ごく短い小説である。
が、長い小説にも負けないくらいの余韻を残してくれた。
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よし枝が68歳のときのことだ。京都から乗った徳島行き高速バスの座席で隣り合った男は、ほとんど眠りっぱなしであった。
目覚めたその男の声は、よし枝の亡夫、伍朗とそっくりであったから、よし枝には過去の苦い思い出が蘇ってきた。
約60年前、よし枝は、当時シベリアに抑留されたままだった前夫の帰国が待ちきれず、5歳年下の伍朗と駆け落ちして以来、故郷に足を向けることができずにいた。
終点の徳島駅前についたとき、男はよし枝のキャスターバッグを下ろしてくれただけでなく、バスを降りようとするよし枝の手を受けてくれた。
その後、肩を並べて歩きはじめたが、よし枝は、つかのまのこの道連れと、どこで別れようかと思ったとき、阿波踊りのテープ音が流れてきた。
それを聞いて、その音の軽快なリズムとは裏腹に。よし枝の目には涙が。
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この小説は、瀬戸内氏の自伝に近い小説と思っていいだろうか。
小説家としては、あれほどの成功を納めた瀬戸内氏も、過去の己の行動に対しては、永久に苦い思いが消えないのだろうか。
が、長い小説にも負けないくらいの余韻を残してくれた。
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よし枝が68歳のときのことだ。京都から乗った徳島行き高速バスの座席で隣り合った男は、ほとんど眠りっぱなしであった。
目覚めたその男の声は、よし枝の亡夫、伍朗とそっくりであったから、よし枝には過去の苦い思い出が蘇ってきた。
約60年前、よし枝は、当時シベリアに抑留されたままだった前夫の帰国が待ちきれず、5歳年下の伍朗と駆け落ちして以来、故郷に足を向けることができずにいた。
終点の徳島駅前についたとき、男はよし枝のキャスターバッグを下ろしてくれただけでなく、バスを降りようとするよし枝の手を受けてくれた。
その後、肩を並べて歩きはじめたが、よし枝は、つかのまのこの道連れと、どこで別れようかと思ったとき、阿波踊りのテープ音が流れてきた。
それを聞いて、その音の軽快なリズムとは裏腹に。よし枝の目には涙が。
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この小説は、瀬戸内氏の自伝に近い小説と思っていいだろうか。
小説家としては、あれほどの成功を納めた瀬戸内氏も、過去の己の行動に対しては、永久に苦い思いが消えないのだろうか。
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