帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの「古今和歌集」 巻第四 秋歌上 (201)秋の野に道もまどひぬ松虫の

2017-04-14 19:12:15 | 古典

            

 

                      帯とけの古今和歌集

               ――秘伝となって埋もれた和歌の妖艶なる奥義――

 

国文学が全く無視した「平安時代の紀貫之、藤原公任、清少納言、藤原俊成の歌論と言語観」に従って、古典和歌を紐解き直せば、仮名序の冒頭に「やまと歌は、人の心を種として、よろずの言の葉とぞ成れりける」とあるように、四季の風物の描写を「清げな姿」にして、人の心根を言葉として表出したものであった。その「深き旨」は、俊成が「歌言葉の浮言綺語に似た戯れのうちに顕れる」と言う通りである。

 

古今和歌集  巻第四 秋歌上 201

 

(題しらず)           (よみ人しらず)

秋の野に道もまどひぬ松虫の 声する方に宿やからまし
                           
(詠み人知らず、男の詠んだ歌として聞く、男歌が二首並ぶ)

(秋の野で、道も・心も、惑うてしまった、松虫の・待つ虫の、声する方に、宿借りていいのだろうか……飽き満ち足りた、ひら野で、通い路も・おとこも、惑うてしまった、待つ身の虫の声する方に、や門、かろうかどうしよう)

 

 

歌言葉の「言の心」を心得て、戯れの意味も知る

「秋の野…風情ある野…飽きの野…山ばでは無くなったひら野」「道…帰り道…路…通い路…おんな」「松虫…待つ虫…待つ女の身のうちに棲む虫…松の言の心は女」「宿…言の心は女…やと…家門…おんな」「や…疑問を表す」「からまし…借りればよいのだろう()…適当の意を表す…狩るのだろう()どうしよう…ためらいを表す」「から…かる…借る…狩る・刈る…めとる…まぐあう」「まし…疑問を表す(や)、と共に用いて、迷いやためらいを表す」

 

秋の野で遊び呆け、路にも迷ってしまった、人待つ虫の声する方に、宿借りていいのだろうか。――歌の清げな姿。

山ばのない飽き満ち足りたところで、通い路も、おとこも惑うてしまった、待つおんなの身の虫の声する方に、またも・や門、かるのだろうかどうしよう。――心におかしきところ。

 

飽き過ぎて、厭きのきた男の、夜長に途惑う思いを、表出した歌のようである。

 

(古今和歌集の原文は、新 日本古典文学大系本による)