ガジ丸が想う沖縄

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見聞録006不思議の国の空き巣

2015年09月07日 | ケダマン見聞録

 ある日、「ガジ丸やモク魔王が何故空を飛べるのか?」って訊くユーナに、「元々ネコは、人間に比べて空を飛びやすい体になっている」というような話をした。すると、
 「じゃあさ、その辺にいる普通のネコも訓練すれば空を飛べるの?」と訊く。
 「オメェよ、引力を感じるのは意識の問題だ。引力を意識するような訓練をどうやってネコにさせるんだ?その辺のネコに『宇宙の引力に意識を向けなさい、そうすれば君は空を飛べます』なんて言ってもよ、ネコはキョトンとするだけだぜ。」
 「でもさ、宇宙のどこかの星にはさ、意識の高いネコもいるんでしょ?」
 「そりゃあまあ、いるだろうな。・・・あっ、そうだ。前に、空飛ぶネコが活躍する話をガジ丸から聞いたことがあるよ。」
 というわけで、ユーナに語るケダマン見聞録その6は、『不思議の国の空き巣』。

 その国の住人は、人も、その他多くの哺乳類も、だいたい同程度に知能が発達し、二足歩行をし、手を器用に使い、そして、それぞれに言葉を持っている。
 ヒト型住人とその他(イヌ型、ネコ型など)の住人との間に人種差別のようなものは無かったが、金儲けの能力に多少の差があるせいか、富裕層の大部分はヒト型やサル型が占め、その他の動物型は貧困層に多くいた。とは言っても、富裕層と貧困層との間に大きな対立は無く、互いの行き来は自由で、日常的な付き合いも多かった。特にイヌ型、ネコ型住人の中にはヒト型住人の言葉を解するものが多くいて、また、ヒト型住人の中にもイヌ語やネコ語を話せるものが多くいて、彼らの接触は非常に多かった。

 この国では、ある哺乳類が他の哺乳類を食することは禁じられていた。ここにはまた、地球で言うライオンやトラのような肉食獣はほとんど存在せず、知性を持ったほとんどの哺乳類は草食であり、多少は肉食をするイヌ型、ネコ型住人も、ほんのたまに魚や昆虫を食べるくらいであった。ヒト型だけが、肉食を多く要した。そのため、生きる力という点ではヒト型が最も劣っていた。他の哺乳類たちは野原やジャングルで、その辺に転がっているものを食って生きていけたが、ヒト型だけは生産された食料を必要とし、また、鳥や魚、爬虫類や両生類などの肉も必要とした。というわけで、ヒト型住人にはお金が必要であり、そのため、富裕層でなければならなかったのだ。
 「富裕層と貧困層との間に大きな対立は無い」と言ったが、それは、富裕層は富裕層なりの仕事を、貧困層は貧困層なりの仕事をそれぞれこなし、それに見合った対価をそれぞれに得ており、それについてどちらの側からも大きな不満は出なかったからだ。ではあるが、使うものの中には欲深い者も多少はいて、彼らは使われる者に対し無理な労働を強要した。そういったところではいくらかの対立があった。

 この国に有名な盗賊がいた。昔の月光仮面では無いが、「どーこーのだーれだーか知ーらないけれど、だーれもーがみーんーな知ーってーいーる」みたいな盗賊であった。そういう盗賊がいるということは誰もが知っているが、目撃者がいないので、どこの誰だかを皆が知らないのである。でも、名前は付けられた。怪盗MAO(マオ)という。
 マオは空き巣である。空き巣とは、正確には空巣狙いと言うが、留守の家を狙う泥棒である。彼が狙うのは富裕層の家だけであった。特に、ヒト型住人の大きな家を選んだ。労働者階級から悪徳と思われている家は逃さず狙った。

 留守の家に入り、部屋の中を物色する。その家に古くからあるもので、そう高価では無い、例えば、コーヒーカップとかワイングラスとかの類を一品だけマオは選び、それを懐に入れる。彼が盗る物はそれだけである。他に物や金は盗らない。だけど、もっと大切なモノは盗る。彼が盗るのはその家に住むヒトの思い出、それも、幸せの思い出。
 マオが幸せの思い出を奪いさった家に、その家の住人が帰ってくる。部屋には三本ヒゲのマークが描かれてある。怪盗マオが参上したという証拠である。部屋を調べるとコーヒーカップが1個無くなっている。若い時に使っていたものだが、安物である。何とも思わない。警察にはいちおう連絡するが、事件にはしない。よって、警察も動かない。
 家の住人はいつものように生活を続けるが、すぐに、家の雰囲気が少し変わっていることに気付く。家の中にあるどんなものを見ても愛おしさを感じないのである。古くからある家具や、壁に掛けてある絵などを見ても何の懐かしさも感じないのである。家全体が何かよそよそしい。心に冷たい風が吹き抜けるのを感じる。そうなのだ。幸せの思い出を奪われると、そのヒトの心は貧しくなる。心に大きな穴が空くのである。
 心に大きな穴が空いたヒトは、だけど、何故そうなったのか不明なので、その穴を埋めようと思っても、どうしたらいいかが判らない。初めの頃は躍起になって、これまで以上に儲けようとしたり、美味しいものを食べたりするが、だけどもう、いくら儲けても、いくら美味しいものを食べても満足できないようになる。いつも何か淋しくて、虚しさばかりを感じる。やがて彼は気付く。「私には思い出が欠けているのだ」と。そしてまた彼は気付く。「この虚しさは金や物では埋まらない」と。彼は儲けることに奔走することを止める。使われる者たちに無理を強いることを止める。

 そういったことが何度もあって、やがて、三本ヒゲのマークを残す空き巣が世間の話題となった。その空き巣が入った家の住人が皆、優しくなるということも知れ渡った。三本ヒゲのマークから、その空き巣はおそらくネコ型であろうと推測された。そして、その仕事が不思議で愉快なところから、呼び名が怪盗MAO(マオ)となったのである。
 ※MAOはMiracle Amusement Operatorを略したもの。
     

 以上で、『不思議の国の空き巣』の話はお終いとなる。そしてまた、ユーナがいつものように質問する。
 「思い出を奪われたヒトは、何で優しくなるの?逆じゃないの?心がカサカサにになって、かえって冷たいヒトになるんじゃないの?」
 「うーん、まあ、まれには心が冷たくなるヒトもいたらしいが、だいたいは優しくなったな。心の穴は金や物では埋まらないってことに気付くんだな。」
 「どういうことよ。じゃあ、何で埋まるのさ?」
 「愛さ。」
 「あー、そうか、そういうことか。何よりも愛が大事ってことね。」
 「そうです。愛が大事で、思い出も大事ということだ。」
 「ところでさ、もう一つ分らないことがあるよ。何でさ、どこの誰だか知らない怪盗マオをさ、ガジ丸が知っているの?」
 「この物語は異次元の国の話だ。ガジ丸は異次元へ、デンジハガマの力を借りたりもするが、自由に行き来できる。で、昔、その国へ行ったんだとさ。マオが盗賊稼業を引退してからしばらく経った頃に、直接会ったんだとさ。」
 「じゃあ、マオの姿を見てるんだ。どんな格好をしてたんだろう。やっぱり、ネコ型だったんだろうか?」
 「前に写真を見せてもらったよ。ネコ型だったな。マントを広げて、ムササビのように滑空するネコでさ、闇夜に紛れて、どこからともなくやってきて、風のように家の中に入り、風のように去って行ったんだとさ。だから、目撃者もいなかったんだな。怪盗マオは空飛ぶネコだったというわけさ。」

 語り:ケダマン 2007.2.16