今日は昼間から肉体労働をしている。ジラースーの船からデンジハガマの洞窟に荷物を運ぶという仕事。いつもならそれは、ガジ丸とジラースーの仕事なのだが、今日はジラースーがいない。で、私とケダマンがジラースーの交代選手となった。
ジラースーは今、ユクレー屋の屋根修理をしている。それは先週、ケダマンがやったらしいのだが、その翌日ジラースーが点検したところ、「まるでなっていない」ということであった。ということで、ジラースーは今、ケダマンの尻拭いの最中である。
荷物を大方運び終わって、休憩時間に、
「屋根修理、まるでなっていなかったんだってな?」とケダマンに訊いた。
「あー、初体験だったんだ。しょーがねぇだろう。」
「あっ、そうなんだ。やったこと無いんだ?」
「おう、マナにもそう言ったさ、俺は屋根葺き職人じゃ無ぇ、ってよ。」
「うん、確かにそうだな。専門的な技術が要りそうだな。」
「するとよ、マナはこう言ったんだ。『不器用だね、あんた。』ってさ。」
ということであった。それにしても、「不器用だね、あんた。」ってことについては、ケダマンに私は同情する。不器用は不器用なりに頑張ったと思う。結果だけで判断するのは、多くの女が癖として持っているが、努力は認めて欲しいものである。
今日は、私とケダマンが珍しく働いている。荷物運びという肉体労働である。「二匹でもジラースー一人分の働きに遠く及ばない」とガジ丸の評価であったが、小さい体で我々も頑張っている。その努力は、ガジ丸はちゃんと認めてくれている。
ユクレー屋の生活物資は、そのほとんど(緊急に必要とされるもの以外)は一旦、デンジハガマの洞窟に保管される。ジラースーの船は洞窟に入り、保管場所の近くに泊められる。我々は船から荷物を取り、台車に乗せ、それを保管場所まで運ぶ。そう多くは無い。30回ほども往復すれば終わる。村の三長老、勝さん、新さん、太郎さんたちは船に乗ったままで、物資のチェックと、軽めの荷物を船の奥から表へ出す作業をしている。
まあ、というわけで今回、久々にデンジハガマの洞窟に入って、番人であるデンジハガマにも久々に会った。相変わらず無愛想だが、気はいい奴だ。孤独癖があるだけだ。おしゃべりを好まないのだろう。独りで日夜、瞑想に耽っているらしい。
デンジハガマは島にとって重要な役を担っている。洞窟に保管された物資は、必要に応じて適宜、ユクレー屋の倉庫と村の倉庫とに運ばれる。その作業は、ガジ丸もたまにやるらしいが、たいていは、デンジハガマがやっている。彼は時空の歪みをコントロールできる技を持っている。それで、洞窟と村の倉庫などを隣り合わせにしている。
「ドラエモンのどこでもドアみたいなもんだよね?」と前に訊いたことがある。
「バカ言うんでねーよ。そんな安易な名前じゃねーよ。俺のは『どのみちこのみち』って言うんだよ。どの道もこの道へ繋がるってこった。また、この世のモノは全て、どのみちこのみち、いずれは行き着く所へ行き着くって深い意味があんだよ。」ということであった。時空を超える出入口の名前が『どのみちこのみち』という。確かに深い。
さて、その仕事が終わったのは夕方となった。ユクレー屋にはいつもより遅くなる。遅いといっても7時前。この時期、この時間は夕焼けの時間。空はきれいに輝いて、風はそよ風、肉体労働の後のビールがとても美味しい。
「ぷはーっ、労働の後のビールは旨ぇなあ。」と、ケダマンと私は大満足する。
ジラースーは既に屋根修理を終え、シャワーも浴びて、サッパリとした気分で飲んでいる。やがて、ガジ丸や勝さん、新さん、太郎さんも加わって、賑やかになる。
そんな賑やかな中で、前からちょっと気になっていたことを思い出した。ジラースーが結婚に踏み切った真相である。ジラースーとマナが結婚してもう二ヶ月になる。そろそろ訊いてもいい頃かなと思う。マナは今、台所で料理をしている。ガジ丸は勝さんたちのテーブルにいて、カウンターにはジラースーとケダマンと私の三人だけだ。
「ジラースー、訊いてもいいかな?」
「なんだ?改まって。」
「なんでさ、一度振った女と結婚する気になったんだ?」
「振った女って、マナのことか?・・・振ったというわけじゃないぞ。」と、意外にもジラースーはあっさりと答えてくれた。
「まだ若いマナが、なにも俺みたいな年寄りと一緒にならなくてもいいじゃないかと思って、そう伝えただけだ。ただ、彼女が『一緒にいたいです。』と言ったときにな、すごく愛おしく感じたんだ。大事にしなきゃあと思ったんだ。」
「惚れたってわけだね?」
「まあ、そういうことだな。」
「おー、ぬけぬけと言いやがる。」と傍で聞いていたケダマンが揶揄する。
「あー、恥ずかしながら、年甲斐も無く、というわけだが、どのみちこのみちいずれは死ぬんだから、死ぬまでは楽しく生きていようと思ったんだ。楽しく生きるためには、ときめいているのが最も有効な手段だと気付いたんだな。」ということであった。
記:ゑんちゅ小僧 2008.6.6