帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの「古今和歌集」 巻第一 春歌上(35)梅花立よるばかりありしより

2016-10-03 19:07:51 | 古典

               


                             帯とけの「古今和歌集」

                    ――秘伝となって埋もれた和歌の妖艶なる奥義――


  
「古今和歌集」の歌を、原点に帰って、紀貫之、藤原公任、清少納言、藤原俊成に歌論と言語観を学んで聞き直せば、隠れていた歌の「心におかしきところ」が顕れる。それは、言葉では述べ難いことなので、歌から直接心に伝わるよう紐解き明かす。


 「古今和歌集」巻第一 春歌上
35

 
          (題しらず)             (よみ人しらず)
  梅花立よるばかりありしより 人のとがむる香にぞそ染みぬる

(梅の花の近くに立ち寄ることがあってより、人のみとがめる香りによ、染まってしまったわ……おとこはな、絶ち、よれることがあってより、人の咎める、彼によ・色香によ、染み、濡れてしまったわ)

 

 

歌言葉の「言の心」を心得て、戯れの意味も知る

「梅花…木の花…男花…おとこ花…おの先端」「立ち…たち…絶ち」「よる…寄る…よれる…よれよれになる」「とがめる…見とがめる…注目して尋ねる…咎める…非難する」「香…色香…彼…あの香…あれ」「染みぬる…染まってしまった」「ぬる…ぬ…完了した意を表す…濡る…濡れる」「ぬる(連体形)止めは余韻がある」。

 

ほのかに香る梅花に立ち寄ることがあってより、人に、あらどうしたのと尋ねられるほど、衣の袖に移り香となって・染み込んでしまったわ。――歌の清げな姿。

香るお花、咲き果てるばかりのことがあってより、人の咎める、あれの・香によ、染まって、濡れてしまった。――心におかしきところ。

 

女の歌として聞いた。

ここ数首の梅花の歌は、梅花が「男花」として、この時代の和歌の文脈で通用していた実例で、確認でもある。其れを見失って久しい今の人々にも、そろそろ納得してもらえるだろうか。先ず、梅の「言の心」を心得え、その他の戯れの意味をも知れば、歌の「清げな姿」だけではなく、「心におかしきところ」が聞こえるのである。

 

(古今和歌集の原文は、新 日本古典文学大系本に依る)