『ソウルボート航海記』 by 遊田玉彦(ゆうでん・たまひこ)

私たちは、どこから来てどこへゆくのか?    ゆうでん流ブログ・マガジン(エッセイ・旅行記・小説etc)

サイレント・ボイス

2011年06月28日 23時55分42秒 | 航海日誌
そろそろわたしの声も涸れてきました。
なんじゃかんじゃと書いてきましたが。
言葉は言葉でしかないのです。
文字を書く物として、それをいっちゃあおしまいよの。

でも、われわれ人というのは、かなり言葉のやりとりで、どうのこうのと
やっておりますから、使えないわけではない。

サイレント・ボイス。

そういう言葉があるじゃないか。

無言の饒舌。

そうなんだろう。きっとと、わたしはわたしに打ち明ける。


ゆるむ酒

2011年06月27日 23時25分30秒 | 航海日誌
今夜は久しぶりに泡盛を飲みました。身体とこころを緩めようと思いまして。精神を尖らせて、シャッチョコバッテいても、何もならないどころか、自分という空のひとときを消失して、あわやのところへ落ちてゆくばかり。そう想い、ゆるむ酒の泡盛です。ああ、人間だな。やっぱり人間おもしろいな。

世界の嘘の隠し柱

2011年06月26日 19時48分50秒 | 歴史の断層
この世界を見回してみて、世界が見えることはありません。でも、地球上に有る国々を総称して、世界と呼んでいる。その中の日本と呼ばれる国の、私であれば東京に住んでいて、世界の一員と思っています。

その世界には約68億人の人間が住んでいる。ということは、その68億人が思う世界があるということです。アフリカのサバンナに住む人には、小さな村から見た世界があるでしょうし、マンハッタンに住む人にはビルの谷間から見る世界がある。

だから、世界といっても、人にとって同じものは存在しない。ただ、何となく陸地と海が広がる地球という遠大な環境があるのだろうという感覚があるだけです。世界は広いといえば、地球エリアのことですし、世界は狭いといえば、自分が生きている限定された居住地の中でも心理的な感覚です。我々は自然環境的な世界と、社会的な世界の二つの間に生きている。

ところが、地球規模でいやがおうでも共有しなければならないものがあります。それは「マネー」です。今やアマゾンの奥地でもお金は流通しているわけで、コーラを飲んでTシャツを着ている少数民族の姿が見られます。

お金は世界共通の価値を持って人間界を席巻しています。1日に100円で生活している人もいれば、1万円の人もいる。毎夜、高級クラブで何十万円も使う人もいる。一切れのパンも食べられない人もいる。住むエリアにより、人それぞれですが、常にお金が介在しています。

さて、「世界の嘘の隠し柱」とは何か?

答えは、お金です。

しかし、お金はもう何千年もの昔からあって、誰でも当たり前に知っていることなのに、なぜ、嘘の隠し柱と言うのか?

はい。そうです。誰でも知っているから、嘘の隠し柱になっているのです。そこがミソです。知っていると思っているから、隠せるのです。

みなさんは、お金を借りれば、当たり前に利子を払うものと思っていますよね。また、貸し付ければ金利が付くと思いますよね。お金がお金を生むシステムは当然のことと考えている。何の疑う余地もない。

それがお金のシステムによるマインドコントロールです。

このシステムが誕生したのは、およそ500年前の今のドイツのフランクフルトの町でした。金の預かり屋(国王や貴族を相手に金銀などの財産を保管して手数料を取る)という職業があり、異教徒であるユダヤ人だけが就くことを許されていました。お金から利を取る仕事は忌まわしいものとして禁じられていたのです。

この金の預かり屋がやがてグループとなって金融業を拡大していきます。貸し付けをする銀行業の始まりです。彼らは何の資本もなく、金を預かるだけで利子が利子を生み、巨万の富みを築いていきました。すでにご存じの方もいる話です。その中心にいるのが金融王ロスチャイルド家(白人ユダヤ系)でした。彼らは当時のどの小国家よりも金を持ち、国家を超えて思うままに操る力を持っていました。戦争を仕掛けさせ、戦争がさらに金利を生み、想像遙かに超える富みをふくらませました。おそらく、世界の半分の富みは彼らのものではないかと思います。もっとかも知れません。

さて、世界を劇場と想像すれば、議会は踊り、その舞台裏で金融がコントロールされている景色が見えてきます。20世紀、ハイドパーク会談でルーズベルトとチャーチルが「原爆は日本人には使っていいな」と語り合って合意した影には、誰がいたのか。誰もいません。そうせよと具体的な指示など出すこともなく、時代の流れの中にそうせよというサイレント・ボイスがある。今、大問題になっている日本の54基の原発もなぜ建設されたのか。これも根っ子は同じです。巨額の金が動くからです。生命にとって危険極まりないものであっても、作って使ってしまうのは、金の力ゆえです。

議会や産業界のトップにいれば、そのサイレント・ボイスが聞こえるのでしょう。その声は舞台裏の隠し柱から流れてくるのです。われわれのような一般市民には聞こえることのない声です。だから、世界の隠し柱なのです。この柱で世界が支えられ、この柱が無ければ世界は一変することでしょう。500年続いている世界とは、このような金融の世界なのです。未だ、この頑強なマインドコントロールは解かれたことがありません。

お金がなければ、幸せになれない・・・

今の世界は、ほんとうにそうなのです。
我々、日本人にとっては、近代この100年くらいの拝金主義的生活の呪縛です。生まれて来たら、すでに利子がついて回り、サラリーマンが一生働いて2億円そこそこです。厳密に収支をみればマイナスなのですが、僅かでも不労所得があればプラスに転じるかもしれません。不労所得というのは何らかの投資の利ざやからもたらされるので、これこそ金融システムからのおこぼれです。お金がなければ幸せになれないのですから、利子が得られるシステムに加わらなければならない。そうした「ラット・ゲーム」(ネズミがぐるぐる回る輪)でもがきながら、結局は、利子(ローン)を払い続けるのが、多くの庶民の生活というものです。

それでも頑張って働けば、お金が得られて幸せになれるのか・・・

いえ。なれません。

では、どうすれば?

この金融システムに繰り込まれている、(利子を払うばかりの人々)は、ネズミのぐるぐる輪から出ることが出来ないと、ロバート・キヨサキが「金持ち父さん 貧乏父さん」という本で明かしています。では、どうすれば? 悪いことと知りながら、知らんぷりをして、金融システムに加担する経済活動に積極的に参加すれば、おこぼれが多少は増えて、財産持ちになれるでしょう。しかし、心の底では悪いことと知っているのですから、心を満たすことが出来ない。悪銭身に付かず。さらなる投資ビジネスへのめり込んでいって、「金は汚く儲けて、きれいに使え」とも。それで少しはバランスが取れるということです。

金持ちの金は、庶民からもたらされた利子からのフローマネーなのです。金持ちの金は、みなさんの血と汗の賜物だということです。なぜ、そうなるのか。金融システムには最初から、「無いはずの利子」が組み込まれているからです。それが不労所得と呼ばれる本来の意味なのです。つまり、金融工学が生み出した、錬金術の正体です。ほんとうに人々の血と汗が、お金に化けているということを知ってほしいと思います。そして、言明すれば、我々庶民はその世界への道を閉ざされているということです。ですから、お金で幸せはやって来ないことになっているのです。これが、「世界の嘘の隠し柱」というものなのです。

最後に。日銀は資本金が1億円の株式会社なのだそうですが、紙幣発行をして国に売って儲けている企業です。貨幣(玉銭)は国が発行するのに、なぜ、紙幣は日銀が刷る必要があるのか、その理由が私にもよくわかりません。法律上の紙幣発行権は国にあるとされるのに、国が刷れば税金を使って紙幣を買い取る必要もないのに? たぶん、欧米のやり方に沿って、国際ルールに従って明治政府がそうしたのでしょうが、これも世界の金融システムだということです。

つまり、国がお金を動かしているのではない。国際金融グループが、国の看板を使って儲けているのではないか。そうとしか思えません。その意味で、国家というものは幻想なのかも知れません。あるいは偽装かも。この国でいえば、100年の計が、この今の姿だったのでしょうか。私は、明治政府というものを奇麗事でみることができなくなって久しいのです。欧米列強に取り囲まれ、仕方なくであっても、大和魂を売った連中がいるということです。それが未だに政府・官僚・企業体の中で続いていると思えば、今起こっている不条理が、理解できます。なぜ、迅速に東北の被災者を救えないのか。放射能を放出する原発処理がおこなえないのか。おかしい事だらけの世の中が透きとおって見えます。

みんなお金のせいなのね~

言ってしまえば、単純な話です。オチにもなりませんね。

(時間のある日曜日に、コツコツ書いてみましたが、その実感が伝わるように書くことの難しさを感じています。世界最大のマインドコントロールなのですから、簡単なわけがないですね。それでも誤解を恐れずに書いてみました)


ドリーマー20XX年 12章

2011年06月25日 13時35分55秒 | 近未来長編小説『ドリーマー20XX年』
【あらすじ】
新宿で働く安サラリーマン、山田一雄45歳。将来の希望などさしたるものもない独身暮らし。楽しみといえば給料日に歌舞伎町のキャパクラへ行くことぐらいだった。この男がある日、奇妙な夢を見始める。白髭の老人との対話の末に、夢旅行へ誘われ、時空を超えた旅が始まる。やがて辿り着いた世界は、20XX年の新宿だった。

(右下の欄のカテゴリーで、1章から順にお読みください)
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~~12~~


 香織から国家安全保障局情報部の話を聞いた夜、洋介は興奮醒めやらぬ明け方、布団をそっと抜け出し、トイレの中から吉川へ携帯モバイルで極秘メールを送信した。この回線で発信したのは初めてのことだったが、数分後に返信メールが届いた。極秘メールが入った場合、受信者にすぐにわかるようになっていた。

――いいわ。残念だけど明日のデートは中止ね。あなたの思うようにして。そうそうそう。南風がきもちいいのよ。でも北も東も風が吹いたら風邪ひいちゃう。薬を飲んで早く寝るのがいいわ。でもね、決まった薬を選んで。薬局もいろいろ。約束よ。またメールするね。ミナミより

 洋介が送ったメール文も女言葉だったように、それに帰ってきたものもそうで、しかも何のことだか第三者にはワケがわからない内容になっていた。それを翻訳すれば、こうなる。

――了解。明日の地下会議は中止だ。そちらの提案通り行動すること。非常事態レベル3。公園村南側出入り口(波多野ビル)のみ使用。あとの出入り口はすべて封鎖。次の指令があるまで近づくな。私からの指令以外は信用しないこと。次の連絡を待て。

 朝九時になり、土曜日にもかかわらず香織は都庁へ出かけた。昨夜、メンバーたちの検挙の日が迫っているのだと言ったが、それが何日のことなのかまでは明かさなかった。週明けの月曜日なのかもしれなかった。

洋介は香織が出かけた一時間後に早稲田のマンションを出て新宿方面へ向かった。吉川からの指令メールが入ったからだ。

 大久保通りから裏道へ入り、静かな住宅街を抜け、戸山団地の手前で昭和四〇年代に建てられた古びた波多野ビルの地下駐車場へ素早く身を入れ、コンクリート柱の陰で三分間ジッとしていた。辺りに一切の気配がないことを確かめ、次の柱まで行き、薄暗い鉄の扉を開けて中に入った。そこはボイラー室で、奥の壁に大きな二つのスチール棚があり、ビルの清掃機材やメンテナンス道具が置かれていた。その棚と棚の隙間に身を入れると洋介の姿が消えた。

 この古いビルは吉川が歌舞伎町で風俗店を開いていた時代、馴染みの常連客だったIT関連の会社を経営する男の持ち物だった。それが初めて洋介が地下基地へ案内され、司令室で会った一人、高野隆こと多田和彦ゼロゼロKTである。彼は普段このビルの最上階に住んでいるのだ。地下基地のコンピュータシステムも高野隆が構築したもので、国防省のシステムへも進入できるハッカーの腕前を持っていると聞いていた。

 洋介がスチール棚の奥へ消え、長い地下トンネルを歩いていると、うしろから高野隆が追いかけてきた。
「どうした。ここから入って来るなんてさ」
「吉川さんから聞いてませんか?」
「いや、おれも呼び出されたばかりで」
「緊急会議で報告しますから」
「いよいよか!」と、高野が緊張まじりの声でいい、さらに足早になった。二人の靴音が、アーチ状に組まれたレンガトンネルに響いていた。

 旧日本軍が築いたこのトンネルは東京駅地下構内ほども深く長い。途中に何カ所か鉄扉があり、迷路のような構造になっていた。侵入者はぐるぐると同じところを回ることになる。だから、初めて入った洋介も、携帯モバイルの地図を見なければ司令室へ辿り着くことはできないのだ。今は高野の後を付いていけばよかったから素早く司令室まで辿り着くことができた。

 最後の扉で高野が錆びた扉に向かって携帯モバイルをかざして鍵を解除すると、なかの明かりが眩しいほどに感じられた。
 すでに集まっていたドリーマーたちを前にして吉川が話を初めていた。
「待っていたぞ。石井君、詳しく話してくれ」

 洋介がコップの水を勢い飲むと、おもむろに口を開いた。
「昨夜のことです。僕がマンションに戻ると香織が情報部について話をしました。先日、僕が闇酒場で河口さんと密会していたことを知っていました。闇米事件に真理恵さんが絡んでいるといいました。さらに」
 洋介がそこまで言って水を飲んだ。吉川が口を挟んだ。
「落ち着いて。聞いたことをはしょらず報告してくれ」
「はい。闇酒場は情報交換の場と睨み、闇米が組織の資金源になっているのを追っていると言いました。僕が真理恵さんと闇酒場で接触をしたことも知っていました。ですが、僕はあくまでも配給班チーフとして闇米問題の情報提供者と会うという話を工藤にしてありました。組織のメンバーの数や構成員の人数もおおむね把握しているようでした。これらの動きを調べ近々一気に検挙するのだと。しかし、それがいつなのかは聞き出せませんでした。感じだと週明けすぐかもしれません。ただ」
「何だね」吉川の口調がいつになく堅い。
「僕が組織のメンバーであることはまだバレテいないようです」
「もちろんそうでなくては困る」
「だからこの僕が国家安全保障局の情報部員になって潜入捜査をするよう要請されました」
「そうか」と吉川がいい、思案する仕草のあと言った「では、二重スパイとしてそうしてもらおうか。皆はどう考えるか意見を聞きたい」

 数秒の間があり、真理恵が口を開いた。
「危険過ぎませんか。情報部員になればマインドコントロールが」
「その心配はある」と吉川が言った。「だが事態がここまで来ていれば情報部がこちらをどこまで掌握しているかを知る必要がある。一斉検挙が実行されればすべての計画が頓挫する」
 高野隆が挙手をして、「二重スパイは重責です。彼には逆マインドコントロールを掛けておくしかないでしょう。そのシステムはすぐに準備できますが」そう言い、洋介の顔を見た。
 わたしにも洋介にも、その逆マインドコントロールというものの意味がわからないでいた。

 洋介が質問した。
「ちょっと説明してもらえますか?」
 高野がしゃべろうとするのを吉川が制して話した。
「これはドリーマーにしか使えないものだが、つまり石井君が情報部のマインドコントロールを掛けられても、そのように行動しないためには山田一雄ゼロゼロKYがこちらのマインドコントロール状態にあれば対抗できるということだ」

 そう聞いても、わたしにも洋介にも意味がよく理解できなかった。
「どうなろうと構いませんから掛けてください。僕は平気です」
「石井君の身体の中で闘いが始まることになるがそれに耐えられるか。と言ってもその状態を経験していない者には理解できないと思うが」
「僕もドリーマーです! やるだけやります」
 勢い言った洋介に真理恵が不安げなまなざしを向けた。
――あの苦しさ・・・なってみないとわかりっこない・・・

 別室で高野隆がシステムの点検をしている。ベッドの横にコンピューターモニターと心電図があり、何本もの配線が伸びていて、まるでこれから脳外科の手術でも行われるかのような物々しさだ。隣の部屋で洋介が吉川から一通りの説明を受けている。しかしそれは洋介にではなく、山田一雄ゼロゼロKYに向けられたものである。

「ドリーマーは心の中で互いにポジションをコントロールできるが、それはふつうの精神でいる場合だ。しかし一方が別の人格になった場合それまでのようにはいかなくなる。そこまでは理解できるね」
「はい。今はバランスできていますがそれが違ってくるんですね」
「石井君が情報部員としてマインドコントロール下になった場合、例えばこの私であっても撃ち殺すことができる。それを阻止するには山田さんが対抗するだけの強いマインドコントロール下になければならない。今の山田さんの精神では持たないのだ。ただ、身体の中で起こることだから相当に苦しむことになる。正直に言っておこう。その辛さで気が狂うこともあり得る」

 洋介は一昨日、区役所特別室で杉山が悶絶したのを思い返した。真理恵、いや葉子が杉山の中で戦ったのだ。
「覚悟できてます。マインドコントロールしてください」
「よし。では隣の部屋へ入って」

 吉川がドアを開けると、白衣を着た高野が洋介をベッドへうながした。上着とTシャツを脱ぎ、上半身をさらすと、洋介の鍛えられた大胸筋が大きく波打っていた。高野が慣れた手つきでその胸に心電図に繋いだセンサーを当て、絆創膏で貼り付けた。頭には、幾つものコードが繋がったヘッドギアがかぶせられた、目には3D画像が映されるグラスが当てられた。

「では、これからシステムを作動させますが説明をよく聞いてください」高野の声が聞こえた。
「はい」
「注射しますがこれは石井君に眠ってもらうためのものです。山田さんは意識を集中してこのボディいっぱいに広がってください。つまり石井君そのものになってください。いいですか」
 わたしは「はい」とだけ返事した。針を刺されると洋介が、ぴくりと腕を緊張させ、やがて静かになった。

 洋介の身体一杯に意識を拡張し、洋介そのものになった。それを確かめるために手を動かし、拳を握ったり開いたりしてみた。足の指も動かしてみた。完璧にわたしの感覚になっていた。石井洋介の身体をこれほど支配したことはなかった。この世界の住人としてたった今生まれたばかりのような鮮烈な感覚だった。そして、こんな状態でおかしなことだが、猛烈な性欲を覚えたのだ。目は覆われているので何も見えないが、香織と繋がった感覚が身体じゅうにみなぎっていた。
「あ、あの、変です」
「それでいいんです」と高野が言った。「今、石井君は脳内ホルモンを分泌していて快楽の最中でその影響ですよ」
「そう、なんで、すか。いやこれ、まいったな」

 また、声が聞こえた。
「人間が何に弱いと思いますか。食欲と性欲、睡眠です。地位や名誉などは二の次ですよ」
「なる、ほ、ど」
 余りの快感に気がおかしくなりそうなのだ。これはわたしの経験上にほとんどなかった感覚だから余計にだ。

 と、脳内が何かに遮断され、ぷっつりと中枢神経から快感が消え去った。
「この状態から一度、ゼロの間へ入ってもらいます。はいリラックスして、呼吸をゆっくり吸って、はい、吐いて・・・」
 真っ白な空間に居た。ゼロの間だ。しかし、そこにあのM師の顔はなかった。代わりに白衣を着た高野隆が立っていた。
「ようこそバーチャル世界へ」
 わたしは「お世話になります」と言い、「お手柔らかに」と頭を下げた。
「ドリーマーなら慣れていると思いますがね、ここからマインドコントロールの部屋へ一人で行ってもらいますんでね。そこがこれからのあなたさんの現実ですから。でもね、仕事が終わったら解いてあげるんで心配ご無用」
 ああー、と叫んでわたしはどこかへ飛ばされた。

 時間経過はまったく不明だが、帰ってきたわたしは自分がプラトンかソクラテスの頭を持ったスパルタンのようになっていた。どんな言論も受け付けず、またどんな強敵にも平気な精神を宿していた。人というのはこれほどまでに心身共に強靱になれるものなのかというほどだ。こんなに自信がみなぎるのなら、このままでもいいくらいである。

「お帰り。どう調子は?」
「万全だ」
「それは良かった」
「君はハッカーが自慢だそうだが所詮は電気箱の遊びだろう。人間は肉体も完璧でなければ半端物に過ぎん」
「成功したようだな、よしよし。そろそろ石井君もお目覚めだな」
 ベッドに横たわったプラトン&スパルタンなわたしは上半身を起こし、腹が減ったと告げた。
「ステーキでも食わせろ。五〇〇グラムで肉汁したたるくらいのレアがいい」
「はいはい今出してあげますからそれ食べて寝てくださいな」高野がそう言い、機械のスイッチを入れた。

 途端にわたしの意識が遠のき、洋介が目覚めた。
「石井君、聞こえるか」吉川の声だった。
「ええ、なんかスッキリしてます。ゼロゼロKYは寝ちゃってますね」
「そうだ。指令信号を送れば必要なときに起きる。もう彼は完璧にマインドコントロール下にあるからな」
「では、すぐにマンションに帰って香織に情報部員のこと承諾します」
「頼む。これだけはよく覚えておくように。絶対絶命のピンチになった場合のみ君の中でゼロゼロKYが起きて君の行動を阻止するということを」
「はい承知しています」
「よし。では行ってくれ!」

              ○○○

 マンションに手荷物を抱えて香織が帰って来たのは十一時をまわってからだった。そのキャスター付きのケースには、コーヒーにクッキー、チョコレートや缶詰類、タバコや酒にワインまであり、ひと通りの配給品が詰まっていた。香織は、サンプルが支給されたのだと説明した。

「ねえ、洋介だったらどれが欲しい?」
「酒だな」
「じゃ、ワイン飲む?」
「いいのか?」
「ええ、公園村で配る配給品は庁舎にいっぱいあるわ」
「じゃあ飲もう」
「でもその前に聞いておかなきゃ。どうするの?」
「ああ例の話だね。もちろんお願いするよ。正式に情報部員になれれば君と一緒に働ける。願ったりだ」
 香織の表情が明るくなり、洋介に抱きついた。「そう言ってくれて安心したわ。もしもあなたが秘密組織だったらって」と言った。
「そんなわけないだろう。月曜に都庁へ行くよ」
「ええ、杉山課長に頼んであるから」

 ワインの味はもう何年ぶりのことか。赤い液体が喉に流れ、胃に下りていくのさえわかる。なみなみと注いだワイングラスから立ちのぼる魅惑的な香りが洋介と香織の心を溶かさんばかりだった。サンプルの二本とも空にして二人は酔いしれ、そのまま床で愛し合った。洋介にはこの日、二度目だった。一度目はマインドコントロール下のバーチャル世界での出来事ではあった。若い肉体どうしの性交はエネルギーの爆発である。人が生きていることを実感する行為の最大級のものと言ってもいいだろう。ただ、このときのわたしはマインドコントロール下で、眠りについていたのでその感覚を共有できなかったのが残念である。

 もっとも今はそれどころの事態ではなかった。明日は都庁へ行き、洋介はやつらのマインドコントロール下に置かれるのである。高野隆の解説によれば、香織が段階的に受けているような生やさしいものではなく、感情を支配する戦闘員レベルであると思われた。公園村配給チーフ石井洋介は、彼らの完全な支配下に置かれるのだ。その覚悟はすでに洋介にも出来ているはずだった。

「ねえ、香織」
「なあに」
「したい」
「もうダメ、私身体がふらふら」
「我慢できなんだ」

 洋介の欲情は今までにないものに変化していた。明日、どんな事になるのか、その張り詰めた感情が性欲を異常なほど高めていた。かつての戦争で戦闘員が慰安婦を求めたのは日常の風俗通いとはワケが違う。死と隣り合わせになった男たちはその刹那、命のあらん限り女を求めたのだ。それと今の洋介は同じだった。香織には到底、理解できない情動だが、求められるまま洋介を受け入れた。

 ベッドの中で泥のように眠っていた洋介が起き出したときには、香織は鼻歌まじりでシャワーを浴びていた。マンションを出るまで、あと三〇分ほどだったが香織に焦りはないようだった。洋介が布団から飛び出し、バス室へ忍び込もうとすると入れ替わりに香織が出て、急いでと真顔で言って自分は寝室のミラーで顔を整え始めた。この時代の香織はまだ唇に紅を引き、自分が女であることを自然にふるまえる感性があった。

 ふたりは九時五分前には都庁二三階の情報部第二課のフロアに立っていた。杉山泰子がスーツ姿の洋介を見て、「工藤さんから話は聞いているわね。これから面接でいくつか質問に答えてもらいますよ」と言いながら部屋の奥の扉へうながした。

 杉山と香織が中に入り、洋介が続いた。会議テーブルには山本邦彦本部長と初見の男の顔があった。その四人が並ぶテーブルを前にして洋介が座り、杉山が口を開いた。
「石井さんの職務は公園村配給班チーフですね」と聞くまでもないところから質問を始めた「その立場のままでいながら当局の職務を兼任してもらいます」
「その職務というのをご説明いただきたいのですが」
「その前に質問があります」
「はい」
「率直に聞きます。河口真理恵は闇米犯の一味ですか?」杉山は、洋介に闇酒場で接触したときの情報を話せと言っているのだ。
「五〇パーセントはそうだと思います」
「半分の意味は?」
「使われているということです。課長の前川正太郎に。ふたりは関係を持っていて河口を調理係として採用したのも前川のようです。少量の米を盗んではいるようですが、ただ前川が闇米ルートに関わっているのかどうかはわかりません」

 真理恵から聞き知った情報は提供することに決めてあった。これで前川はもう現職に復帰することは叶わないだろう。
「今の話は河口真理恵から聞いたことですね」
「そうです。配給班チーフの立場にある私が疑われる可能性を案じたので河口を責め、口を割らせました。前川から身体を強要されて米ももらっていると話しました。河口は職を失うことを恐れていて、このことは秘密にしてほしいと私に懇願しました。すぐに工藤さんに話すべきでしたが区役所特別室での事故があり報告が遅れてしまいました」

 洋介はそこまでをしゃべると一気に胸のつかえが下りたように感じた。確かに、今話したことも極秘事項に含まれるものだったが、時には相手にリークすることで事態を変化させることも必要なのだ。

「前川課長が米を盗んでいることは知っていましたが、その程度のことは問題ではありません。それより河口が組織員ではないかという問題が重要ですから。公園村に現れる幽霊騒動を調査しましたが河口真理恵と一致しませんでしたのであれは別の女と思われますが。幽霊の噂が流れていますけど石井さんはご存じでしょう?」
「ええ、御苑村でも聞いて戸山にも出るんだという話ですね」
「噂など信じてるわけではないでしょう?」
「噂があるというだけの話だと思います」洋介がきっぱりと言った。
「そう。では本題に入ります。配給班チーフの立場で潜入捜査員になってもらいます。それがあなたの職務です。それには訓練が必要となります。ただし時間がないので機械に頼る部分が大きくなります。まず、その承諾を」
「機械ですか。それは?」
「基本的にはここの情報部員が受けているものですが潜入捜査員の場合は短期間でシステム移入をしますから多少の苦痛を伴うことになりますよ。いいですか?」念を押すように言った。
「潜入捜査ですか。僕にできることでしょうか」
「そのためのシステム移入です」杉山は一言もマインドコントロールという言葉は使わなかった。

 杉山が時間がないというのは本当で、洋介が会議室で書類に承諾サインを入れると、休憩後の午後一時から地下ラボで取りかかると伝えられた。昼食は抜きということで栄養ドリンクだけが与えられた。香織は洋介のそばに付き添っていたいはずたが「がんばってね」とだけ言って二三階の部屋に入り、それきり姿を現さなかった。

 杉山が付き添い、エレベーターで三〇階から地下三階へ下り、若い担当医師に引き合わせた。診察室で一通りの検査をすませ、システムルームの中ですでに洋介は裸になって白いベッドに横たわっている。大きなスキャナーが頭に覆いかぶされる準備が整っていた。
 その部屋の外のコントロール室で杉山が若い医師に向かって「予定どおりレベル5で」と言い、「午後四時までに完了するように」と命令口調で言った。
「三時間ですか。かなりハイスピードになりますが」
「今回は特別よ。とくにこの捜査員は体力も気力もあるから耐えられるはず。ダメだっら仕方ないわね私が責任を取るから」
 そう言って杉山の表情がサディスティックなものに変わり、すぐに無表情に戻っていた。

              ○○○

 午後五時には洋介は三〇階の杉山の部屋にいた。
「思った以上にタフね」
「はい。ずっとトレーニングを欠かしませんでしたので」洋介の口調は淡々としたものに変化している。「杉山課長の指示を待ちます」
「明日、戸山公園村で配給が終わった後も吉川の行動を監視して。彼らは近辺に隠れ家を持っているはず。そこがどこか調べるのよ」
「はい。必ず見つけます」
 杉山が手にしていたボイス機器から口は外し、洋介の耳から超小型マイクロフォンを取り除いた。それから今度は直接、洋介に話した。
「ねえ、君は何でも私の言うこと聞くわよね」
「はい」
「じゃあ、そこに跪いて私の靴をお舐め」
 洋介は躊躇もせず言われたように行動した。四つんばいになり、やめろと制するまで黒いヒールの先をぺちゃぺちゃと舌を鳴らせて舐め続けた。
「完璧ね」

 杉山はさらにあらぬ行為を想像したが、それは止した。この部屋の様子はモニタリングされているのだ。杉山は山本本部長の管理下にあり、彼の命令があれば、その場で洋介を殺害することも辞さない。国家安全保障局の人間は誰もがマインドコントロール下にあるといえた。
 ただし、それは個人感情を消し去るほどのものではない。現場での判断は個人に任されている。完全なマインドコントロールは組織活動を麻痺させ、機能不全を起こすだけである。マインドコントロールにも段階があり、職員らのものはレベル1~2程度だった。いわばそれは一般企業の社員教育で喩えれば、社の規則を遵守する優等社員のそれと考えればいいだろう。
 だが、今、洋介が掛けられているレベル5は洗脳システムの最高度のものなのだ。そして洋介は杉山直轄のマインドコントロール下にあった。

 これは一九八〇年代、米軍で研究されていたマインドコントロール技術を応用進化させたもので、特定のボイス・コードだけに反応するのだ。そのため、ほかのボイスには影響されず、いつもどおりの人格でいることができ、極秘行動が発覚することはない。杉山の指令がなければ特別な行動は取らないのだ。
 世界規模の諜報活動では秘密裏に使用されていたが、一般の軍事関係者レベルでは認知されていないマインドコントロール技術だった。もっとも表沙汰になれば国際法で禁止されるはずで、無数の鉄片が炸裂して無作為に大勢を殺傷するクラスター爆弾と同レベルの人権無視の人間兵器である。
 今回、この方法が採用されたのは国家安全保障局の正式な決定の元ではない。情報部山本本部長の権限における第二課、杉山泰子の極秘任務であった。

「石井さん」香織が一階フロアで洋介を呼び止めた。「どう具合は。もう平気?」
「ああ、頭はすっきりしてる。ただ、ラボでどうなったのか記憶がぜんぜんないんだ」
「そうなの。でも具合が悪くないなら良かったわ。そこで待っててすぐに下りてくるから。今日はもう一緒に帰っていいって杉山課長に言われているから」
 フロアのソファーに洋介が座っていると香織が杉山とエレベーターから出てきた。
「杉山さんがクルマで送ってくださるって。今日は大変だったからって」
「そう、石井さんはもう正式な職員ですからね」
 杉山の声を聞き、洋介が身体をこわばらせたが一瞬のことだった。杉山が極秘コードを言わなければ行動には直結しないのだ。

 三人は地下駐車場に下り、黒塗りのハイブリッドカーに乗り込んだ。そのクルマは公用車であり管理職務の人間が使えることになっていた。燃費はリッター当たり五〇キロ以上で、実際ほとんどガソリンを使わず走ることができたから電気自動車と呼んだほうが相応しいのかもしれない。スピードはアクセルを踏み込めば210キロまで出せる。

 大通りを音もなく走るハイブリッドカーのハンドルを握り、前を向いたままで杉山が言った。
「あなたたちも一緒に暮らせることになって良かったわね」
 香織が「杉山さんのお陰です。感謝しています」と張りのある声で言った。
「これからの石井さんの働き次第でもっといい暮らしもできるわよ」
 洋介の心中は複雑だった。この声を聞くと逆らう気が失せるのだ。それに抵抗しようとすればするほど苦しくなる。マインドコントロールのせいだとわかってはいるが、その感情がどこからもたらされるのか不明なのだ。
「そうですね。香織、いや工藤さんと子どものためにもがんばります」そういうのが精一杯の抵抗だった。

 マンションの前にクルマが止まり、洋介がドアから外に出ようとすると、杉山が後部座席に振り返り、香織に言った。
「ちょっと石井さんに話しておきたいことがあるからあなたは先に帰っててもらっていいかな」
「えっ、はい」
「ねえ、石井さん」杉山が助手席を指さし、前に乗るように指示した。「三〇分ほど時間をちょうだい」
「僕は構いませんが」
「じゃあ私は先に帰ってるね」と香織がいい、助手席に座った洋介に手を振ってマンションの入り口に消えた。

 杉山は、洋介が完全に自分のマインドコントロール下にあるのか、まだ確証がなかった。無音で滑るように進むハイブリッドカーを走らせ、公園脇の木陰にクルマを停めた。
 辺りはすでに夕暮れている。人通りもなかった。サイドレバーを引き、エンジンは切らずにおき、カーステレオのスイッチを入れマイルス・ディビスの曲「ウォーキン」のボリュームを上げた。

 ジャズの軽快なテンポで艶のあるトランペットの音色が車内に響き渡った。
「ねえ、キスして」
「え?」驚き、その横顔を見た。
「聞こえたでしょ」杉山泰子もある種、臨戦状態にあった。ボリュームをほんの少し絞り、洋介の顔を見て言った。
「極秘コード42ポイント195、走りなさい」

 その音声を聞いた途端、脳髄に電流が走り、頭が割れそうになった。何度かうめき声を発した後、洋介の瞳に別の存在が宿った。
「ラジャー。只今から走り完走します。ゴー、アタック!」
「よろしい。では目の前にいる女にキスをしなさい」
 言われたとおり、洋介は杉山の赤い唇を吸い続けた。舌を口内へ挿入させ、歯裏を先端で撫で回し、唇を舐めまわし、吸った。顔をそむけて「やめなさい」と言うまで強く吸うさまに杉山は満足した。命令どおりにする洋介は、今ここで自分を犯して殺せと指令すれば実行するだろう。そう思うと杉山は背筋がゾクッとして得も言われぬ快感を味わった。この女にすれば洋介は男という存在ではなく、自分のロボットだった。

 杉山はタバコに火を着け、ゆっくり煙を吐いた。それを半分のところで揉み消し、黙って座っている洋介の口の周りに付着した口紅をテッシュで拭い取り、それからルームミラーに顔を向け口紅を引き直した。

 杉山が洋介の耳元で「任務終了。極秘コード3ポイント1416。記憶を消去クリア!」と言った。
 ジッとしていた洋介が、操り人形の糸が切れたかのようにシートにもたれ掛かり、何度か目をぱちくりさせて、大きく息を吐いた。頭を二三度振り、辺りを見回して、「ここは・・・あ、杉山課長、僕は今まで」と言った後、ひどく咳き込んだ。口の中に口紅の味が残っていた。
 ジャズはもう流れていない。
 静まりかえった車内で杉山が「なにも心配いりません。さあ帰りましょう」と言った。
 洋介の真顔がフロントグラスに映っている。
 杉山の口元がゆるみ、赤い舌先をちょろりと出したそのさまがトカゲのそれのようだった。


放射能にも負けず

2011年06月24日 08時28分16秒 | 核の無い世界へ

雨にも負けず風にも負けず、そして放射能にも負けず。
そういう人間に私はなりたい。

1945年8月6日の、その後のヒロシマのガレキの中を歩くこの人が、そう言ったかどうかは知りませんが、代わりに今、私がそう言う。もう、何も奇麗事など言えませんが、生きている限り、自分の命に責任をもって生きていくのです。トンデモない世の中と思えますが、生きていることは有り難い。魂の声はそう語ります。この世を生ききりなさいと。生きている限り何が有ろうともまだまだヘチャラです。生かして頂いて ありがとう御座位ます。


マニュアル本

2011年06月23日 08時44分17秒 | 核の無い世界へ
書店に行けば、入り口辺りに「原発問題」に関する本が山積みになっています。小出先生、武田先生、広瀬隆氏の本が中心で、この方々はずっと原発批判をしてきた人物。そのほか、原発問題を研究してきたグループの本です。

その中で「原発事故・緊急対策マニュアル」(日本科学者会議福岡支部 核問題研究委員会編)という本は、放射能汚染から身を守るために、と副題があるように、図解入りで対処法が分かり易くまとめられていて、おすすめです。571円という低価格。ほんとうは政府・行政が無料で配布してもいいものでしょう。不安を抱えるお母さんなどにも分かり易い内容なので、ぜひ、読んでください。事故中期に入った今、知識のあるなしで、生きる道が分かれます。


反対も賛成もどうするか

2011年06月21日 23時08分18秒 | 核の無い世界へ
今日は東京も30度となり、暑いです。地球温暖化という言葉が一般化されましたが、実は、地球寒冷化への序曲で、暑くなっているという説もありまして。温暖化はカーボン・ビジネスの手段として、欧米連中が仕組んだというんだな。ほんまかウソか、そんなの解りません。

昨日、テレビに養老猛先生が出て、「原発は賛成派と反対派に別れたから問題となったのです。対立したら、問題はますます悪くなる一方です」とおっしゃったが、そう。問題化した時点で、根本から大ズレして、今に至っていて、市民がわけもわからず巻き込まれているというのがほんとうのところだろう。

ついでに言えば、「科学するのは人間のサガで、作ったものはコントロールするしかないんです」と、初代、国立民族博物館館長の梅棹忠夫先生は言った。知りたいから探して、探せたらそれを形にしてみたいのが人間。出来てしまったら、あとはどうするか。みんなで何とかするしかないでしょうということだ。それが、原発。で、そうなっています。反対も賛成も無い。地球人類で、どうするか、だけですから。ね!




避難生活シュミレーション

2011年06月20日 00時04分56秒 | 核の無い世界へ
福島第一原発は、東電と政府の団結で事故終息に向かっている・・・というのは無理難題なようです。京大・原子力実験所の小出裕章助教の見解(6月16日)をネットで知ったことをもとに書きます。燃料棒がメルトダウンからメルトスルーとなり、原子炉の底を溶かしていて、現状どこまで溶解が進んでいるのか、発表がないのでわからないようです。このまま進めば、炉底を溶かして途中に達し、地下水脈へ放射性物質が流れ出る事態となりそうです。そうなればさらに高濃度の放射能が海洋へ流出します。

ここまでの状態となって東電も政府も正確な情報を出さないでいます。だから原子力専門家の小出助教の見解から、恐らく現状はこうだろうという推測となっています。

これからどういった事態を迎えるのか。関東へも高濃度の放射性物質が飛散し続けるのではないか。ギリギリの時点であっても、自主避難するシュミレーションが必要となってきました。関西より西の方々にはピンと来ないはなしかも知れません。いえ、この関東の人々でもリアルにそう感じている人は少ないと思えます。なぜか。まだ誰も大騒ぎして逃げ惑っていないから、大丈夫だろうと高をくくっているのでしょうか。

再度、水素爆発が起こったら、気象条件で異なりますが、最悪のケースでは半日で放射性物質が関東圏へも到達しますから、学校や仕事をやめてすぐに風向きと違う方面へ逃げなければなりません。私が考えている避難経路は、東海道を避け、いったんは日本海側へ出て、それから西へ向かうというルートです。原発事故を収束できないまま、この先、何度もこのような状態が続くならば、広い範囲で放射能汚染が広がるばかりです。どこかの時点で、福島の方々のように覚悟を決めて避難生活をせねばならないと思います。

とにかく、どうなるのか解らないのですから、今から避難のシュミレーション計画を立てておくことが肝要です。必要な品々をまとめておき、迅速に行動できる体制を想定しておくことです。逃げるルートも地図上に落としておきましょう。また、家族が落ち合う場所を決めておくことの重要です。何よりもまず、これらのことを家族でよく話し合っておく必要があります。

国はそのような勧告もマニュアルも出すことはしないでしょう。なぜなら、福島で原発事故が起こった3月11日以降の政府の対応を見て、今に至っている一連の流れから充分、そうだと推測できます。また、かの戦時下でも政府には、国民を守ろうという施策は無く、玉砕すら奨励したように、今もその体質は変わっていないと思えます。国家とは、そのようなものなのでしょう。最後は、子どもたちを守れるのは、お父さん、お母さんなのです。


底が抜けて・・・

2011年06月19日 15時59分21秒 | 核の無い世界へ
そこ抜けに、という表現があります。限界を超えたということ。今までになかったような状態で、腹を抱えて笑うなら、底抜けに可笑しいと言います。

福島第一原発は、その、底が抜けたようです。100トンの放射性物質がメルトダウンから、メルトスルーし、一番底の鋼鉄が1500度で溶けていて、冷やすことができないでいる。つまり、地下水へ流れ出そうとしている。最下部のコンクリート層が溶解すれば、土中に流れ出る。自然界に放射能が垂れ流し状態ということです。政府も東電も現況でそれを止めることができないでいる。

7時のテレビニュースで発表しないままですが、どうもそうなっているらしい。この東京も福島と変わらない放射能が検出されているという情報もあります。放射能の拡散は、気象状況でモニタリングが追いつかないレベルで拡散しているのではないか。人為で対処できるレベルを超えているかもしれない、いや、そうなっていると。

このブログで、今回の原発事故について書き始めたことは、関東以北東北の行政地図が変わってしまうということでした。地図がかわるということは、人の生活が変わるということで、この東京も、もう住む場所ではないのかもしれません。それでも、正式な報道、発表がなきままなので、未だ、多くの市民はわけがわからないままでいるのです。このままでは癌患者が増え続けるばかりだ。子どもはもっと深刻です。どうしますか?

下記のネットをご覧下さい。テレビでも放映されています。

テレビ朝日
http://hiroakikoide.wordpress.com/2011/06/16/tv-asahi-jun16/


常識を疑え!

2011年06月19日 00時33分23秒 | 核の無い世界へ
1952年、アメリカのビキニ環礁水爆実験で被爆した第五福竜丸事件の後は、核兵器開発になんと3000万人の反対署名がこの日本で集まったそうです。50年前はそういう日本でした。

しかし、核を平和利用に転換して原子力による発電を推進したのは、読売新聞社主、日本テレビ創始者の正力松太郎でした。彼の、CIAコードネームは、ポダム。自分の部下、柴田(コードネーム:ポハルト)をCIAエージェントと度々接触させ、アメリカの意向を汲みつつ、総理大臣のポストを狙い画策。その最大の働きが、自社を使った原発平和利用キャンペーンでした。米国機密文書が公開されて解った事実です。

この話は、早稲田大学教授(メディア論)有馬哲夫氏が「原発・正力・CIA」新潮新書(720円)で書いています。本から部分だけを書き出すと、何かトンデモ話のように思えますが、公開された機密文書から論じたものですから、事実と言っていいものでしょう。安い本なので多くの人に読んでもらいたい。ヘタなスパイものよりも面白い(笑)というか、歴史の裏を知ることができます。

読売グループ記者約5000名が集めた日本の情報をCIAが利用する・・・そんな密約があった・・・

しかし、現在の読売新聞記者たちは、これをどう考え、思っているのだろうか。今度、知り合いの新聞記者に聞いてみようと思いますが、当時の読売記者たちは裏側を何も知らずに、原子力平和利用キャンペーンに駆り立てられ、走狗となりました。この事実が重要なのです。今につながっていることだからです。だれでも簡単にダマされマインドコントロールされるのです。

とくに偏差値エリートが危ない。世間で頭がいいとされる人々が真顔で「これが正しい」と語れば、みな、それを信じ込んで、常識化されてします。そういう社会心理の有り様を知らなければ、今もそう、テレビ新聞の言いなりの人々が多いのも問題なのです。

いま、原発反対で1000万人署名運動が湧き起こっています。民意が国を動かす。これはまちがいない。だがしかし、そのあとも気が抜けない。民意の裏側で何がどう動き、どこへ向かうのかはわからないと思っておいたほうがいい。少なくとも、マスコミは要注意です。以前、サンケイ新聞の「常識を疑え!」という宣伝コピーがありましたが、逆説的にそれは正しいのです。


ドリーマー20XX年 11章

2011年06月18日 14時45分44秒 | 近未来長編小説『ドリーマー20XX年』
【あらすじ】
新宿で働く安サラリーマン、山田一雄45歳。将来の希望などさしたるものもない独身暮らし。楽しみといえば給料日に歌舞伎町のキャパクラへ行くことぐらいだった。この男がある日、奇妙な夢を見始める。白髭の老人との対話の末に、夢旅行へ誘われ、時空を超えた旅が始まる。やがて辿り着いた世界は、20XX年の新宿だった。

(右下の欄のカテゴリーで、1章から順にお読みください)
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~~11~~


 香織が眠る医務室で洋介は朝まで一睡もせず見守っていた。香織との約束で杉山に看護の許可を取っていた。看護士が夜勤で残るから心配の必要はないと言われたが、洋介が懇願するとあっさり許してくれたのだった。冷血な女に見えても、意外な面もあるものだと洋介は思った。

 朝の弱い光がカーテン越しに差し込み、ベッドで眠っている香織の顔がいっそう白く見えていた。洋介はこの女を心底から愛していると感じつつも、いつから自分がそうなっていったのか不思議な気持ちにもなった。そう思うと、もうひとつの感覚から強くもたらさられるものだと感じた。今では山田一雄であるわたしと洋介の感情は一体化しており、バランスを維持できている。ただ、時折、そのバランスが微妙に変化する中で、そのような感覚が呼び覚まされることがあった。

「この気持ち、もとはゼロゼロKYのだったな」
 と、洋介はひとりごち微笑んだ。
 香織を愛していることに変わりはない。昨夜から何度も襲ってくる絶望めいた感情が胸を締めつけていた。

 洋介にも、あの一〇年後の世界が映像として頭に浮かぶ。三七歳の香織が無表情な顔で一人いる部屋の風景だ。そこに自分の姿はない。ただ、幽霊のように眺めているだけなのだ。このまま彼女を情報部の人間にさせれば、やがて世界が変わり、中級民Bになって、わけのわからないフレーズを口ずさむ暮らしとなる。たとえそんな世界でも、民衆が望むのなら仕方がないのかもしれない。だが、それを今、必死で阻止しようとしている人間たちがいる。過去の時間から夢を入り口にやって来るドリーマーだ。自分もその仲間の一人なのだ。

 この先そんな働きができるのだろうか、と洋介は思う。たったひとりの女性も救い出せないでいるではないかと。相手は国家を越えた超組織なのだ。自分などが動いても、どうにもならないのかもしれない。こんな都市など逃げ出して森の中に家を建てて香織と一緒に暮らせればどんなに幸せだろうか・・・

 洋介は長椅子に身を預けて取り留めのない考えを巡らし、いつしかうつらうつらと夢とも現実ともつかない狭間に漂っていた。白い部屋のなかで細長い顔をした白い髭の老人が微笑むのを一瞬、観た。洋介にはそれが仙人か神さまのように映ったが、夢の風景としか思えなかった。

「想えば赴き思いのような現実となるのじゃ・・・」
 白髭の老人がひとことだけそう言った。わたしにはその意味がはっきりわかるが、洋介には理解できなかった。ただ、現実が重くのしかかっているとだけ感じていた。

「洋介、ねえ洋介」遠くで声がして、目がハッキリすると香織がベッドから半身を起こしていた。
「ずっと居いたの?」
「ああ、大丈夫?」
「私、昨日変だったでしょ。ぼんやりとしか覚えていないけど」
「ちょっとね違う人みたいだったかな。もう平気なの?」
「うん、でもまだ頭の奥でざわざわしてる」
「ざわざわって?」
「波のような音とか言葉とか」
「それ、プログラムのせいだよ」
「途中で中止したからだって杉山さんが・・・正常に受ければ頭がクリアになるって」
「でも、しばらくは止めとくのがいい。胎教にも影響するから。脳波の乱れは危険だよ」

 ドアをノックする音がした。一瞬、洋介が身構えると、小柄な若い看護士が入って来た。
「どうですか、ご気分は。吐き気はしませんか?」
「ええ、大丈夫です」
 看護士が体温を測って脈を診た。
「あとで医療センターから先生が来てくださいますからここでもうしばらく安静にしていてくださいね」

 昨日の騒動のあと、そのまま入院できればよかったが、病室が空いてなかった。きょう日はどこの病院もベッドの空きがなく、また、医師も不足していた。
 香織を医務室に留めたのは杉山の指示だったが、自分こそあれほど激しく卒倒したのだから入院してもおかしくなかった。細身の見た目と違って予想以上にタフなのだろう。公安警察なら特別な訓練を受けているはずだ。洋介が素手で戦っても勝てる相手ではないのかもしれない。

 時刻は午前八時を回っていた。その杉山がそろそろ現れる頃だろう。洋介の出勤時刻が近づいていた。
「今日は新宿御苑村への配給日なんだ」
「忙しいわね」
「平気さ。ダテに鍛えちゃいないよ」そう言って洋介が力こぶを見せた。「いいかい、病院に行ったら家に帰って休んで」
「ええ、できればそうする」
「できればじゃないよ約束だぞ」小指を立て、指を切る仕草をして洋介が医務室を出た。

 廊下を歩いてくる杉山と出くわした。洋介の目付きが険しくなった。
「あら、工藤さんはどう?」
「熱もないみたいですから。でも今日一日は休ませてやってください」
「そうね、診断次第で判断します」
「ご存じと思いますが胎教のこともありますからお願いします」
「それも含めて医師の判断で決めます」杉山は冷い口調で言った。「あなたは自分の仕事に専念しなさい。今日は御苑よね」
 そう言って医務室の中に入って行った。洋介は後ろから羽交い締めにして、引き倒したい衝動にかられた。この女が香織を奪おうとする元凶なのだ。

              ○○○

 新宿御苑村は戸山公園村よりさらに規模が大きい。日に日にホームレスの数も増え、すでに収容限度に達している。それへの食糧配給は容易ではない。公園内に炊事施設を作って現場で配給すれば運搬の手間が省けたが、管理に問題があった。プレハブ程度の食糧庫では破られるからである。事実、当初は食糧庫を設置していたのだが、すぐに数トンの米が闇に消えた。24時間体制で警備員を配置するよりも、区役所で管理して配給するほうがコストが掛からず安全だとされたのだ。

 七月も下旬に入り、この日は午前中から気温が上がりすでに三四度に達していた。近年、真夏の気候は熱帯地方と変わらなくなっている。これは2000年初頭にいわれていた人間社会が生むCO2排出のためではなく、太陽のコロナ活動の活発化が原因だった。この頃では太陽黒点が毎日一〇〇を超えて観測され、地球気候変動は現実問題となっていた。真夏の気温は四〇度を超える日も珍しくなく、熱中症での死亡率も高まっている。公園村でも夏は餓死者に次いで熱中症で亡くなる人間が多かった。

 配給トラックにクーラーなどなく、窓を全開にして走っている。ハンドルを握るのは深田勝だ。助手席で洋介が目を閉じている。
「チーフ、身体は平気ですか」
「正直言うとグッタリだよ。この暑さもうんざりだ」いったん目を開けて洋介が言い、また目を閉じた。
「昨日あんなことがあったら神経持ちませんやね。今日の仕事は俺に任しといていいスよ。主任はトラックで休んでても」
「そういうわけにもいかんだろう」
「工藤さん大丈夫なんですか?」
「もう心配いらないってさ」洋介の頭に杉山の顔が浮かび、舌打ちをした。
「女課長でしょ。俺、苦手なんだよなあの狐女みたいなのが」
「おいおい、そんなこと言ってると飛ばされるぞ。夢の島の看守にでも」
「看守ですかあ。監獄じゃあるまいし」
「いや、監獄みたいなところかもしれんぞ」冗談めかして洋介が笑った。「それはそうと戸山の噂だが、女の幽霊が本当に出るらしいって」
「またまた冗談を。なんて言いましたっけ。谷田部か、奴が正体を調べるなんて言ってましたね」
「その谷田部が昨夜、携帯に電話してきてさ」
「何だって言うんですか」
「自分も見たってずいぶん興奮してた。すーっと消えて幽霊に違いないって」
「本当ですか、あの男ぺらぺら嘘ばっかりつくタイプですよ」
「まあ、また何かくれってことかもしれないな」
「あんな奴、放っておいたほうがいいス」
「でも本当かもしれないぞ。俺も昔、幽霊って見たことあるんだよ。あのな、隣の部屋で自殺した女がな」
「やめてくださいよ、夜トイレに行けなくなるじゃないですか」
「おまえ、意外と弱虫なんだ」
「放っといてよ」

 洋介の作戦は、身近な者から始まっていた。地下本部の存在を隠すために、幽霊の噂を流言させる必要があった。
 配給が一段落した新宿御苑村でも洋介は顔見知りの男との立ち話で、それとなく幽霊の噂を流した。すると、中のひとりがおもしろいことを言った。
「ここでもね、そんな噂はありますよ。四谷も近いし怪談の季節ですからね」

 その男が言うには、園内の玉藻池に、やはり女の幽霊が出るのだという。池の周囲が鬱蒼と茂った樹木で覆われた、昼でも薄暗い場所だ。深夜、池の上を歩く女を何人もが見ているという。江戸時代、ここが内藤屋敷だったときの女中の幽霊ではないかというのが噂になっていた。

「なんでもね、雑司ヶ谷の娘が女中に雇われて、許嫁と引き裂かれてね。また、その女がえらい美人だったんで手籠めにされて。で、主人の思うようにならないんで腹を立てて荒縄で縛って池に投げ込んだって。それ以来、池に出るってんで。縄を解け~雑司ヶ谷へ返せ~って夜な夜な」
 洋介の隣で深田が顔を歪めて聞いている。
「四谷怪談じゃあるまいし」
「いや、深田その話は有名だぜ。雑司ヶ谷の女を女中にすると出るって耳袋って本に出てる」
「やめてよ~、ここで配給すんのが恐くなるじゃない」
「じつはな、幽霊に足があるって知ってるか」
 公園村の男が畳み掛けるように、「そうそう足があるって、でも縛られた手が無いってさ」と言うと、深田がさらに顔を歪めた。
 この幽霊譚を洋介は恰好の題材だと思った。御苑に出るなら戸山に出てもふしぎではないと話に拍車がかかるはずだ。ホームレス同士が話を広めるのも時間の問題だろう。

 夕方、区役所に戻った洋介は、香織が無事にアパートへ帰ったことを確認して退社後に戸山公園村へ向かった。七時に近い時刻だが、まだ周囲は明るい。すでに洋介はホームレス姿になっている。仮に谷田部と出会っても彼とは気づかないほどの変装だった。

 木漏れ日がちらつく遊歩道で一人のホームレスと出くわした。
「あんた、何か食い物もってねえか」と、年老いた男が弱々しい声で言った。骨にしわくちゃの皮だけ纏ったような男だった。
「ああ悪いね。何にもねえんだよ」と洋介がしわがれ声で返した。ホームレス同士の挨拶のようなものだが、老人はかなり弱っているように見えた。
「爺さん、明日は配給だかんな。それまでの辛抱だ」
「それまで保つかどうか、もうわしゃわかんねえ」
 そう言いながらふらふらと遊歩道を歩き、森の奥へ消えていった。

 箱根山登り口の周辺を一周して辺りに人影がないのを確かめ、地下基地入り口に立つ地蔵のところまで来ると、老人が倒れていた。揺り動かしても返答がなかった。脈を取ると微かな血流を感じた。ここにこのまま放置するわけにはいかない。洋介は踵を返し、吉川のテントへ向かった。まだ、テントに居るのか、地下へ降りているかわからなかった。中には姿がなかった。洋介はそのままテントに入り、携帯モバイルで連絡を取ろうとしていた。

 テントの外で人の気配がした。
「シゲさん、いるの?」女の声だった。聞き覚えのある声だ。
「ああ、ちょっとな」洋介は声色を使っていた。
 テントの入り口からショートカットの女が顔を覗かせた。やはり野川典子ゼロゼロAKだった。洋介と目が合うと、さっとテントに身を入れた。
「何かあったの!?」
「地蔵の前で老人が倒れているんだ」
「あなたはここに居て。連絡するわ」

 野川の行動は迅速だった。すぐに地下本部へ連絡を済ませ、集会所へ駆けつけて連絡した。吉川が地上へ出て現場へ向かった。その間一〇分足らずだったが老人はすでに亡くなっていた。
 公園で死亡者が出た場合、区役所と警察へ届け出をし、現場検証がおこなわれる。その後、遺体を病院へ搬送する。公園村での餓死や病死者は珍しくなかった。今月に入ってすでに七名が亡くなっていた。入村者のほうが数としては圧倒的に多いから、死者と親しくしていた者を除き、死んでいく者たちのことはすぐに忘れ去られていた。体力のない老人は、みな明日は我が身だと思っている。

 遺体処理が終わり、係官たちが公園を引き上げたのは一〇時過ぎになってからだった。吉川がテントに戻り、中で身を潜めていた洋介に声を落として話した。
「予測できないことが起こった場合、まず身を隠すことが先決だ。今後もそのように行動すればいい」
「ええ、ぼくの場合まだちゃんと訓練を受けていないので不測ばかりですよ」
「ドリーマーが全員、訓練生のようなもんさ。みんな最初はいきなりこの世界に送り込まれたんだ。即、実践だよ。待ったなしのな」
「今夜はどうすれば?」
「もうしばらく様子を見て出ろ」
「明日は? 予定の時間に地蔵口で?」
「いや、しばらくあそこは閉鎖にする」吉川が硬い表情で言った。「あの老人は俺とは付き合いの古いホームレスだったんだ。地下基地のことも知っていた」
「地下のことを知っている人間はけっこういるんですか」
「ドリーマー以外ではそれほどはいない。ここの村では開設当初の人間だけだ。それはまた後日、教える」

 洋介には、ドリーマーとその仲間の組織構造が詳しく把握できていなかった。自分がドリーマーであることや、この秘密組織の存在を知ったのはつい先日のことなのだから無理もない。
「僕はまだ知らないことが多すぎるな」
「それでいいんだ。短期間に知りすぎることの危険性を君はまだ認識しちゃいないんだよ。ヘタに知ってしまうと命取りになる」
「でも知らなきゃ」
「焦るな。一歩一歩を着実に、だ」強く念を押すように吉川が言った。
「はい。でも、あの人知っててどうして地蔵の前で?」
「きっと俺を探そうとしていたんだろう。なにか伝えようとしていたのかもしれん」
「もしそうだとして何でしょう」
「谷田部のことかもな」
「あの男が?」
「公安とはまったく別組織の人間の可能性がある」
「別組織ですか」
「そうだ。裏側で動く人間たちのな。とくにここひと月に入村した者が怪しい。その一人が谷田部だ。注意しろ」
「ええ」
「明日は別の入り口を使う。公園南の波多野ビルの前に定刻に来てくれ」
「わかりました」

              ○○○

 洋介は深夜の公園をそっと後にした。路地裏でホームレスの扮装にサッと着替え、路地を伝って町を抜けた。彼らドリーマーはそうした裏ルートを使っていた。表通りは警察官の目が光っていたし、そこら中に監視カメラが設置されていた。裏道といっても気は抜けない。パトロールに注意を払いながら裏道から裏道を抜け、マンションまで辿り着いた。

 玄関をそっと開けて中に入ると灯りが点いていた。食卓椅子に座っていた香織が振り返り、真顔で言った。
「こんな遅くまでどこに居たの?」
「起きてて平気なのか?」
「質問に答えて」
「ああ、昨日話しただろ、横流し情報のこと。その人間に会っていたんだ」
「その人間って誰?」
「誰って歌舞伎町の男だよ」
「そのことを杉山課長に報告したの?」
「いや、まだ」洋介は口ごもった。「不確かな情報なものだからもっとハッキリしてからでいいと思ってね」
「あなたは情報部員じゃないのよ。余り変に動いていると嫌疑が掛けられるわ。私はそれを心配してるの」
「わかった注意するよ」
「わかってないわ。あなたマークされてるのよ。この前、歌舞伎町で河口真理恵に会ったでしょう? それから闇酒場へ消えて。そこまで監視されているのわかってないでしょ」

 香織の口から流れ出た言葉に洋介は返す言葉を失っていた。キッチンに突っ立った洋介に、香織が椅子を差し出して座るように促し、話を続けた。
「今の話は杉山課長からの聞いたのよ」
 真理恵に会ったことも闇酒場も知られていた。洋介は一瞬、迷い、険しい表情で口を開いた。
「実は情報提供者は女だったんだ。僕はそれを追ってて」
「あなたが浮気をしているなんて思ってもみなかった」
 香織は洋介が情報提供者とあらぬ関係を結んでいると考えているのだ。浮気などではないと洋介は言いたかった。だが、それは無理なことだった。このとき、香織と自分は別の組織に属する人間だとハッキリ自覚した。

「香織、本当のことを言うよ。浮気した。君と一緒に暮らせなくなると思うと正直ヤケになっちゃった。僕たちの子どもはどうなるんだ。下ろすのか。杉山がそう言ったのか」
 そこまで一気に言い、洋介は食卓にうなだれた。
「課長は下ろせなんて言ってないわ。私が都庁へ移って仕事が落ち着いたらあなたを情報部へ推薦しようと思っていたのよ。課長にも相談してあなたなら見込みがあると言ってくれたわ。なのにどうしてなの?」

 うなだれた洋介は、何も言えないまま心の中で叫んだ。
----違うんだ、そうじゃない、君を救おうとしているのは僕なんだ!

「洋介、何か言うことはないの? もう時間がないのよ。今夜ハッキリさせましょう」
「ああ、そうしよう」
「あの河口真理恵は米の横流しの件で疑われているの。その女と接触しているあなたも怪しまれて当然でしょ」
「まさか僕は米なんか」
「わかってるわ。でも情報部で闇米事件の組織を追っているの。新宿区だけでなく先月からでも東京都全体の米が何十トンも消えているのよ。密造酒もそれで造られているのわかるでしょ」
 香織の目は、情報部に所属する者の目に変わっていた。

「なら花園神社の裏の酒場もわかっててマークしているのか」
「もちろんよ。闇酒場なんかどうでもいいの」
「そんなの問題じゃないってことか」
「いい、これから重要な話をするからよく聞いて。杉山課長が公安官だっていうことは知っているわよね。でもそれは元よ。今は新組織が編成されて国家安全保障局情報部の人間なの。私もそう。それを理解できる?」
 香織の口調は高圧的ではないが、迫るような迫力を帯びていた。

「理解しているつもりだよ」
「このあいだ話したでしょ夢の島移転のこと。それを阻もうとしている秘密組織があるの。闇米はその資金源でもあるのよ。闇酒場は情報交換の場になっていてそこで仲間を集めているわ。都内のそれぞれの公園村が拠点になっいてネットワークしてる。秘密組織の主要メンバーは約八〇名で下部構成員は約三万名といわれているの。これらの動きを掌握しておいて一挙に検挙することになってるわ」

 香織がそこまで話すと、大きく息を吐いた。それから席を立ち、ハンドバックを手に取ったかと思うと中から小型拳銃を出し、おもむろに洋介の顔の前に突き出した。さすがに銃口は向けられてはいないが、その黒光りする威圧感が部屋の空気を黒く染めていた。

「これを見れば今の話、信用する? 護衛用に持たされているの」
 洋介が張り詰めた声で「僕を逮捕するのか!」と言った。
「あなたが秘密組織の人間なら」
「僕はただの米配給チーフだよ」
「ええそうよ。だから情報部の人間になって配給チーフとして潜入捜査に加わるの」
「スパイってことか」
「それが今夜ハッキリさせないとならないことよ」
「もう充分理解できた」
「一斉検挙はもう間もなくよ」

 香織がそう言ったときには拳銃はバックに仕舞われていたが、重い空気が部屋じゅうを支配していた。

(12章へ つづく)


ヒロシマと東北の相似

2011年06月17日 09時20分50秒 | 核の無い世界へ
       1945年(昭和20)年10月7日 林重男撮影

先週の土曜日に広島の平和公園に行きました。近年帰郷すれば、必ず平和公園に行って、お参りします。資料館では写真が自由に撮れます。その一枚。被爆から2ヶ月後の広島中心部、産業会館(後に原爆ドームと呼ばれる)の風景です。

これを観て、そっくりだと思いました。東北の津波でやられた町・・・福島第一原発事故で放射能に汚染されたことも・・・

公園内の平和記念財団へ足を向け、一言聞きたいことがありました。土曜日だったので、若い職員さんがひとりいました。

「広島は今回の震災、原発事故に対して政府へ何か声明は出しているのでしょうか?」

とくに聞いてはいないと返事があり、義援金活動しているといいます。

「広島と長崎は、放射能汚染という禍害に対して、政府へ強い声明文を発する義務と責任があると思います」と話しました。

その方は国際平和交流の職員ということで、担当違いでしたが、たった一人へでも伝えておきたかった。また、改めて連絡をすると伝えて去りましたが、広島には、放射能の禍害を訴える義務があると思います。今年の8月、原水禁大会は福島で開かれるそうなので、その流れはあるのでしょう。しかし、すでに強いメッセージが発せられていなければなりません。

「ノーモア・ヒロシマ! ふたたび日本を放射能で汚染させ、その救済、対策を政府と東電は迅速におこなうべきである」

「ふたたび過ちは犯しません」という誓いの文言を平和記念燈に刻んだヒロシマには、その責任があります。


世間の声

2011年06月16日 22時04分14秒 | 核の無い世界へ
きょうの昼飯、街中の中華屋にいて、となりの客が節電について語り出した。
「この夏はどうなるんだか。節電で京都は汚染処理を夜間に変えて、それで15%が節電できたんだってさ」50代のサラリーマンが言う。仲間の若者が、へえ~と相づち。「やりゃあできるってことだよな」。「そうですね~」「でもな、経済は止めちゃいかんよ」「そうそう」「なんとかやりくりすりゃあ、節電しないですむかもな。原発よりいいんあじゃないの~」と、締めくくり。

「原発よりいいんじゃないの~」という軽い声でのフレーズが耳に残った。

私は人の話に割り込んで、なんだかんだというの嫌いなタチだ。が、割り込みたくなった。

「あんたさあー、原発よりはってどういうことよ。原発がどれほどの禍害を出してるか知ってんのかあ!」
 と怒鳴りそうな気分を押さえ、喉元で止めて、中華スープをすすった。

そして想った。これが世間なんだと。認識というものである。私の腹の中はマグマで煮えくりたっているのだが、自分で爆発しても何も意味がないことも知っているから、温和しくしているのだ。

人は、火の粉が降りかかるまで動かんのだ。そういうものです。でも、今回は国民投票すれば、70%は反対だと信じている。


今がトンデモ

2011年06月15日 23時04分43秒 | 航海日誌
テレビをつけても、ほとんど福島第一原発の現状の映像を流さなくなっているようですが、4号機から水蒸気が立ちのぼって、また、放射能が放出されたそうです。まったく目が離せませんが、そのためにはネットで情報をウォッチングするしかありません。ネット世界と地上派放送の差は大きい。

今夜は視点を変えた話をします。2011年は、ここ数年の日月の幅の中間にあります。そこで起こっている事象は、まだ大変化をもたらしていません。これからです。どう変化するのか。私は人間に精神構造の崩壊が起こると感じています。まず、社会的な大事故や変革があって、切羽詰まって、どどの詰まりまで行って、ある臨界点に達して、人の精神が次元突破するのだろう。陰陽、プラスマイナスが極まってゼロになって、そこからだろう。それまで、現象界はいろいろのトンデモ模様をみせてくれるでしょう。


地球規模のロシアンルーレット

2011年06月14日 22時54分50秒 | 核の無い世界へ
やめようよ原発は。どんな理屈をつけたって、どうしようのない危険極まりない原子炉よ。平和利用のウソで塗り固めた炉が、本性を現した。関東以北が被災地なのではない。米国西海岸でも放射能は見つかって大騒ぎだ。地球を一周してまた回っているどうしようのない放射性物質の粒群だ。たった一粒でも、体内に入れば細胞や遺伝子に当たって、おかしくなる。確率で危険か危険じゃないとか、お笑いぐさもはなはだしい。地球規模のロシアンルーレットでしょうが。そんなのやめよう。そう言おう。