ガジ丸が想う沖縄

沖縄の動物、植物、あれこれを紹介します。

瓦版020 ケンカする野生

2007年04月07日 | ユクレー瓦版

 年末は、一般社会では慌しいとのことだが、ここユクレー島はいつもと変わらずのんびりしている。ただ、この時期、暗くなるのが早いってことは他所と同じなので、私がユクレー屋へ飲みに行く時間もいつもより早くなる。概ね太陽が沈んだ頃、言い換えれば黄昏時、言い換えればトワイライトの頃、暗くなるまでのほんの短い時間帯となる。
 黄昏時とは「人の顔の見分け難くなった時分」(広辞苑)とのことで、「誰そ彼は(たそかれは)」(広辞苑)からきているらしい。私も辞書をたまには見る。
 で、大晦日の夕方もまた、「誰そ彼は」の頃、ユクレー屋へ向かった。今日はユクレー島の忘年会。店の門の前で、向こうから歩いてくるシバイサー博士に気付いた。シバイサー博士の外見は非常に特徴があるので、どんなに薄暗くとも「誰そ彼は」と感じることは無い。「やー、博士」と挨拶を交わして、二人並んで、ユクレー屋の暖簾を潜る。

 ユクレー島に住むマジムンたちも忘年会をする。忘年会は大晦日の夜、ユクレー屋に集まる。その日は人間の客も多く来ていて、人間もマジムンも一緒になって行く年を振り返りながら酒を飲む。そして、そのまま夜をふかし、0時を過ぎたら新年会となる。来る年を祝いながら酒を飲む。夜明けにはみなで初日を拝む。その日はユーナもチシャ君も我々と一緒に起きている。ウフオバーは新年の乾杯をしたら寝にいく。シバイサー博士はオバーよりも先に、たいてい酔っ払って寝ている。この二人を除いたみんなは賑やかに飲んで、歌って騒ぐ。この日ばかりはチシャ君もユーナも朝まで起きている。

  そしてまた、日常ではほとんど顔を合わさないガジ丸とモク魔王が、この日ばかりは珍しく同席することがある。ガジ丸はほぼ毎年参加し、モク魔王は数年に一度は顔を出すのである。モク魔王の女房ハルさんも、まれにだが一緒になることがある。今年は、ハルさんはヨーロッパ旅行中とのことで来なかったが、モク魔王はやってきた。
 元は猫同士の二人なのに犬猿の仲の二人。でも、二人が直接取っ組み合いのケンカをするなんてことは滅多に無い。「滅多に無い?」ということは、少なくとも稀にはあるということだ。稀にある二人の取っ組み合いのケンカ。それはいったい、どんな時?
 人類の運命を左右するような大きな仕事をしていて、相対立する立場にいる二人なんだが、そんな、人類の運命を左右するような大きな問題では、かつて一度も取っ組み合うようなことは無かったらしい。それではいったい、二人のケンカはどんな問題で?
     

  その答えを私は知っている。何度か目撃しているからだ。忘年会の席で一緒になっても二人は互いにできるだけ離れている。話もしないし、顔も合わさない。ただ、酒が進んで二人共に酔ってくると、互いの存在を忘れてしまうようで、接近することがある。
 二人の好物は似ている。二人とも昆布巻きが大好物である。たまたま二人が同時にそれに手を出した時、そして、二人の手がぶつかった時、二人は我を忘れたかのように取っ組み合いのケンカをする。二人が野生に戻る時なのである。
 野生に戻った二人は引っ掻き合う。だが、引っ掻き合っているうちに酔いが覚めてくるようで、ケンカは10分と続かない。・・・大事に至ることは無いのである。
     

 語り:ゑんちゅ小僧 2006.11.5