永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(318)

2009年03月06日 | Weblog
09.3/6   318回

【行幸(みゆき)の巻】  その(16)

「亥の時にて、入れたてまつり給ふ。例の御設けをばさるものにて、内の御座いと二なくしつらはせ給うて、御さかな参らせ給ふ。(……)」
――夜の十時に内大臣を御簾の内にお入れします。式に必要な用意はもちろんのこと、御簾の内の御座所(おましどころ)を、二つとなく立派にしつらわせて、御肴(おんさかな=ご馳走)を差し上げます。(灯火をいつもより明るくおさせになり、親子のご対面へのお心づかいをなさいます)――

内大臣は早く玉鬘と話をしたいものと思っておりますが、源氏が、

「今宵はいにしへ様のことはかけ侍るらねば、何のあやめもわかせ給ふまじくなむ。心知らぬ人目を飾りて、なほ世の常の作法に」
――今宵は昔の事は一切申しませんから、あなたも何もご存じないようにお振る舞いください。事情を知らぬ人の手前を繕って、普通の作法通りにお願いしますよ――

 と、おっしゃいます。内大臣は、

「げにさらに聞こえさせやるべき方侍らずなむ。限りなきかしこまりをば、世にためしなきことと聞こえさせながら、今までかく忍びこめさせ給ひけるうらみも、いかが添へ侍らざらむ」
――全くお礼の申し上げようもございません。世に類のないご親切、ご厚意には感謝申し上げますが、今までこのように隠しておいでになったお恨みも申し添えずにいられましょうか――

 と申し上げます。(歌)に、
「うらめしやおきつ玉もをかづくまで磯かくれけるあまの心よ」
――恨めしく思います。裳を着る日まで親に隠れていたあなたの心を――

と、おっしゃって、やはり抑え切れない涙に萎れていらっしゃいます。

 玉鬘は、立派な方々が集まっておられて気おくれがして、ご返歌もお出来になれませんので、源氏が代わって、(歌)

「『よるべなみかかる渚に打ち寄せて海士も尋ねぬもづくとぞ見し』いと理なき御うちつけごどになむ」
――寄るべがなく、取るに足りない藻屑のような身は、探してもくださらないと、思っていました。(玉鬘の心として解釈)

――頼るところもなくて、私のような者のところに身を寄せて、親さえ尋ねて来ない娘だと思ったことでした(源氏の心としての解釈)
あまりにも唐突なお恨み言です――
 
 と源氏におっしゃられて、内大臣は「ごもっとものことで」と、それ以上は申し上げようもなく御簾の外にお出になりました。

◆亥の時=夜の10時。儀式は夜に行う。

ではまた。