自遊空間、 ぶらぶら歩き。

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ハードワーク~ポリー・トインビー著、椋田直子訳

2006-02-06 | 
ハードワーク ポリー・トインビー著、椋田直子訳 ―東洋経済新報社― 

著者ポリー・トインビーはイギリスの一般紙「ガーディアン」に勤務する女性ジャーナリストです。

ロンドンの郊外に家族と一緒に暮らしていますが、ある団体から提案された企画として40日間、スラム化した公営住宅に一人で住み、無資格、資産なしの中年女性として仕事をさがし、最低賃金の職場で働いた経験をまとめたのがこの本です。

就いた仕事は病院のポーター、学校給食のおばさん、保育園の助手、ケーキの包装、電話セールス、老人ホームの介護助手など、社会を支えるのに大切なのにもかかわらず、軽く見られがちで、賃金も安い作業が中心となっています。

1980年代、サッチャー政権が提唱した公共サービスの民営化が、コスト削減を図るあまり、不安定な身分の労働者を、短期間でしかも小刻みな時間枠で雇うことにつながってしまったのです。

賃金の安さで生活をまかなえないために、こういった形態で働く人たちは同じような待遇の職場をハシゴすることになります。より有利な職に転職したくても、資格をとるための学校に行く時間も、費用も、意欲も生まれません。

2月1日の日経新聞の夕刊に、作家桐野夏生さんの記事が載りました。弁当屋で働くパートの主婦を主人公とした『OUT』を書いたのはお子さんの友人の母親が過酷なパートをしていると聞いたことが始まりだったとのこと。

現在執筆中の小説は若者が主人公。フリーターや派遣労働者の働かされかたのひどさに驚いたそうです。

桐野さんはそれを、国内に「南北問題」が起きつつある。と表現しています。

イギリスの場合は以前の植民地から移入してくる人たちが、そのまま「南」の位置に甘んじているようなところがありますが、日本の場合は新しく起こってしまった「南北問題」であり、格差社会が形を現してきているといっていいのでしょう。

ポリー・トインビーは政府に大胆な行動を起こす必要があると結論づけます。
しかし彼女は、一晩の食事に20時間分の賃金にあたるお金を支払える人たちが住む側に、また戻っていきます。




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