永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(899)

2011年02月19日 | Weblog
2011.2/19  899

四十六帖 【総角(あげまき)の巻】 その(76)

 さらに、弁の君が心配でしかたのない様子で、薫に申し上げます。

「もとより人に似給はず、あえかにおはします中に、この宮の御事出で来にしのち、いとど物おぼしたる様にて、はかなき御果物をだに御らんじ入れざりしつもりにや、あさましく弱くなり給ひて、さらに頼むべくも見え給はず。世に心憂く侍りける身の命のながさにて、かかる事を見奉れば、まづいかで先立ちきこえなむ、と、思う給へ入り侍り」
――もともと大君は人と違ってひ弱な質でいらっしゃいますが、この匂宮の御事がございましてからというもの、いっそうお悩みも深く、ちょっとした水菓子でさえも、お口になさらぬお積りででもありましょうか、ひどく御衰弱なさって、もうそれほどお命が永らえられますとも思えません。わたしは本当にあきれるほど世に永らえましたために、このような事を拝見することになりました。この上は何とかして真っ先にこの世を去りたいと思い詰めております――

 と、言い終えぬうちに泣き崩れていますのも、まったくもっともなことというべきでしょう。薫は、

「心憂く、などか、かくとも告げ給はざりける。院にも内裏にも、あさましく事しげき頃にて、日頃もえきこえざりつるおぼつかなさ」
――なんと情ないこと。どうしてまた、これほど御重態です、と、どなたもお知らせくださらなかったのですか。院にも御所にも用事が立てこんでいた頃ではありましたが、それにしても近頃お見舞いできなかったことの何と残念だったことよ――

 と、おっしゃって、いつも通されているお部屋に入られ、大君の臥せっておいでになるらしい近くでお話をなさいますが、大君はお声も出ないご様子で、お返事もなさらない。

 薫は、

「『かく重くなり給ふまで、誰も誰も告げ給はざりけるが、つらく、思ふにかひなきこと』とうらみて、例の阿闇梨、大方世にしるしありときこゆる人のかぎり、あまた請じ給ふ」
――(侍女たちに)「このようにご病状が重くなられるまで、誰一人として教えてくれなかったとは何としたこと。もっと手立てもあったでしょうに。なんと辛いことよ。今更どうにもならないではないか」と恨めしくお思いになり、例の阿闇梨はもちろんのこと、世に祈祷の効き目のあると評判の験者ばかりを大勢お招きになります――

 御修法(みずほう)や御読経(みどきょう)を、早速明日からお始めになるおつもりで、家来も大勢集められ、上下の者たちも忙しく立ち働いていますので、昨日とは打って変わって家の中は頼もしげにみえます。

では2/21に。