永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(922)

2011年04月07日 | Weblog
2011.4/7  922

四十七帖 【早蕨(さわらび)の巻】 その(4)

「内宴などものさわがしきころ過ぐして、中納言の君、心にあまることをも、また誰にかはかたらはむ、と、おぼしわびて、兵部卿の宮の御方に参り給へり」
――例年、宮中の仁寿殿(じじゅうでん)で催される正月の内宴などの、騒がしいひとときが過ぎた頃、薫中納言は胸に保ちかねる大君への思いを、他にだれにしみじみ訴えられようか、と、兵部卿の宮(匂宮)のお住いの御方に参上なさいます――

「しめやかなる夕暮れなれば、宮うちながめ給ひて、端ちかくぞおはしましける。筝の御琴掻き鳴らしつつ、例の、御心よせなる梅の香をめでおはする。下枝を押し折りて参り給へる、にほひの、いと艶にめでたきを、折りをかしう思して」
――しめやかな夕暮れの頃で、匂宮も端近にお出でになり、物思いがちに外を眺めながら、筝の琴を掻き鳴らしつつ、例によって亡き御祖母の紫の上から頂いたお気に入りの梅の香を愛でていらっしゃるところでした。薫がその下枝を折って階を上られますと、匂宮はその香りの何とも言えず艶なのを、折から趣き深くお思いになって、

(匂宮の歌)「折る人のこころにかよふ花なれや色には出でずしたににほえる」
――この花は、折り取ったあなたの心そっくりでしょうか。表には咲き出ずに内に匂いをこめています(表面はさりげなくしていて、内々では中の君を思っているのでしょう)

 と、おっしゃるので、薫は、

(歌)「『見る人にかごとよせける花の枝を心してこそ折るべかりけれ』わづらはしく、と、たはぶれかはし給へる、いとよき御あはひなり」
――「眺めているだけの私に、そのような言いがかりをつけるのでしたら、私もそのつもりで、花の枝を折るのでしたよ(花を中の君にたとえる)」迷惑な邪推ですよ、と、お互いに戯れ合っておられるのは、まことに結構なお二人の間柄というものです――

「こまやかなる御物語どもになりては、かの山里の御ことをぞ、先づはいかに、と、宮はきこえ給ふ」
――真面目なお話になりますと、匂宮は先ず、例の山里のことを、いかがお過ごしかとお尋ねになります――

◆内宴など=内々の節会の義で、正月二十一日に仁寿殿(じじゅうでん)で行われる公事。群臣に題を賜い詩を作らせ、披講があって後に宴を賜る。

◆例の、御心よせなる梅の香=亡き紫の上から戴いて、特別こころをかけておられる紅梅の香

では4/9に。