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帯とけの新撰和歌集
紀貫之 新撰和歌集 巻第一 春秋 百二十首 (九と十)
うめの花にほふ春べはくらぶ山 やみにこゆれどしるくぞありける
(九)
(梅の花匂う春べは、暗ぶ山、闇に越えても、山道はっきりわかったことよ……お木のはな、艶やかにふくらむころは、近しい山ば、闇夜に越えても、しっとり濡れたことよ)。
言の戯れと言の心
「うめ…梅…男木」「はな…花…木の花は男花…おとこ花…先端」「にほふ…あざやかに色づく…艶麗である…匂う…香る」「はる…春…春情…張る…ものがふくらむ」「くらぶ山…山の名、名は戯れる…暗ふ山…暗い山…比ぶ山…近しい山…親しい山」「やま…山…ものの山ば」「こゆ…峰を越える…(ものの山ばを二人して)越える」「しる…著る…はっきりしている…汁…しみでる液…じっとり濡れる」。
いつはとはときはわかねど秋の夜ぞ もの思ふことのかぎりなりける
(十)
(何時とは、時はわからないけれど、秋の夜よ、もの思うことの極致だった……出づとは、早くてわからないけれど、飽き満ち足りた夜よ、もの思うことの極みだったわ)。
「いつ…何時…いづ…出る」「とき…時…疾き…早い」「あき…秋…飽き…厭き」「もの…物…いわく言い難いこと、もの」「かぎり…限り…限界…極限…極致」。
貫之は、和歌教化の書『土佐日記』で、「くらぶ」という言葉を、次のように用いて、「比べる…近い…親しい」という意味もあることを示した。
前国守一行が館より帰京の船に乗る所へ移った場面。「年頃、よくくらべつる人々なむ、別れがたく思ひて、日しきりにとかくしつゝ、のゝしるうちに夜更けぬ(数年来、ごく親しくしていた人々とは、別れ難く思って、一日中、あれこれしつつ騒いでいるうちに夜が更けてしまった)」。
さて歌は、二人して峰こえる艶情。対するは、飽き満ち足りた極致。
伝授 清原のおうな
鶴の齢を賜ったという媼の秘儀伝授を書き記している。
聞書 かき人しらず