「重要基本事項の深い理解」とは

2015-09-15 11:56:42 | 司法試験関連

「株主の代理人資格を他の株主に限定する定款の有効性」という基本論点があります。そして「弁護士を代理人にした場合、会社は当該定款規定を理由に拒めるか」という論点があります。さて、正解は?

この手の問題は趣旨から考える必要があります。まさか「弁護士は信頼できるので総会をかく乱する恐れもないから会社は拒めない」なんて書いたりしないでしょうね?なら公認会計士は?税理士は?行政書士は?という話になったらどうしましょう。以下の判例を素材に検討してみましょう。

①神戸地尼崎支判平成12年3月28日は、「会社は拒めない」

②宮崎地判平成14年4月25日は、「会社は拒める」

③東京高裁平成22年11月24日は「会社は拒める」

さて困りました。裁判所は一貫性のない判断を繰り返しているのでしょうか。この3つの判例は矛盾しないのだ、ということをどう説明するかです。①は上場会社、②は非公開会社、③は上場会社の例です。①と②だけならまだ上手く説明できそうですが、①と③の説明に窮します。これはどういうことなのでしょうか。

ここで310条の趣旨を考える必要があります。310条は総会における議決権行使の重要性に鑑み、株主が総会で議決権を行使できるような手立てを設けたものです。ここで重要なのは、「議決権を行使できるかどうか」です。上場会社の場合、一般的に株主相互の関係が希薄なので、他の株主を探し出して代理人になってもらうのは困難である、とされています。そこで、上場会社では代理人を弁護士にしても、「総会を混乱させる恐れも」ないから、という理由を付け足して、会社は拒めないとされます。それが①判例です。

非公開会社は、株主相互の関係がタイトであることが多いので、逆になります。それが②判例です。因みに②は「弁護士が総会をかく乱する恐れがないからといって入場を許さなければならないとする理由にはならない」と述べています。重要なのは、「株主が議決権を行使する機会が保証されているかどうか」であって、「総会をかく乱する恐れがあるのかないのか」は、あくまでも2次的な理由でしかないという点です。

では③はどうでしょう。実はこの事例では、本人である会社の代表者や従業員が総会に出席していた、という事実がミソです。弁護士を代理人として認めなければ、「議決権行使の機会を事実上奪われる」という関係になかったのです。そこで会社は拒める、という判断したものと思われます。

こうしてみると、弁護士は信頼できるどうこうは、各事例において後付け的に引用されているだけであることがわかります。何故なら310条は、議決権行使の機会を保証するための制度であって、代理人が信頼できるかどうかを1次的に問題にしている制度ではないからです。

まぁ、以上は説明の仕方の一例ですが、本番においては、このような制度趣旨から考える、という姿勢がとても大切なのです。「重要基本事項の深い理解」のイメージが少しは持てたでしょうか。以上は、先日入門講義の商法でお話したことです。

Comment
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする