ガジ丸が想う沖縄

沖縄の動物、植物、あれこれを紹介します。

瓦版009 ウミンチュ修行

2007年04月06日 | ユクレー瓦版

 ユクレー島への物資調達を担当しているジラースーは、普段は漁を生業としている。ウミンチュである。ジラースーの人柄にひかれてか、あるいはウミンチュという名前にカッコ良さを感じてか知らないが、今年の春からチシャがジラースーの弟子となった。高校に通う年齢になったこともあって、ジラースーの家で暮らし、そこから学校へ通いながら、週末はジラースーの手伝いをして漁に出て、ウミンチュの修行をしている。
  生来面倒臭がり屋のチシャは、15の齢まで体を鍛えるということをしてこなかった。よって、その体は中年オヤジのようにブヨブヨしている。その体でウミンチュの仕事はきつい。1日の実働時間は3、4時間なのだが、それだけでチシャはヘトヘトになる。チシャが船酔いしたのは最初の日の、最初の1時間ほどだけで、そのあとはもう、船酔いを感じる余裕も無かったのである。細い足に細い腕、ブヨブヨのお腹のチシャが、それでもなんとか漁の仕事を続けられるのは、ジラースーが優しいからに他ならない。
     

 夏休みになって、チシャがユクレー島にやってきた。「ワイワイ遊ぶのも、ダラダラ休むのも人生には必要だ」とジラースーに勧められてのこと。
 その日、さっそくビーチパーティーとなった。シバイサー研究所は海の傍にあり、釣に適した岩場もあるが、海水浴に適した砂浜も広がっている。博士が自分の都合の良いように島を造っているのだから、それはまあ、当然のことである。その砂浜でバーベキューをやり、大人たちは酒盛りをし、マミナ先生が唄い、ウフオバーが踊る。ユーナは、いつもなら泳ぐのだが、いつもなら一緒にチシャが遊んでくれるのだが、チシャは一人で海に潜っている。で、ユーナはウフオバーに教わりながらカチャーシーを踊っている。

  チシャが海から上がってきた。久しぶりのチシャを見て、ユーナが言う。
 「ウミンチュ修行をしているって聞いていたから、もっと逞しくなっているかと思ったよ。貧弱な体はちっとも変わらないね。お腹もブヨブヨだし。でも、色が黒くなった分少しはカッコ良く見えるよ。ニヤけていないで、顔も引き締めたら。」
 「うん・・・こうか?」とチシャは眉を吊り上げ、口をへの字に結ぶ。
 「あー、だめだ、やっぱり。ブヨブヨ体に似合わない。」
 「なんだよー、勝手な事言いやがって!」とチシャはむくれ顔になる。自ら獲ってきた大きなタコと格闘していたジラースーが声をかける。
 「まだ、始めたばっかしだからな。最近、やっと慣れてきて、飯も食えるようになったんだ。筋肉が付くのはこれからだよ。これからぐんぐん成長するぜ。もう後、2、3ヶ月もすれば見違えるようになるぜ。」
 「頭の方も体の成長についていけるといいがな。」と、これは博士。
 「そうだねぇ。それだけが私の気がかりさあ。」とウフオバー。皆が笑う。チャントセントビーチ(この浜の名前、博士の命名)での楽しいパーティーは夜更けまで続いた。
     

 語り:ゑんちゅ小僧 2006.7.30