永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(1125)

2012年06月25日 | Weblog
2012. 6/25    1125

五十一帖 【浮舟(うきふね)の巻】 その33

「かの人の御けしきにも、いとどおどろかれ給ひければ、あさましうたばかりて、おはしましたり。京には、友待つばかり消え残りたる雪、山深く入るままに、やや降り埋みたり。常よりもわりなき、まれの細道をわけ給ふ程、御供の人も、泣きぬばかり恐ろしう、わづらはしきことをさへ思ふ」
――(匂宮は)薫のご様子にたいそうぎくりとなさって、呆れるほどの無理な口実をつくって宇治にお出かけになりました。都では後から降る雪をまつばかりに、かすかに消え残っている雪が、山深く分け入るにつれて、だんだんに降り積もっています。いつもよりもずっと歩きにくく、人通りもまれな細道を踏み分けていらっしゃるので、お供の者たちも泣きだしたい程恐ろしく、全く迷惑なことだとさえ思うのでした――

「しるべの内記は、式部の少輔なむかけたりける。いづかたもいづかたも、ことごとしかるべき官ながら、いとつきづきしく、引き上げなどしたる姿も、をかしかりけり」
――案内役の内記は、式部の少輔(しきぶのしょう)をも兼ねていて、どちらにしても重々しい地位にいる男なのですが、いかにもお供に適しているように、指貫(さしぬき)の裾などを引き上げたりしている姿もおかしい――

「かしこには、あはせむとありつれど、かかる雪には、と、うちとけたるに、夜更けて右近に消息したり。あさましうあはれ、と、君も思へり。右近は、いかになりはて給ふべき御ありさまにか、と、かつは苦しけれど、今宵はつつましさも忘れぬべし」
――宇治の浮舟の邸では、匂宮からご来訪のお知らせがありましたが、まさかこのような雪では、と、気を許していますと、夜更けてから、右近のもとにお着きになったとの申し入れがありました。なんという御愛情の深さかと浮舟も心を打たれたご様子です。右近は、
この方(浮舟)はいったい行く末はどうなってしまわれるのか、と案じられますが、一方では今夜ばかりは、宮の篤いお志に、周囲への気兼ねも忘れてしまったのでしょう――

「言ひかへさむかたもなければ、同じやうにむつまじく思いたる若き人の、心ざまも奥なからぬを語らひて、『いみじくわりなきこと。同じ心に、もて隠し給へ』と言ひてけり。もろともに入れたてまつる」
――お断りする術もありませんので、自分同様に浮舟が親しく思っておられる若い女房で、気立ても浅はかでないのを、仲間に引き入れて「とても困ったことがおきたのです。私に協力して秘密にしてください」と言ったのでした。二人で匂宮をお入れ申し上げます――

「道の程に濡れ給へる香の、ところせうにほふも、もてわづらひぬべけれど、かの人の御けはひに似せてなむ、もてまぎらはしける」
――(二人は)途中で濡れた匂宮のお召し物の香りが、あたり一面に漂うのに困り果てながらも、あの薫の君のように見せかけて、その場をごまかすのでした――

では6/27に。