永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(332)

2009年03月21日 | Weblog
09.3/21   332回

三十一帖【真木柱(まきばしら)の巻】 その(3)

 髭黒大将と玉鬘の縁組を、内裏の帝も聞召されて、

「口惜しう宿世ことになりかる人なれど、さ思しし本意もあるを、宮仕へなど、かけかけしき筋ならばこそ思ひ絶え給はめ」
――残念にも他に縁が定まった人だが、もともと尚侍にという希望もあったことなのだから、参内されたらどうか。女御や更衣のような入内ならば思い絶たれるのももっともなことであろうが(君寵を頼みとする立場ではなく、職業上なのだから)――

 などとおっしゃいます。

 十一月になりました。

「神事などしげく、内侍所にもこと多かる頃にて、女官ども内侍ども参りつつ、今めかしう人騒がしきに、大将殿、昼もいと隠ろへたる様にもてなして、籠りおはするを、いと心づきなく、尚侍の君は思したり」
――神事が続いて、内侍所(ないしどころ・賢所)にも行事の多い月ですので、女官や内侍たちが尚侍の君(玉鬘)の許に参上して、はなやかでもあり、人騒がしくもあります。そのような中で、髭黒大将は、昼もこっそり隠れるようにして、玉鬘のお部屋に籠っておいでになりますので、尚侍の君はたいそう不機嫌でいらっしゃる――

 蛍兵部卿の宮は、ひどく残念でなりません。また、兵衛の督は妹君(大将の北の方)が、大将の為に物笑いの種になっておられる上に、自分も玉鬘を得られなかった嘆きが重なって、沈んでいらしたけれど、今は愚かしいと思い返しています。

 玉鬘はご自分から髭黒大将にお逢いになった訳ではなく、源氏はどうお思いか、蛍兵部卿の宮のおやさしさを思い出しては、恥ずかしく口惜しく、髭黒大将に対しては、

「もの心づきなき御気色絶えず」
――不愉快そうなご様子が絶えないのでした――

 源氏も、玉鬘が自分とのことであらぬ疑いをかけられて、気の毒であったが、その潔白が明らかにされた訳で、

「わが心ながら、うちつけにねぢけたることを好まずかし、と、昔からのことも思し出でて、紫の上にも『思し疑ひたりしよ』など聞こえ給ふ。」
――われながら気まぐれに筋違いな恋に浸りきることは好まないのだ、と昔からのことも思い出されて、今は紫の上にも「大分疑っておいででしたね」などとおっしゃる――

◆かけかけしき筋=懸け懸けしき筋=懸想めいた、好色がましいこと

◆女官ども内侍ども参りつつ=内侍所の女官や内侍たちが六条院のお邸に参上しては、(この場面の玉鬘は、いきなり従三位を賜り、しかも出仕せず、自邸でお役をこなしています。こういう事例もあったのでしょうか。)

ではまた。

源氏物語を読んできて(内侍所)

2009年03月21日 | Weblog
◆内侍所(ないしどころ)=宮中の温明殿(うんめいでん)の別称。三種の神器の一つである八咫(やた)の鏡を安置した所で、内侍が常に奉仕する。賢所(かしこ
どころ)とも。

◆尚侍(ないしのかみ)=内侍司(ないしのつかさ)の長官。常に帝の側近にあって、帝への取り次ぎなどに当たった。妃(きさき)になるという場合もあり、その時には更衣に次ぐ地位として遇された。呼び方として、尚侍(しょうじ)や、尚侍の君(かんのきみ)とも言う。官位は初め従五位相当、のち従三位相当。

◆典侍(ないしのすけ・てんじ)は次官で、定員四人。初め従六位相当、のち従四位相当となる。

◆掌侍(ないしのじょう・しょうじ)は三等官で、定員四人。初め従七位相当、のち従五位相当。