令に署名してジョー・バイデン政権からの政策転換を進めています。
今、アメリカでは革命が起きているようにさえ見えます。ワシントンで投資コンサルティング会社を経営している齋藤さんはどう見ていますか。
齋藤 東海岸や西海岸のエリートたちが新自由主義の旗の下でお金儲けに走り、それ以外の人たちの叫びを無視し続けてきた結果、
「今のシステムは、とにかく壊すべきだ」と考える国民が多数派になり、新自由主義にNOを叩きつけた。トランプの勝利はその結果だと思います。
私の会社の主な顧客は、ヘッジファンドなど巨額のお金を動かす投資家です。彼らに投資のアイデアとなる情報やアドバイスを提供することでコンサル料を得てきました。
ところが、最近では企業のお客さんが増えています。それはワシントン=トランプ政権が地政学リスクそのものになったからです。
多くの企業がそのリスク情報を得るために私の会社にアクセスしてきています。

池上さんは「革命」という言葉を使いましたが、現在のトランプ政権は明らかに新自由主義に幕を引こうとしています。
その影響は世界中に波及していくでしょう。私が昨年12月に上梓した『世界秩序が変わるとき』(文春新書)では、これから新自由主義が終焉を迎えて、
ゲームチェンジが起こり、それによって日本には数十年に一度の復活のチャンスが訪れると予想しています。
速すぎた変化
池上 それではまず、トランプ政権とアメリカの今後について話を聞かせてください。
私は昨年、大統領選の取材で何度もアメリカに行きました。民主党が多様性の大切さや同性婚を主張すると、東海岸や西海岸の人たちは「そうだよね」とうなずくけれども、
それ以外の地域の人たちが「いやいや、聖書に神様がアダムとイブをおつくりになったと書いてあるじゃないか」と反発するのも目の当たりにしました。
思えば、新自由主義が世界を覆い始めてからまだ3、40年しか経っていません。その変化のスピードは、アメリカ人にとっても速すぎたのではないでしょうか。
齋藤 まさにその通りだと思います。世界を一つにして、ヒト・モノ・カネの移動を自由にすると、国際的な金融業やIT関係の職に就いている人は儲かります。
その一方でアメリカの製造業は安価な労働力を求めて、国外に生産拠点を移していったので、アメリカの工業地帯は衰退していきました。
そこに暮らす人たちは新自由主義の経済的な恩恵を受けられない上に、急速な価値観の変化についていけない。
するとエリートから「同性婚を認めないなんて野蛮人だ」という扱いを受ける。彼らの不平不満が爆発するのは時間の問題だった、と今なら総括できます。
池上 とはいえ、齋藤さんご自身がいる場所はリベラル側の空間ですよね。齋藤さんは『世界秩序が変わるとき』でトランスジェンダーだとカミングアウトしています。
トランプ氏は就任演説で「連邦政府が認める性別は男性と女性だけだ」と宣言しました。どう感じましたか。
齋藤 私個人の価値観からすると、住みにくい世の中です。しかし、その是非を論じるよりも、トランプ大統領を生み出した社会の底流にあるものは何か、
新自由主義が終わった後の新しい世界をどう生きるべきか。それらの問いに答えるほうが生産的です。
池上 1980年代後半のバブルの頃、大手都市銀行に就職した齋藤さんは、日本の銀行のビジネスモデルに疑問を感じて会社を辞め、アメリカに留学します。
トランスジェンダーであることによる生きづらさも感じていたのでしょうか。
齋藤 それもあったと思います。私が渡米した90年代は、冷戦と昭和がほぼ同時に終わり、日本に新自由主義的な価値観が、どっと入ってきたときでした。
新自由主義は、世界を一つの市場として見て、経済効率を高め、世界全体を豊かにしていこうという価値観を前提としているので、
能力さえあれば誰もが人種や性別、国籍といった属性を超えて同じ土俵で戦えます。だから、新自由主義は属性による差別や偏見がない社会を目指してもいる。
池上 齋藤さんには、新自由主義が肌に合ったというか、ぴったりだった?
齋藤 はい。仕事の面でも個人の生き方の面でもそうでした。
私がこの業界に身をおいて30年になりますが、この間にグローバル化がものすごいスピードで進みました。世界貿易機関(WTO)ができたのが1995年。
同じ年にヨーロッパではシェンゲン協定が発効して、加盟国間ならパスポートなしで行き来できるようになった。思えばつい30年前のことです。
それと並行して、インターネットが普及し、今やスマホで世界中の人とつながるようになった。人類史上これほどの速さで経済構造や価値観が変わったことは空前絶後ですから、
その変化についていけない、ついていきたくないという人が出てくるのも当然だと思います。トランプさんの醜聞がいくら報じられても、
支持者たちが意に介さないのは「この人なら、このシステムを壊してくれる」という希望を託しているからでしょう。
MAGA派とマスクの同床異夢
池上 日本では、2001年に「自民党をぶっ壊す」と言って首相になった小泉純一郎氏が、閉塞感を打ち破ってほしいという破壊願望を抱えた人たちから熱狂的に支持されました。
アメリカでも似たようなことが起きた。
齋藤 トランプ政権について、日本の方々から「壊してどうするの?」とよく質問されますが、既成の体制や概念を壊してきたのは、
次の明確なビジョンを持っている人ではなくて、それらにとにかく我慢がならなくて、破壊衝動に走る人々です。
池上 ともにトランプを支持したとはいえ、新自由主義の下で見捨てられてきたラストベルトの人々とイーロン・マスクをはじめとする超お金持ちの経営者たちでは、
トランプ大統領に望むことが異なるのではないでしょうか。

齋藤 どちらも今の世界秩序を壊したいと思っているのは同じ。でも、壊した後、どんな世界になってほしいかは確かに違いますね。
大づかみに言うと、貧困層を中心とするMAGA(メイク・アメリカ・グレート・アゲイン=米国を再び偉大に)派は、
繁栄を極めた1950年代の白人の古き良きアメリカに戻りたいと考えています。
それに対して、マスクさんをはじめとするITや金融、エネルギー企業の経営者は、50年代よりももっと前、19世紀の取ったもの勝ち、
自由放任主義(レッセフェール)の西部開拓時代に戻りたい。新自由主義はルールに基づいて競争する世界でしたが、彼らが求めているのは、
とにかく規制緩和(ディレギュレーション)です。例えば、オーストラリアでは青少年への悪影響を懸念して、16歳未満のSNSの利用が禁じられましたが、
マスクさんたちはそのような規制は必要ないと主張している。SNSの副作用で青少年がおかしくなってもいいと言っているのに等しい。
池上 バンス米副大統領は2月のミュンヘン安全保障会議で「ヨーロッパで最も懸念している脅威は、ロシアでも中国でもない。
ヨーロッパ内部に存在する脅威だ」と発言し、ヨーロッパがSNSを規制しようとしていることこそ、民主主義の危機だと批判しました。あの発言の背景には、マスク氏がいるのですね。
ベッセント起用の理由
齋藤 彼らが一番嫌っているのは、環境や消費者保護のための規制です。そして、猛烈なスピードで進めている技術革新については、
こう考えています。今はAIや量子コンピューター、宇宙技術などがリンクして、ビッグバンが起きる前夜だ。
そして、規制を全部取り払うことで、それをアメリカが最も早く起こし、他の国々を圧倒し、その果実を独占するのだ、と。それが彼らにとってのMAGAなんです。
池上 貧困層とマスク氏たちでは、MAGAの中身が違うのですね。そうなると、今後のどこかの段階で、両者に亀裂や対立が生じませんか。
齋藤 そこで政策実行の順番が重要になってきます。マスクさんたちの希望を叶えるために規制緩和をして、AIなどの技術革新が進み、
それとともにエネルギー価格が下がれば、高成長で低インフレになります。
逆に貧困層の要望に応えて、高い関税をかけたり、移民労働者を追放したりするなど、保護主義的な経済政策を採れば、
低成長で高インフレになります。その影響が最初に出るのは米国債です。その信用が低下し、米国債価格が下がって、長期金利が跳ね上がれば、
巨額の債務を抱えるアメリカは米国債の安定的な償還と消化ができなくなります。そうなれば、トランプさんは2026年の中間選挙で敗北し、政権は立ち行かなくなるでしょう。
だから、アメリカの財務長官はどのような順番で経済政策を進めれば、貧困層とマスクさんたち双方の願いを満たしていけるかを考えて、
政策を実行しなければならない。それにはかなり難しい舵取りが要求されます。そのことがわかっているから、トランプさんは、
トランプ支持者やマスクさんたちから嫌われているスコット・ベッセントさんを財務長官にあえて起用したのでしょう。
なぜ嫌われているかと言えば、彼は元々ジョージ・ソロスの右腕で、ゲイであることを公表しているグローバリストだからです。
池上 彼は齋藤さんの顧客でもあり、友人だそうですね。
齋藤 そうです。私の会社がソロス・ファンドと大仕事をしたことがきっかけで親しくなりました。2012年の夏の終わり頃、
私が書いた「日本の金融政策が大きく変わる」というレポートを読んだベッセントさんに急遽呼び出されて、その説明を求められました。
それを聞いた彼は新たな大勝負を決意し、ソロスさんを説得して、年末までの数か月間に円売りと日本株買いで10億ドルの利益を叩き出しました。

池上 齋藤さんもすごく儲かったのではないですか。
齋藤 私の会社は投資は行わず、あくまでアイデアを提供するだけ。リスクは取っていないので、そんなに儲からないんです。
でも、そのおかげで私の胃には穴が開かずに済んでいます。
池上 穴は開かなくても、キリキリ来るんじゃないですか。
齋藤 ストレスにならないと言えば嘘になりますが、人によって何にストレスを感じるかは違いますから。
池上 確かに私はテレビに出てもストレスを感じませんし、大きな事件の生放送ならアドレナリンが出ますね。
齋藤 ヘッジファンドのオーナーは飛行機や城を買えるほどの資産があるのに、アドレナリンや生きがいを求めて働き続けています。
私も「うちのファンドに来ないか」と何度も誘われましたが、私には向いていないと断りました。
無茶な関税はレバレッジ
池上 トランプ氏はことあるごとに輸入品に関税をかけると言いますが、実際には高関税が目的ではなくて、
最初にふっかけておいて、それを材料にディール(取引)をし、アメリカにとって得になることを引き出そうとしている。そう考えていいのでしょうか。
齋藤 いいと思います。トランプさん本人も言っていますが、関税をレバレッジ(てこ)として利用しています。
もし中国製品に対して、本当に60%の関税を課したら、アメリカ経済はつぶれてしまう。ですから、そういうことはしていませんし、今後もしないでしょう。
池上 EUに対しても高い関税を課すと言っていますね。
齋藤 EUについてもレバレッジがほとんどだと思いますが、最終的には国家安全保障上の理由で関税を課すかもしれません。
米中の緊張がさらに高まったり、台湾有事が起きたりしたら、国家安全保障に関連するもの、例えば、医薬品や鉄、半導体などは国内や同盟国で作っていかなければなりません。
その事態に備えて、生産設備を国内や同盟国に戻しておきたい。そのための高関税は実行される可能性があります。
トランプ最大の武器は直感力
池上 トランプ大統領にそこまでの深謀遠慮があるようには見えないときがあります。彼は直感に優れた政治的天才なのか、
それとも運がいいだけで、単なる思いつきがうまくいっているだけなのか。
齋藤 国民や目の前にいる相手が何を求めているのかを察知し、共感する直感力は天才的だと思います。
池上 表には出ずに裏でアドバイスするブレーンはいるんですか。
齋藤 トランプさんは、政権スタッフの間でライバル関係を作り、彼らを競わせて、意見を吸い上げ、見極めていくそうです。
トランプ政権にいた方によれば、「閣議で自分に全然関係ない話をふってくる」。トランプさんは、問題が今、発生しているということは、
専門家の見解や意見は正しくなかったのだ、と考える。そこで「専門家ではない、あなたはどう考えますか?」と既成概念に捉われないアイデアを訊いてくる。
池上 なるほど。
齋藤 また、トランプさんの強みは、エリートたちだけでなく、一般庶民とも瞬時に心を通わせられることです。彼が外国からアメリカに帰還した二等兵と面会したとき
その兵士は「この人は私の苦しみを理解してくれた」と感動していたそうです。そしてそれは、なぜ戦争がうまくいっていないのか、現場の声を聞くことで、
将軍たちによって歪曲されていない情報を求め、新たな視点で課題に向き合うスタイルに通じます。ただ、このエピソードを教えてくれた方は、
「トランプ氏の問題は、二等兵と将軍の意見を同じウェイトで聞き入れてしまうことなんだ」と苦笑いしていましたが。
また、トランプさん自身は秩序立てて物事を考える人ではないが、勝つことに異常にこだわるとよく指摘されます。直感的にどちらが強いかを判断して、
強い方、勝つ方に賭け続ければ、最後に勝つことができる。それがトランプさんの勝利の方程式のようです。
高まる台湾有事のリスク
池上 アメリカの次に中国の今後について聞かせてください。齋藤さんは『世界秩序が変わるとき』で中国はアメリカに絶対に勝てない、
アメリカに代わって覇権国になることはない、と書いています。
齋藤 覇権国家に対して新興国がチャレンジする場合、解決方法は三つしかありません。
一つは、大日本帝国の真珠湾攻撃のように「戦争する」。二つめは、第一次世界大戦後に大英帝国がアメリカへ覇権を移譲したように「覇権国家がその座を譲る」、
もしくは1980年代から90年代の日本がアメリカにしたように「新興国が自ら降りる」。三つめは「冷戦」です。
いまの米中関係は冷戦状態ですが、習近平の中国はアメリカに跪(ひざまず)かず、アメリカは覇権を中国に譲らない。そう考えていくと
戦争のリスクが高まっていると言わざるをえません。
池上 中国は不動産バブルが崩壊し、若年失業率が2023年6月には過去最高水準の21.3%に達しました。
齋藤 若い失業者が毎年数百万人も出ている。これだけの若者を吸収することができるのは、軍や戦争しかない。
詳しくは私の著書を読んでいただければと思いますが、私のリサーチと分析からは、どうにもこれから中国が勝つ絵は描けませんでした。
でも、それゆえに中国は台湾などで一発逆転を狙う可能性がある。
池上 トランプ氏は、台湾有事への対応を聞かれて「何もコメントしない」と述べています。アメリカと中国やロシアの間には、
ゼレンスキー氏が言うところの「大きな、きれいな海」がありますからね。

齋藤 結局、アメリカは自分たちには関係ないと思っている。しかし、日本は台湾有事が起きたら巻き込まれるし、
中国はお隣さんだから仲良くやっていきたい。日本は今、非常に難しい局面に立たされています。
しかし、同時に中国を封じ込め、叩き潰すのが、アメリカの譲れない政策であれば、東アジアでアメリカを助ける役割を果たせるのは、
日本をおいてほかにありません。そのことこそが、私が日本復活の絶好のチャンスが到来すると考える最大の理由です。
戦後、アメリカは冷戦で東側陣営に対抗するために軍事的にも経済的にも日本に手厚い支援をしてくれました。日本はそのおかげで目覚ましい経済復興を遂げた。
その時代と似たことが今、起きつつあるのです。
TSMCの巨大な半導体工場が日本に続々と作られているのは、まさにすでに来ているチャンスです。日本がそのような立ち位置にいるのであれば、
日本はアメリカと一緒においしいところを取りに行ったほうがいい。それが私の考えです。
池上 齋藤さんは著書で明治維新、戦後復興期以来のチャンスだと。
齋藤 1980年代から90年代にかけて、新自由主義が世界を覆っていったとき、日本はひとり負けとなりました。再びゲームチェンジが起きれば、
新しい勝者と敗者が生まれます。これから起こる変化は、黒船来航の後に起きたことに匹敵するでしょう。
黒船が来て、徳川の世が終わり、世の中がひっくり返って、次の時代を切り拓く坂本龍馬や岩崎弥太郎が出てきた。
ですから、今は目の前の現実を従来の見方や前提に捕らわれず新鮮な目で見つめなおすことが重要です。
日本はスネ夫になれ
池上 アメリカは新自由主義の幕引きをするとともにパックス・アメリカーナ(アメリカによる平和)を支えてきた自らの覇権を縮小させようとしています。
トランプ大統領はWHO(世界保健機関)からの脱退や気候変動に関する国際ルールを定めたパリ協定からの離脱を表明しました。
齋藤 これまでアメリカはいちばん強いにもかかわらず、国際連合をはじめとする世界的なルールの枠組みで自国を縛っていました。
覇権国が自らの従うべきルールや組織を作ることで世界に平和と繁栄をもたらしてきたのです。それはアメリカの叡智でした。
有史以来6000年間、ホッブズの言う「万人の万人に対する闘争状態」が続いてきたと考えれば、この戦後80年は非常に恵まれた時代だったと捉えるべきです。
池上 ところが、世界を支えてきたアメリカがその体制に耐えられなくなってしまった。
齋藤 「ドラえもん」になぞらえれば、今、アメリカはジャイアンとして振る舞うようになった。ただ、アメリカには食糧もエネルギーもイノベーションもある。
だから、アメリカがジャイアンになったら、困るのは日本であり、ヨーロッパです。
池上 アメリカがジャイアン化しているのであれば、日本はスネ夫になるべきなのでしょうか。
日本はジャイアンに取り入り、おべっかを使って、自分を守ってもらいつつ、ジャイアンの暴走を諫め、新自由主義後の新しい世界秩序にアメリカを軟着陸させる。
それがこれからの日本の役割だと。
チャンスを掴んでいた岸田首相
齋藤 ある意味でその通りです。岸田政権はゲームチェンジ後の日米関係の明確なビジョンを持っていました。
岸田首相は昨年4月に米国議会で「アメリカはもう一人で国際秩序を支えなくていい。これからは日本と肩を組んでやっていこう」という素晴らしいスピーチをしました。
岸田首相はアメリカの抱える矛盾と課題に気づき、ジャイアンの暴走を抑えるために、日本がより積極的に貢献する意図を伝えたのです。
私は外から見ていて日本国内で岸田政権の評価が低かったことには首を傾げざるをえませんでした。一見、何もしていないふりをして、
防衛費の増額や敵基地攻撃能力の保有など防衛政策の転換をサラッとやってのけた。安倍首相がやろうとしたら、内閣が吹っ飛んでいたかもしれないようなことばかりです。
政治の世界は、口では何とでも言えますが、アメリカ一国で世界を支えなくてよいと発言し、それを裏付ける政策をきちんと準備した。
それが、共和党議員を含め、ワシントンが岸田政権を高く評価した理由です。多くの共和党議員は、
地元の有権者がなぜトランプを支持するのか、肌身で感じています。その琴線に触れる対応でした。

池上 石破首相はどうですか。
齋藤 一番懸念しているのは、少数与党であるために政権が安定していないことです。トランプさんから無茶な要求を突きつけられたときに
「国民民主党さん、どうですか?」と、おうかがいを立てるようなスピード感で大丈夫なのかな、という不安感があります。
池上 訪れているチャンスを日本はどのように掴めばいいでしょうか。
齋藤 まず考えられるのは、アメリカへの投資です。
例えば、アメリカの電力供給量は過去30年間変わっていませんが、今後、AI技術がさらに社会に実装されていくと、電力需要は増えるでしょう。
そこで、日本の小型原子炉を開発している会社がアメリカで原子炉を建設すれば、アメリカに歓迎されるので、高い事業収益もあげられるでしょうし、
アメリカで雇用を生み出すこともできます。
もう一つは、アメリカを助けることになる日本国内産業に投資することです。例えば、造船業。現在、中国が造船のシェアの半分を握っているので、
もし台湾有事になれば、アメリカや日本は物資の輸送ができなくなるおそれがあります。であれば、船は日本や韓国が作り、
アメリカでメンテナンスをする態勢が求められる。それを築くために日韓が国内の造船業に対する投資を増やせば、自国の雇用だけでなく、
アメリカの雇用を増やすことにもなります。
アメリカは今、中国に勝つために日本の助けを心の底から欲しがっているのですから、どうしたらその期待に応えて、ウィンウィンの関係を築けるのか。
そのことを考えるのが、日本がチャンスを掴むための要諦になります。
国内投資を増やしたときに今の日本が直面するのは、人手不足です。であれば、日本は生産性を高め、賃金を高くしていくしかありません
高賃金を払えない企業は淘汰されていくでしょう。賃金が毎年上がっていけば、消費も増えます。チャンスを掴みそこなわなければ、
「失われた30年」が日本にもたらした閉塞感は解消され、日本は新しいことにチャレンジしやすい国になっていくはずです。
天与のものはない
池上 カナダのコンビニ大手がセブン&アイに買収提案をしたり、アマゾンが日本にデータセンターを建設したりしているのは、チャンスと捉えるべきなんですね。

齋藤 第二次世界大戦後の世界秩序は正しいと私は今でも思っています。しかし、アメリカの叡智による平和と繁栄は天与のものではないことを、
アメリカ以外の国は、もっと真剣に受け止めておくべきでした。
世界経済全体の成長が鈍化したとしても、著しい経済格差を生み出した新自由主義はもうたくさんだと多くの人が声を上げた以上、
新自由主義による成長は当分の間、諦めざるをえません。日本はその環境の中でどうすれば相対的に浮かび上がれるのかを懸命に考えるべきです。
また、新自由主義後の世界で成長と分配のバランスをどう取り、安定と平和をもたらす新しい世界秩序をどう築いていくか。
それが世界全体で取り組むべき次の大きな課題となるでしょう。
source : 文藝春秋 2025年5月号
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