契約準備段階の過失

2014-12-05 16:58:41 | 司法試験関連

第1類型

 交渉破棄型 

一方の当事者が契約の成立を期待して出損したのに契約が締結されず,そのため出損が無駄になるケース

第2類型

 契約無効型

 契約締結当時既に目的物が滅失していた(原始的不能),相手方錯誤の為契約が無効になったようなケース。

第3類型

 契約有効型

 契約は有効に成立したが,交渉の際の説明や情報提供に不十分・不適切な点があり,当事者の一方が有していた期待と実際とが食い違うケース

 第1類型

契約自由の原則 → 契約する義務は無い=締結しなくても法的責任を問われない。

例外 → 責任が認められる場合

① 一方の当事者が相手方に締約の可能性ないし蓋然性につき誤信を惹起した場合(誤信惹起型)。

② 相手方に締約は確実であるとの信頼を惹起しながら(惹起時点では誤信は無い),後に交渉を破棄した場合(信頼裏切り型)

①の場合は,帰責の根拠は誤信の惹起(説明義務違反)。契約自由の原則との対立は避けうる。しかし②の場合は,帰責根拠は交渉破棄自体に求めざるをえないため,原則との抵触が問題となる。

・「契約の熟度」アプローチ。個々の契約事項につき,個別的・暫定的な合意を積み重ね,契約が成熟していく過程である,とういう点に着目する。

・交渉の途中で結ばれた合意そのものから一定の義務が生じうることを示唆する判例。

 → 最決平成16年8月30日。

 ・単純な2当事者間交渉でなく,多数の当事者が関わる,より複雑な交渉に関する判例。

 → 最判平成18年9月4日(建築工事の施主が直接の相手方である施行業者ある施行業者ではなく,施行業者の下請業者と直接交渉して準備作業をさせた後,建築計画そのものを中止。施主の責任肯定)。

   最判平成19年2月27日(順次販売である為,売主と買主の契約が買主と転買主の契約の成否にかかっており,売主もそれを知りつつ,準備作業をした後,転買主が契約を拒絶。転買主の責任肯定)。

 第2類型

実例も乏しく,今日あまり議論されていない。

 第3類型

消費者契約法制定の原動力.錯誤,詐欺,脅迫,瑕疵担保責任,公序良俗など様々な論点が交錯する。

 <最判平成17年9月16日 百選Ⅱ4事件>

(1)ア 前記1の事実関係によれば,本件防火戸は,火災に際し,防火設備の一つとして極めて重要な役割を果たし得るものであることが明らかであるところ,被上告人Y1から委託を受けて本件売買契約の締結手続をした被上告人Y2は,本件防火戸の電源スイッチが,一見してそれとは分かりにくい場所に設置されていたにもかかわらず,A又は上告人に対して何らの説明をせず,Aは,上記電源スイッチが切られた状態で802号室の引渡しを受け,そのままの状態で居住を開始したため,本件防火戸は,本件火災時に作動しなかったというのである。

イ また,記録によれば,(ア)被上告人Y2は,被上告人Y1による各種不動産の販売等に関する代理業務等を行うために,被上告人Y1の全額出資の下に設立された会社であり,被上告人Y1から委託を受け,その販売する不動産について,宅地建物取引業者として取引仲介業務を行うだけでなく,被上告人Y1に代わり,又は被上告人Y1と共に,購入希望者に対する勧誘,説明等から引渡しに至るまで販売に関する一切の事務を行っていること,(イ)被上告人Y2は,802号室についても,売主である被上告人Y1から委託を受け,本件売買契約の締結手続をしたにとどまらず,Aに対する引渡しを含めた一切の販売に関する事務を行ったこと,(ウ)Aは,上記のような被上告人Y2の実績や専門性等を信頼し,被上告人Y2から説明等を受けた上で,802号室を購入したことがうかがわれる。

ウ 上記アの事実関係に照らすと,被上告人Y1には,Aに対し,少なくとも,本件売買契約上の付随義務として,上記電源スイッチの位置,操作方法等について説明すべき義務があったと解されるところ,上記イの事実関係が認められるものとすれば,宅地建物取引業者である被上告人Y2は,その業務において密接な関係にある被上告人Y1から委託を受け,被上告人Y1と一体となって,本件売買契約の締結手続のほか,802号室の販売に関し,Aに対する引渡しを含めた一切の事務を行い,Aにおいても,被上告人Y2を上記販売に係る事務を行う者として信頼した上で,本件売買契約を締結して802号室の引渡しを受けたこととなるのであるから,このような事情の下においては,被上告人Y2には信義則上,被上告人Y1の上記義務と同様の義務があったと解すべきであり,その義務違反によりAが損害を被った場合には,被上告人Y2は,Aに対し,不法行為による損害賠償義務を負うものというべきである。

 Y2との間には委託関係が無い=契約関係は無い。債務不履行責任は問題にならない。不法行為責任の問題になる。

「全額出資の子会社」

→ Y1とY2の強固な結びつきの徴表。全額出資子会社に限定する趣旨ではない。「同程度に密接である」と評価しうる関係があればよいであろう。

説明義務の対象の性質

→ ①契約を締結するか否かに関する事項に関する説明義務ではなく,②契約の目的を円滑に達成しうるか否かに関する事項に関する説明義務の事例という特殊性。しかも説明義務の内容は,買主の生命に係わる説明義務である。

 専門家責任

→ 売主が素人であったらどうか。買主の生命に係わるものであっても,上記②に説明義務を売主が一般的に負うとは言えないであろう。この場合に仲介した宅建業者に②に関する説明義務が生じるかどうかは,本判決からは出てこない。

  本判決は,「売主の」説明義務を「前提」として,「同様の」説明義務を宅建業者が負う,というロジックだからである。

→ 業者の「専門性」を強調すれば,売主が説明義務を負わない時にも,宅建業者が②に関する説明義務を負う,と解することもできそうである。しかし理由付けは別途考える必要がある。

  例:事業者が高度な専門的知識を有し,顧客がそのような事業者を信頼してその提供する説明に従って契約を締結せざるを得ないことを説明義務の根拠にする。この場合,事実の評価として,顧客の事業者に対する強い「信頼」を認定していく必要がある。

*  Y2をY1の履行補助者として構成する手もある。この場合,Y1の債務不履行責任の追及という形になる。もっとも履行補助者たるY2自身も同時に不法行為に基づく損害賠償責任を負う可能性があるので注意。債務者の債務不履行責任(損害賠償責任)と,履行補助者自身の不法行為責任(損害賠償責任)は不真正連帯債務の関係になる。

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