ガジ丸が想う沖縄

沖縄の動物、植物、あれこれを紹介します。

雑草と太陽と土

2012年07月20日 | 通信-環境・自然

 300坪の農地を今、仮に借りている。「仮に」というのは地主さんの御好意だ。
 「いままで30坪ほどの畑をのんびりやっていました、素人農夫です。」
 「それなら急に300坪の畑は大変でしょう。しばらくやってみて、あなたができそうだと思って、長く続ける気持ちになってからでいいですよ、契約は。」
 ということであった。ありがたいことだ。いや、まったく「できる」という自信を持てる根拠はなにも無い。一人で手作業(機械を使わない)のつもりだ。それで、無農薬有機栽培を目指す。体力が持つのか、病害虫に勝てるのか、作物は順調に育ち、それなりの収穫はできるのか、どれも五里霧中、「とにかくやってみる」しかない。

 仮に借りている畑に、「仮」ではあるが早速名前を付けた。ナッピバルと言う。ウチナーグチであるということが判るように片仮名で書いたが、もしも看板を掲げるなら「なっぴばる」と平仮名にしたい。音として柔らかいので、見た目も柔らかくしたい。
 ウチナーグチの慣用句に「ナイルウッピドゥナイル」というのがある。「成る分だけ成る」という意。つまり、「できる程しかできない」、「できる以上のものは求めない」となる。いかにも怠け者のウチナーンチュらしく、「何が何でもできる以上のものを得てやる」という気概が無い。しかし、「自然に任せる、自然と共に生きる」とも捉えることができる。「無理しない」は我が身だけで無く、自然に対しても言っている。
 畑の場合で言えば、太陽も風も気温も雨も人間の無理が効くものでは無く、人間の手を加えることのできる自然は大地となる。よって、「自然に無理をさせない」は「大地に無理をさせない」ということだ。大地になるべく手を加えないようにと思っている。

  これまでの30坪の畑でも(概ね)無農薬有機栽培であったが、除草はこまめにやっていた。コウブシやカタバミ類の根絶はとうに諦めているが、ハイキビ、ススキ、センダングサ類は見つけたらすぐに除去し、今のところそれらはほとんど無い。
 それらはほとんど無いが、コウブシやカタバミ類の他、チドメグサ、オヒシバ、メヒシバ、ハイクサネム、マツバゼリ、オニタビラコ、タンポポ、ハイニシキソウなどがあちらこちらにがあり、木の下、バナナ畑の周辺、敷地の隅っこなどには多くある。
 300坪の農地を借りるのはまだ先のことと 思っていた先月下旬のある日、宜野湾の畑の、普段は放ってある木の下、バナナ畑の周辺、敷地の隅っこなどに蔓延っている雑草の除去をやった。沖縄の夏は収穫、植付などがあまり無く、どちらかと言うと農閑期にあたり、やることが無い。ので、いつもはやらないことに取りかかったのであった。

 4月下旬にシマラッキョウを収穫した個所を5月下旬に耕した。すると、シマラッキョウを植える前はホクホクしていた柔らかい土が、その時は酷く固くなっていた。私は、作物が土壌の養分を消費したせいで固くなったのかと思って、有機農家の知人Tさんに電話し、その旨尋ねた。「収穫した後、土壌を太陽に晒しっ放しだったのが原因だよ。土壌はなるべく日に当てないようマルチングした方が良い」とのことであった。
 木の下、バナナ畑の周辺、敷地の隅っこなどの雑草の除去をしている時に気付いた。そこの土は柔らかかった。雑草は太陽から土を守っているようであった。
          
          

 記:2012.7.20 島乃ガジ丸


古酒の店

2012年07月20日 | 沖縄05観光・飲み食い遊び

 今年3月の模合(もあい:正当な理由のある飲み会)はメンバーの1人Tが発掘した店で、泡盛をメインとした飲み屋。名前を「名もなき店」という。
 その飲み屋が、沖縄広しと言えど(広くはないか?)そうは無い店、たぶん、他に類を見ないのではないかと思われるような店。酒好きの私は、酒飲んで感動することがある。あるといってもまだ日本酒で2度、ウィスキーで1度、泡盛で2度、今思い出せるだけで言えばその5度だけ。しかしその日は一晩で3度も感動した。
 日本酒の2度はどちらも極上の吟醸酒で値段も高かった。ウィスキーの1度はスコッチの30年物、これも高かった。泡盛の2度はどちらもクース(古酒)、これもまた高価なもの。思えば、10年ほど前までは高価な酒もまれにだが飲む余裕があったのだ。今はもうビールをけちって発泡酒しか飲めない日々となっている。

 私の落ちぶれた話はさておき、「名もなき店」で一晩に3度も感動した酒はいずれも泡盛のクース、クースとは泡盛を3年以上寝かしたものを言うが、『沖縄大百科事典』の記事を借りると、「泡盛を長期間密閉容器に貯蔵した酒。ことばでは表現できないような芳香を発し、ほとんどアルコール味を感じさせないまろやかな甘味を呈する酒」とある。この記事を書いた人はこよなく泡盛を愛し、極上のクースを飲んだ人なのであろう。
 その辺のスーパーに行けば、クースは手に入る。安いものだと一升瓶で3千円位のものがあるが、四合瓶で数千円のものも含めて、その程度では「ことばでは表現できないような芳香を発し、ほとんどアルコール味を感じさせないまろやかな甘味」には至らない。四合瓶で1万円を超えるものだと、「うむ」と肯き、笑みも漏れる。

  さて、「名もなき店」で一晩に3度も感動した酒はいずれも「芳香を発し、ほとんどアルコール味を感じさせないまろやかな甘味」であった。「芳香」は、泡盛の持つアルコールの刺激臭が微塵も無く、上品に甘い。うっとりする甘さ。私が言葉にすれば「和装の吉永小百合がにっこり微笑んで出してくれた上品な和菓子の匂い」となる。
     

 「どこからこんな旨いクースを手に入れるのですか?」と店長に訊いた。
 「店じまいするマチヤグヮーをあちこち回って入手しました」との答え。

  マチヤグヮーとは小売店であり、今のコンビニのようなもので生活に必要ないろいろなものを置いてある店。倭国でいう雑貨屋に近いかもしれない。そこはまた、その横町の情報が集まる場所であり、横町の人々が情報交換をし、ただユンタク(おしゃべり)する場所であり、店主と客の数人がお茶を飲みながら時間を過ごす場所でもあった。
 マチヤグヮーはコンビニに押され、しだいに少なくなった。つまり、マチヤグヮーはどんどん店じまいしていった。マチヤグヮーのほとんどは酒も販売していて、泡盛も多く置いてあった。古いマチヤグヮーには当然、売れ残りの古い泡盛もあった。
 泡盛のクースは概ね甕に貯蔵して何年も寝かせるのだが、瓶の泡盛でも環境が良ければ旨いクースになるらしい。それを店長は狙って、買い入れたのだそうだ。他にも酒造元が何かの記念で出したビンテージ物を買い、それらも長く保管しているとのこと。
 泡盛をこよなく愛す店長のいる店、酒の好きな人は肴もおろそかにしない。クースがあまりに美味くて何を食ったか覚えていないが、肴もたぶん美味しかった。
     

 記:2012.7.8 ガジ丸 →沖縄の生活目次

 参考文献
 『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行
 『泡盛の文化誌』萩尾俊章著(有)ボーダーインク発行