永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(927)

2011年04月17日 | Weblog
2011.4/17  927

四十七帖 【早蕨(さわらび)の巻】 その(9)

 宇治にご到着なさって、例の客人用のお部屋に通されますにつけても、お心の中で、

「今はやうやう物馴れて、われこそ人より先に、かうやうにも思ひそめしか」
――大君が生きておられたならば、今頃はだんだんに馴染んでこられて、自分こそ匂宮より先に、大君をこのように京へ迎えようと思っていたのに――

 などと、

「ありしさま、のたまひし心ばへを思ひ出でつつ、さすがにかけ離れ、ことのほかになどは、はしたなめ給はざりしを、わが心もてあやしうもへだたりにしかな、と、胸いたく思ひ続けられ給ふ」
――大君の生前のご様子や、口にされたお気持のあれこれを思い出しながら、それでも大君は自分を避けて特別に恥ずかしめなどはされなかったものを、自分の心一つで妙に遠ざかってしまったことだったなあ、と、今更ながら胸いっぱいに後悔の念が広がっていくのでした――

 そして、

「垣間見せし障子の孔も思ひ出でらるれば、寄りて見給へど、この中をばおろし籠めたれば、いとかひなし」
――かつて、姫君たちを垣間見た襖の孔(あな)も思い出されて、そこに寄ってご覧になりますと、中の君のお部屋を御簾や壁代(かべしろ)ですっかり閉じてありますので、残念ながら覗くことがおできにならない――

 中の君のお部屋では、侍女たちが大君をお偲び申し上げてはお互いに泣いているようです。ましてや中の君は涙がとぎれることなく流れて、明日の京へのお移りのことにも、ぼおっとしていらっしゃるご様子です。薫が、

「月頃のつもりも、そこはかとなけれど、いぶせく思う給へらるるを、かたはしもあきらめ聞こえさせて、なぐさめ侍らばや。例の、はしたなくなさし放たせ給ひそ。いとどあらぬ世の心地し侍り」
――これといって格別のこともございませんが、しばらくの間に積もったお話でも、ほんの片端でもお打ち明け申し上げて気を紛らわせたいものですね。又いつものように極まり悪く冷淡にはおあしらいなさいますな。これではいよいよ思いもよらぬ他国に参ったような心地がします――

 と、おっしゃいますと……。

では4/19に。