2009年1月11日に僕が、下記の文章を載せたのには訳がありました。このブログで最もお伝えしたいのは、「世界に隠されたウソの柱」があるということでした。でも、それが解ってもらえない。伝わらない。どうしてでしょう? だから「嘘学」なんです。その始まりは、自分の嘘を見抜く力を養成することからなんです。気づきとは、そのことです。だったら、政治家さんに、官僚さんに、保安院さんに、マスコミさんに、聞いてみてください・・・え? わたしがウソつき?
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「ネズミが残したチーズのカケラ」
年末年始で掲載した小説『地下鉄漂流』で、
ネズミが唯一、伝えたかったこと
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ネズミがまたコップの水を一杯飲んだ。「さあて」と言ってタキシードの袖を払い、それから演台のうえに立って胸を張り、大きく息を吸った。堂々としたその雰囲気がまるでオペラ歌手がラスト曲を歌い始めるときのような感じにも見えた。トンネルの四方八方から拍手が湧き起った。ネズミたちの拍手喝采だ。それにつられてぼくも拍手をした。
「いいか、結論を言うぞ。耳をかっぽじって聞けよ」
トンネルの天井に向かって大きな声でゆっくりと話し始めた。
「人間ってのはだな、呪縛から解放されたいって心で叫んでるくせに、そうはせず、反対に勝った負けたのゲームを繰り返してる。それが世界最大の嘘のコンコンチキなんだよ。嘘だと思うんなら聞いてみな。みんな隠し事なんてありませんって首を振るから。それが嘘だって自分で知ってるくせにな。なかには狂ってるのもいるが、多かれ少なかれ、みんな嘘の神経症なのさ。嘘がつけない世界を想像できるか? 何でもかんでもバレバレの世界だ。どうなる? 困るか? 不自由か? だったら自由とやらは嘘からもたらせられるんだな。嘘の隙間で好き勝手にやれる自由があるってわけだ。もちろん! つきたくてつく嘘ばかりじゃない。悪意の嘘だけじゃない。人を助けるための嘘もあるだろうさ。嘘も方便ってな。しかしだ。なぜ、嘘でなければ事態を回避できないんだ? 不思議だとは思わないか? 一度、人間は嘘の本質と構造を徹底解明してみたらいいんだ。嘘学だ。そのとっかかりはこうだ。嘘はな、たった一回も百万回も数には関係ない。嘘をできるだけつかないって問題じゃあない。嘘が世の中の隠し柱になってるかぎり、そう、堂々巡り。もう一度言うぞ。 嘘が世の中の隠し柱だ! その下でみんな巻き込み巻き込まれだ。嘘の連鎖反応だ。千年前の嘘が今だってまかり通ってるぜ。戦争を見てみろ。一人の殺人も百万人の殺人も、どんな理屈をつけても殺しに変わりないじゃないか。違うのは殺し方だけだ。それでもまだ正義の殺人か。平和のための殺人か。そんなゲームに付き合ってて幸せがやってくるか? 嘘に我慢する? 何かのために? その何かって何だ? 親のため? 尊敬する人のため? 愛する人のため? 国のため? 神のため? 開き直ったやつは金のためってか? ためって何だ? ためってのは自分のためじゃねえのか? 自分は違う? 自分だけは違うと思うか? 同じだね。嘘に麻痺してるだけさ。つまり、世界が嘘なんじゃなく、人間が嘘を演じているだけの話なんだぜ。その嘘とは自分に向けた嘘だ。嘘ってな、他人についても自分につくことになる。他人は騙されるだけだ。嘘は自分のものだからな。黙っていれば嘘はばれないか。ばれようがばれまいが嘘は生き続けるのさ。永遠に。嘘のうわ塗り。嘘のバームクーヘン。まあ、何と巧妙な嘘だこと。嘘の奴隷だ、呪縛だ。だれのせいでもない。全員が嘘劇の主人公なんだからな。子どもはひとつの小さな嘘がつけ、大人はひとつの大きな嘘がつける。子どもは宿題やったよって。大人は愛がわかったよって。子どもはママに叱られるだけ。大人は自分に叱られるだけ。笑止千万。以上、嘘学の講義はこれで終了。オシマイ!」
ネズミの笑い声がトンネルの中に響き渡った。
すぐにトンネルの中が静まりかえった。
だれも拍手する者はいなかった。
笑っていたはずのネズミが黒い瞳からポロポロと涙をこぼしていた。
ネズミの姿が消え、深い沈黙の時が流れた。
天井から水が一滴ずつ、
ポトン、ポトン、
落ちていくのをぼくは眺め続けた。
その水滴のひとつひとつにぼくの目玉が映っていた。
水滴がぼくを見つめていた。
ふたたびネズミが現れた。
「もう、わかったろう? 嘘なんか、どうだっていい」
「嘘こそ、嘘か・・・」
「嘘はな、消えやしない。嘘がなくなりゃ、本当もなくなる。だからな、嘘に囚われるより、自分にとっての真実を見つめて生きればいいんだ。嘘じゃなく、真実の主人公のほうが気分いいだろう?」
「そう、だな」
「さあ、おまえさんはどうする?」
「ああ」
「弟を巻き込んで母親についた嘘を、かたちを変えて今度は彼女につくのか? つまり自分に向けて」
「いや・・・」
「ここにとどまるのか? 嘘のトンネルに」
「もう嫌だ」腹からの声だった。
「よし。出口はわかってるな」
「大丈夫だと思う」
「入って来たんだからな」
「もう、ひとりで行けるよ」
「そうか、そうしな。今度こそ、きっとだぞ」
ネズミが指さすトンネルのずっと先に、光の輪が見えていた。
意識がスーッと遠のき、〈ヴィジョン〉が消えた。
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「ネズミが残したチーズのカケラ」
年末年始で掲載した小説『地下鉄漂流』で、
ネズミが唯一、伝えたかったこと
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ネズミがまたコップの水を一杯飲んだ。「さあて」と言ってタキシードの袖を払い、それから演台のうえに立って胸を張り、大きく息を吸った。堂々としたその雰囲気がまるでオペラ歌手がラスト曲を歌い始めるときのような感じにも見えた。トンネルの四方八方から拍手が湧き起った。ネズミたちの拍手喝采だ。それにつられてぼくも拍手をした。
「いいか、結論を言うぞ。耳をかっぽじって聞けよ」
トンネルの天井に向かって大きな声でゆっくりと話し始めた。
「人間ってのはだな、呪縛から解放されたいって心で叫んでるくせに、そうはせず、反対に勝った負けたのゲームを繰り返してる。それが世界最大の嘘のコンコンチキなんだよ。嘘だと思うんなら聞いてみな。みんな隠し事なんてありませんって首を振るから。それが嘘だって自分で知ってるくせにな。なかには狂ってるのもいるが、多かれ少なかれ、みんな嘘の神経症なのさ。嘘がつけない世界を想像できるか? 何でもかんでもバレバレの世界だ。どうなる? 困るか? 不自由か? だったら自由とやらは嘘からもたらせられるんだな。嘘の隙間で好き勝手にやれる自由があるってわけだ。もちろん! つきたくてつく嘘ばかりじゃない。悪意の嘘だけじゃない。人を助けるための嘘もあるだろうさ。嘘も方便ってな。しかしだ。なぜ、嘘でなければ事態を回避できないんだ? 不思議だとは思わないか? 一度、人間は嘘の本質と構造を徹底解明してみたらいいんだ。嘘学だ。そのとっかかりはこうだ。嘘はな、たった一回も百万回も数には関係ない。嘘をできるだけつかないって問題じゃあない。嘘が世の中の隠し柱になってるかぎり、そう、堂々巡り。もう一度言うぞ。 嘘が世の中の隠し柱だ! その下でみんな巻き込み巻き込まれだ。嘘の連鎖反応だ。千年前の嘘が今だってまかり通ってるぜ。戦争を見てみろ。一人の殺人も百万人の殺人も、どんな理屈をつけても殺しに変わりないじゃないか。違うのは殺し方だけだ。それでもまだ正義の殺人か。平和のための殺人か。そんなゲームに付き合ってて幸せがやってくるか? 嘘に我慢する? 何かのために? その何かって何だ? 親のため? 尊敬する人のため? 愛する人のため? 国のため? 神のため? 開き直ったやつは金のためってか? ためって何だ? ためってのは自分のためじゃねえのか? 自分は違う? 自分だけは違うと思うか? 同じだね。嘘に麻痺してるだけさ。つまり、世界が嘘なんじゃなく、人間が嘘を演じているだけの話なんだぜ。その嘘とは自分に向けた嘘だ。嘘ってな、他人についても自分につくことになる。他人は騙されるだけだ。嘘は自分のものだからな。黙っていれば嘘はばれないか。ばれようがばれまいが嘘は生き続けるのさ。永遠に。嘘のうわ塗り。嘘のバームクーヘン。まあ、何と巧妙な嘘だこと。嘘の奴隷だ、呪縛だ。だれのせいでもない。全員が嘘劇の主人公なんだからな。子どもはひとつの小さな嘘がつけ、大人はひとつの大きな嘘がつける。子どもは宿題やったよって。大人は愛がわかったよって。子どもはママに叱られるだけ。大人は自分に叱られるだけ。笑止千万。以上、嘘学の講義はこれで終了。オシマイ!」
ネズミの笑い声がトンネルの中に響き渡った。
すぐにトンネルの中が静まりかえった。
だれも拍手する者はいなかった。
笑っていたはずのネズミが黒い瞳からポロポロと涙をこぼしていた。
ネズミの姿が消え、深い沈黙の時が流れた。
天井から水が一滴ずつ、
ポトン、ポトン、
落ちていくのをぼくは眺め続けた。
その水滴のひとつひとつにぼくの目玉が映っていた。
水滴がぼくを見つめていた。
ふたたびネズミが現れた。
「もう、わかったろう? 嘘なんか、どうだっていい」
「嘘こそ、嘘か・・・」
「嘘はな、消えやしない。嘘がなくなりゃ、本当もなくなる。だからな、嘘に囚われるより、自分にとっての真実を見つめて生きればいいんだ。嘘じゃなく、真実の主人公のほうが気分いいだろう?」
「そう、だな」
「さあ、おまえさんはどうする?」
「ああ」
「弟を巻き込んで母親についた嘘を、かたちを変えて今度は彼女につくのか? つまり自分に向けて」
「いや・・・」
「ここにとどまるのか? 嘘のトンネルに」
「もう嫌だ」腹からの声だった。
「よし。出口はわかってるな」
「大丈夫だと思う」
「入って来たんだからな」
「もう、ひとりで行けるよ」
「そうか、そうしな。今度こそ、きっとだぞ」
ネズミが指さすトンネルのずっと先に、光の輪が見えていた。
意識がスーッと遠のき、〈ヴィジョン〉が消えた。