帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの「古今和歌集」 巻第四 秋歌上 (172) 昨日こそさなへとりしかいつのまに

2017-03-11 19:05:16 | 古典

             

 

                        帯とけの古今和歌集

                ――秘伝となって埋もれた和歌の妖艶なる奥義――

 

古典和歌を、平安時代の紀貫之、藤原公任、清少納言、藤原俊成の歌論と言語観に従って紐解いている。

仮名序の冒頭に「やまと歌は、人の心を種として、よろずの言の葉とぞ成れりける」とあるように、歌は人の心を表出したものである。四季の風物の描写は、その心を寄せるべき「清げな姿」で、歌の主旨や趣旨は人の心である。その「深き旨」は歌言葉の戯れのうちに顕れる。

 

古今和歌集  巻第四 秋歌上 172

 

(題しらず)               (よみ人しらず)

昨日こそ早苗とりしかいつのまに 稲葉そよぎて秋風のふく

                         (詠み人知らず・女の詠んだ歌として聞く)

(昨日よ、早苗採ったのは・田植したのは、いつの間に、稲葉そよいで秋風が吹くことか……木の夫こそ・武樫おとこのみ、さな枝を、取り入れたのに、いつの間に、井な端、微かにそよがせて、厭き風吹く・のよ)。

 

 

歌言葉の「言の心」を心得て、戯れの意味も知る

「きのふ…昨日…木の夫…武樫おとこ…強く堅いおとこ」「こそ…強く指示する…限定する」「さなへ…早苗…さな枝…早な枝…小な枝…おとこ」「さ…早…小…接頭語…美称」「な…の」「へ…え…ゑ…枝…身の枝…おとこ」「とりいれ…採り入れ…取り入れ」「しか…き(の已然形)…した…完了を表す…(とりいれたばかり)なのに…強調して接続する」「稲葉…いなば…井な端…おんな」「そよぎて…戦いで…素通りして…微かなもの音たてて」「秋風…季節風…飽きの心風…心に吹く厭きの風」「ふく…吹くことよ…体言を省略した体言止め、余情がある」。

 

早くも秋の初風が吹く。光陰矢の如し、月日の経つのは早いことよ。――歌の清げな姿。

木の夫こそと・武樫おとこよと、小枝取り入れたのに、いつの間に、井の端微かにそよいだのみ、厭き風ふかせるのよ。――心におかしところ。

 

数カ月であき風吹かせて去る男の心への、早々と厭き風ふかせて逝くおとこの性(さが)への、女の恨み心の歌。


 歌には「清げな姿」あり。おとこのはかない性の誇張表現は「心におかしきところ」。和合ならなかった女の恨めしい心が聞く人の心に伝わる。

 

(古今和歌集の原文は、新 日本古典文学大系本による)