永子の窓

趣味の世界

蜻蛉日記を読んできて(118)

2016年04月22日 | Weblog
蜻蛉日記  中卷  (118) 2016.4.22

「かく、おもておもてにとざまかくざまに言ひなさるれど、我心はつれなくなんありける。あしともよしともあらんを否むまじき人は、このごろ京に物したまはず。文にて『かくてなん』とあるに、『はた、良かなり。しのびやかにて、さてしばしも行はるる』とあれば、いと心安し。人はなほ、賺しがてらにさも言はるるにこそあらめ。限りなき腹を立つと、かかるところを見おきて帰りにしままに、いかにともおとづれ来ず。いかにもいかにもなりなば知るべくやはありけるなど思へば、これより深く入るとも、とぞおぼえける。」

◆◆このように、各人からああでもないこうでもないと下山を言われるけれど、私の心は変わらないのでした。悪いとも良いともそれに逆らうことができない父君は、このごろは任地に赴いていて京にはいらっしゃらない。お手紙に、「こういうことがありまして」と知らせますと、「まあ、それも良いことだろう。ひっそりとしばらく勤行をなさるのは」とお返事がありましたので、とてもほっといたしました。あの人は私をなだめがてらにもう一度迎えに来るであろう。あの夜、腹を立ててしまって、山籠りをしているところを見届けて帰ってしまってから、そのまま全く便りすらない。私に万が一のことがあっても、夫らしいことをしてくれるのか、あの人は構ってくれないのだった、などと思うと、これよりもっと山奥に入ろうとも京へは帰るまいと思うのでした。◆◆


■おもておもてに=各人各人に