永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(1118)

2012年06月11日 | Weblog
2012. 6/11    1118

五十一帖 【浮舟(うきふね)の巻】 その26

「まめやかなるをいとほしう、いかやうなることを聞き給へるならむ、とおどろかるるに、答へきこえ給はむこともなし。ものはかなきさまにて見そめ給ひしに、何ごとをも軽らかにおしはかり給ふにこそはあらめ、すずろなる人をしるべにて、その心よせを思ひ知りはじめなどしたる、あやまちばかりに、おぼえおとる身にこそ、と思しつづくるも、よろづ悲しくて、いとどらうたげなる御けはひなり」
――(中の君は)匂宮が本気でおっしゃるのが気にかかって、一体どんなことを聞きつけられたのかしらと驚くにつけ、何とお返事をしてよいか分からずにおります。匂宮は最初から何と言う訳もなく私と結婚されたので(きちんとした儀式もなく)、何ごとにつけても私を軽率に推し量っていらっしゃるのであろう。あまり縁の無い人(薫)を頼りにして、その好意を受け入れたのが過まちのもとで、匂宮からこうして軽く見られるようになったのだとお考えつづけになりますと、すべてに悲しくなって、そのご様子がいっそういとおしいご様子に見えるのでした――

「かの人見つけたることは、しばし知らせたてまつらじ、と思せば、異ざまに思はせて怨み給ふを、ただこの大将の御ことをまめまめしくのたまふ、と思すに、人やそらごとをたしかなるやうに聞こえたらむ、など思す。ありやなしやを聞かぬ間は、見えたてまつらむもはづかし」
――(匂宮は)あの女(浮舟)を見つけたことを、しばらくは中の君にお知らせしまいと思われますので、ほかの事のように思わせて恨み事をおっしゃる。中の君はただ薫のことを本気になって怨んでおられるのだとお思いになって、誰かが根も葉もないことを、真のように申し上げたのだろうとお思いになり、噂の実否を確かめないうちは、匂宮と目をお合せすることも恥かしいと思っていらっしゃる――

「内裏より大宮の御文あるに、おどろき給ひて、なほ心解けぬ御けしきにて、あなたに渡り給ひぬ。『昨日のおぼつかなさを、なやましく思されたなる。よろしくば参り給へ。久しうもなりにけるを』などやうに聞こえ給へれば、騒がれたてまつらむも苦しけれど、まことに御心地もたがひたるやうにて、その日は参り給はず。上達部などあまた参り給へど、御簾のうちにて暮らし給ふ」
――御所から母宮中宮の御文がありましたので、匂宮は驚かれて、まだお心持が晴れやらぬままに、ご自分のお部屋にお渡りになります。御文には「昨日一日お見えにならなかったことを、帝は不愉快に思われていらっしゃるご様子です。よろしかったら是非参内なさい。久しくお目にかかりませんもの」などとの仰せごとなので、ご心配をお掛け申すのも心ぐるしくはあるのですが、ほんとうに病気になってしまったようで、その日は参内なさらず、上達部などが大勢お見舞いに参上しますが、御簾の内で一日中お暮しになっています――

「夕つ方、右大将参り給へり。『こなたにを』とて、うちとけながら対面し給へり」
――夕方になって、右大将(薫)がお出でになりました。「こちらへどうぞ」とお通しして、くつろいだお姿のまま、匂宮はお会いになります――

では6/13に。