『ソウルボート航海記』 by 遊田玉彦(ゆうでん・たまひこ)

私たちは、どこから来てどこへゆくのか?    ゆうでん流ブログ・マガジン(エッセイ・旅行記・小説etc)

日はまた昇る

2011年12月26日 21時52分43秒 | 短編エトセトラ
いちばん古い記憶は何ですか? 覚えている風景でも、声でも、あるいは匂いかも。自分でいちばん遠い記憶は、なに?

朝もやか、夕霧かもしれない。あたりは白くもやり、そこに一本のレールだけがみえる。砂利を歩いている。歩くたびに、石がザクリザクリとして、足がふらふら足首がねじくれてとても嫌な感じだ。

母が手を引いている。それがヨチヨチ歩かせている。やがて、線路がすけて、ずっと下に青い水がゴーゴー流れている。レールを跨ぎ跨ぎ、進むが、もうその先へ行く気力がうせて、母はまた来たほうへ恐る恐るもどって行った。

やがて、白やむ世界が明るくなり、空ににじむ日が昇っていた。そのあとにつづく記憶はなく、そこでぷつりと消えている。

その様子が景色のように背後からみえるのが、微かになぜか記憶に残っている。あれはいつのことなのか、不明の、ほんとうだったのか、幼児の夢だったのか、それもよくわからないが、いちばん古い記憶としてぼくのなかに在る。

いつか、それを話してみたが、あんたがみた、やっぱり夢だったのだろうと、母が静かに笑った。