帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの『金玉集』 冬(三十九) 平 兼盛

2012-11-27 00:01:22 | 古典

    



            帯とけの金玉集



 紀貫之は古今集仮名序の結びで、「歌の様」を知り「言の心」を心得える人は、いにしえの歌を仰ぎ見て恋しくなるだろうと歌の聞き方を述べた。藤原公任は歌論書『新撰髄脳』で、「およそ歌は、心深く、姿清げに、心におかしきところあるを、優れたりといふべし」と、優れた歌の定義を述べた。此処に、歌の様(歌の表現様式)が表れている。


 公任の金玉集(こがねのたまの集)には「優れた歌」が撰ばれてあるに違いないので、歌言葉の「言の心」を紐解けば、歌の心深いところ、清げな姿、それに「心におかしきところ」が明らかになるでしょう。

 

 金玉集 冬(三十九) 兼盛

 かぞふれば我が身につもる年月を おくりむかふと何いそぐらむ

 (数えれば我が身に積る年月を、送り迎えると、年末に慌ただしく、何を急いでいるのだろう……彼ぞ触れば、わが身につもる疾し尽きを、おくりだし、むかえると、人は何をどうして急ぐのだろうね)。

 
 言の戯れと言の心

 「かぞふれば…数えれば…計算すれば…彼ぞ触れば…彼ぞ振れば」「か…彼…あれ」「つもるとしつき…積る年月…重ねる年齢…つもる疾し尽き…たび重なる早い尽き」「とし…年…歳…疾し…早い」「つき…月…突き…尽き」「を…お…おとこ」「おくりむかふ…送り迎える…出入りさせる…送り出し受け入れる」「いそぐ…仕度する…用意する…急ぐ…早くものごとを行う」「らむ…推量する意を表す…原因理由を推量する意を表す」。
 
 歌の清げな姿は、年末の忙しさを、もてあそぶ歌。歌は唯それだけではない。

 歌の心におかしきところは、男子禁制の斎宮の女たちを、皮肉を効かせた笑いで慰める歌。


 拾遺和歌集 冬。詞書「斎院の屏風絵に、十二月つごもりの夜」とある。


 年が「疾し…早い」などと戯れることを、全く知らされないと上の歌を一生わからないまま過ごす。知らなくても日常には支障ない事柄だから。

 

 
 伝授 清原のおうな


 鶴の齢を賜ったという媼の秘儀伝授を書き記している。

 聞書 かき人しらず

 
 
『金玉集』の原文は、『群書類従』巻第百五十九金玉集による。漢字かな混じりの表記など、必ずしもそのままではない。又、歌番はないが附した。