ガジ丸が想う沖縄

沖縄の動物、植物、あれこれを紹介します。

セッカの願い

2017年10月20日 | ガジ丸のお話

 「あっ、あの人間、もしかしたら・・・」と思って、慌てて巣の近くへ戻った。その人間はいつもこの畑で何やら作業しているヨーガリ(痩せ)たオッサン。何やら作業はしているが、畑作業のようにも見えるが、作物はあまり出来ていない。
 オッサンはダラダラと作業しているので、畑の多くはたいてい雑草で覆われている。長いことチガヤで覆われていた一角をこのオッサン、今日になって草刈している。
 「バカッ、何するつもりよ!」と私は思わず怒鳴った。オッサンは辺りを見回して、そして、私に気付いた。私には気付いたが、自分の目の前、50センチ先にある私の大事な子供達には気付いていない。気付かないまま草刈を続けた。
 「あー、お願い、これ以上草を刈らないで」と私は願った。巣の中にはまだ孵らない私の大事な卵が、やがて子供となる卵が5個、私の温もりを待っている。その巣が、周りの草を刈られて、周囲から丸見えになったら落ち着いて卵を温めることができない。無防備となった私自身が敵に襲われる。「あー、お願い、これ以上は」と、さらに願う。
 しかし、私の願いは叶わなかった。ヨーガリーオッサンは巣のすぐ傍のチガヤまで刈り取ってしまった。そうしてやっと、巣の存在に気付いた。そしてやっと、作業を止めた。オッサンは、私の巣を傍のチガヤの中に押し込んで後、その場を去った。
 オッサンが去って、その姿が見えなくなってから私は巣を確認しに行った。5個の卵は無事であったが、周囲から丸見えの状況に私は絶望し、そして諦めた。

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 今年(2017年)6月3日、畑で草刈作業をしていると1羽のセッカが私の周りを飛び回って、時折近くに止まって鳴き声をあげる。「煩せぇなぁ、俺は鳥を恋人にする気なんかこれっぽっちも無ぇぞ、そんなに言い寄っても無駄だぞ」と言ってやったのだが、言葉が通じないみたいで、セッカはまだ周りを飛び回っていた。
     
 それから30分も経ったか、セッカが騒いでいる理由が解った。私が草刈している箇所にセッカの巣があったのだ。気付くのが遅くて、巣のあるチガヤを刈り取る寸前となってしまい、巣は剥き出しとなった。巣の中には5個の卵があった。温めている最中だったと思われる。まだ刈り取っていない側のチガヤの中に巣を埋めるようにして隠した。
     
 チガヤの中へ巣を隠して、私はその場から10m以上は離れた別の場所に移動し、そこの草刈作業をしつつ、「卵は大丈夫かな、まだ温められるかな?」と気になって、しばしば巣のあった箇所に目をやる。親セッカが時折近くを飛んでいるのが見えたが、巣の埋もれた箇所のチガヤにまでは近付かない。翌日からも気になって、巣のある箇所を遠くから観察したが、親セッカは、もはや、辺りを飛び回ることもなかった。

 6月11日、セッカの巣を覗くと、5個の卵はそのままだった。
     
 6月18日、卵に異変があった。親の温もりではなく太陽の熱で育ったのかもしれないが、5個の内2個が割れていて、その中の1個からは雛らしきものが見えていた。それは成長途中で止まったようで命の光は見えなかった。
     
 7月11日、卵は全て消えていた。他の動物の餌食になったのであろうと思われる。
     
 7月20日、そことは15mほど離れた場所で2~3羽のセッカが辺りを飛び回っているのに気付いた。親セッカに比べると小さいように見えた。子供のセッカのようだ。私のせいで卵が孵らなかったのではと、申し訳ない思いでいたのだが、「あー、もしかしたらあの卵、残っていた3個は無事に孵化したのかなぁ」と思って、少しホッとする。
     
 8月20日、2~3羽のセッカが辺りを飛び回っていた場所の草刈をしていたら、チガヤの中に鳥の巣を見つけた。大きさ形からセッカの巣と思われた。「あー、そうか、前にこの辺りを飛び回っていた子供セッカはこの巣のものだ」と判明。
     

 6月のセッカの願いは、やはり叶わなかったようである。でも、同じ親セッカかどうかは知らないが、別の巣から子供たちが巣立ったのだ。それで私の罪悪感は薄まった。
 ちなみに、 
 セッカ(雪加・雪下) 
 スズメ目ヒタキ科の留鳥 熱帯、温帯に広く分布 方言名:チンチナー、ガイチン
 方言名のチンチナーは鳴き声から。鳴き声は独特で、姿は見えなくともすぐにそれと判る。初めチャチャッ、チャチャッと鳴き、しばらくするとチン、チン、チンと変る。

 ちなみに、9月8日、クワの木にぶら下がっている鳥の巣を発見、セッカの巣とは材料が少し違う。大きさも少々小さい。メジロの巣だと思われる。
     

 記:2017.9.28 ガジ丸 →ガジ丸の生活目次