馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

暑い夏には・・・

2023-07-31 | labo work

ことしの夏はどうやら北海道も暑いようだ。

湿度も高く、不快指数が高い日が続いている。

もう雨も3週間ほど降っていない。

先週は私は検査当番。

熱中症の血液検査が数件来ていた。

体温40℃近く・・・・

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これは馬回虫の卵。

下等生物なので1匹でも大量の卵を産む。

その産卵する成虫は、1匹1匹が、小腸を這い出て血流に乗って肺へ至り、気管支から喉頭へ出て、そして嚥下されてまた小腸へ寄生している。

大量に、だ。

これも季節ものと言えば季節もの。

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Prototheca たぶんzopfii

葉緑素を持たない藻類の1種で、まれに牛の乳房炎から分離される

夏に限るわけではないが、暑さで免疫が落ちて誘発されたのかもしれない。

そして環境中の水や土壌の中でも暑さで増殖しやすいのだろう。

乳房炎検体からのPseudomonas の分離も増えているように思う。

これも暑くて牛舎の水回りの汚れの中で増殖しているのかもしれない。

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でも7月も終わり。

北海道のこんな暑さはあと1-2週間だろう。

 

 


酪農学園大で講義 獣医学教育の変遷

2023-07-29 | How to 馬医者修行

先日、酪農学園大で講義をしてきた。

私に振り当てられたのは、「馬の呼吸器病」と「馬に携わる獣医師として」。

90分ずつ2コマになります。

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5年生たちは真面目に聴いていた。

質問は無し。

馬の臨床に興味があるのかないのか・・・わからない。

           ー

今年の獣医師国家試験の合格率は低かった。

COVID19のせいで獣医科大学も講義はオンラインになり、学内実習がまともにできず、外部へも実習に出られない被害を受けた世代。

学力が低下したせいだったのかどうかは私にはわからないが、獣医科学生の気質や経験値も変わってしまったのかもしれない。

           ー

講義のあと、Skills Lavoratory という建物を見せてもらった。

3階建て校舎を1つ使って、模型、モデル、模擬診療室、模擬手術室を使って実習できるようになっている。

イヌ、ウマ、ウシ、ヒツジ、etc.の模型が並んでいた。

馬だと、その模型で、採血、静脈注射、バンデージ巻き、直腸検査、難産介助、etc.が体験、練習できるようになっている。

その模型の馬の頭部はゴム?シリコン?でできていて、柔らかく、とてもリアルだった。

海外製。

ん百万するのだそうだ。

120人学生が居るので、8名ずつ実習しても先生方は15週間それを繰り返すことになる。

たいへんな労力だ。

本当にお疲れ様です。

           ー

馬の実習のリーフレットもいただいてきた。

実習内容が写真入りで説明されていて、採血・注射からX線撮影まで解説されている。

「馬の後ろに立つな」が各項目で書かれている;笑

           ー

私なんぞは、どうやってそれらのことを覚え身につけて来たのだったか・・・・・

もう、「先輩の背中を観て学べ」ではダメなんだし、

「痛い思いをして身につけろ」もありえない。

そういう時代になろうとしているのだ。

           ー

私は内科学教室の出身で、外科手技を基本から教わったことはない。

それでも必要とされるから、日本では誰もやったことがない、あるいは成功例がない馬の手術をいくつもやってきた。

「教わってないからできない」と思ったことはないし、

「習ったことがないけどやっていいですか?」と訊いたこともない。

まあ、時代は変わるのだ。これは”進歩”というものなのだろう。

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スズメバチが家の玄関近くに巣を作っていたので

殺虫剤ハチジェットを武器にやっつけた。

マニュアルはないぜ;笑

必要なものは何だ?!

 

 

 

 

 

 

 


過肥馬の疝痛・開腹

2023-07-26 | 急性腹症

繁殖牝馬が夜間放牧中から疝痛を起こしていた、とのこと。14歳。

鎮痛剤に反応せず、鎮静剤を投与しても痛い。

PCV49%

超音波で、右腹部は・・・

この馬は肝臓右葉が平べったく広がってるのか?と思った。

右腹部、もう少し尾側では膨満した小腸が見えた。

その辺りでも、腹壁のむこうに、左側だったら脾臓と見間違えるような”組織”があった。

胃チューブを入れたが、固形物ばかりのようで回収できない。

           ー

手術室が空いたらすぐに開腹する。

腹水は赤く、濁っていた。

空腸の纏絡だったようだ。

すぐに解けてしまい、どう絡んでいたのかわからない。

しかし、一部は完全に壊死しており、その上位も長く損傷していた。

6m切除して空腸空腸で端端吻合した。

           ー

閉腹するのだが、腹膜下脂肪が異常に厚い。

腹部超音波で見えていた腹壁奥の平坦で厚い”臓器”はこの脂肪層だったのだ。

私はいつもは腹壁を縫合閉鎖するときに腹膜の白線を縫合糸でひっかけるようにしている。

そのことで腹膜が欠損した腹壁にならない。

しかし、この馬は腹膜下脂肪が厚すぎて、それはあきらめた。

厚さ10cm以上あっただろう。

それを拾えば縫合糸が遠回りしすぎる。

腹腔の中へ手を入れると、腹膜下脂肪にはくびれができて段になっていた。

もうそれ以上厚くなれず、モコモコと・・・・腹腔内三段腹。

           ー

空胎だったのが、受胎している繁殖牝馬だった。

それにしても太りすぎで、餌は減らしているところだった、とのこと。

飼主は馬の肥満に気付くのが遅れがち

生産地のサラブレッドも、もう太りすぎの馬がかなり居る。

病的肥満は、

蹄葉炎をはじめとする蹄の問題を引き起こすし、

運動器全般にも負担になるし、

子馬の生産にとっても望ましくない。

過大仔、子馬の腱拘縮、難産、の要因になることも疑われている。

誰かしっかりした調査をしてくれないだろうか。

           ー

この馬は手術後数時間から疝痛を示した。

胃拡張があったようで、胃内容を洗い出し、リドカインの点滴を始めていくらか落ちついたが、まだ胃逆流があった。

経過から判断すると、吻合部の通過障害とか、術後イレウスPOI というより、「食い過ぎ胃拡張」のようだった。

徐々に落ちつき、水を飲めるようになり、わずかずつ食べられるようになり退院していった。

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運動しながら少しずつ採食する

それが自然な健康な生活

わかっちゃいるけど難しいのは知っている

 

 

 


イベルメクチン駆虫後の疝痛は血塞疝だったのか?

2023-07-23 | 急性腹症

10歳の繁殖雌馬が、朝イベルメクチンで駆虫したあと、午後から疝痛を示すようになった。

激しい痛みではないが、前掻きし、横臥したそうだ。

治まらないので夕方来院した。

立っていられるが、前掻きする。

超音波検査で肥厚した内容のある小腸が見えるが、膨満してはいない。しかし、収縮運動はない。

PCV39%、乳酸値2.8mmol/l。

直腸検査では、腹圧は高くなく、明確な異常なし。

鎮静したら落ち着いていたので、入院厩舎へ入れて様子を観ることにした。

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鎮静が醒めたら、やはり痛い。滾転する。

開腹したら膨満部はない。

空腸の色調が悪く、粘膜が斑状に紫になっているのも見える。

円虫による栓塞で血行障害を起こしているのか?

イベルメクチンで動脈の中で死んだ仔虫がその先の動脈を閉塞させたのかもしれない。

前腸間膜動脈を触ってみる。

塊状になっているように感じる。しかし、しっかり拍動はある。

腸間膜の細めの動脈も拍動している。

盲腸、大結腸、小結腸もそれぞれ引き出すが、色調も正常、肥厚もない。

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手術後、入院厩舎でヘパリンを入れた持続点滴をすることにした。

翌日、馬の状態は良好で、疝痛もなく、退院していった。

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この馬が寄生虫性動脈栓塞による疝痛だったのかどうかわからない。

血塞疝はひどいと助けようがなく死亡する

秋から冬の当歳馬に多い気がするが・・・・・

繁殖雌馬でも起こる

開腹手術して助かった記憶はほとんどない。

外科侵襲は血液凝固系を刺激し、血栓を悪化させるのではないだろうか。

もともと腸管壊死が始まっているので、進行したら希望はない。

イベルメクチンで駆虫後に疝痛を示す馬はときどきいるようだ。

今回の症例を含めて、それらが血塞疝なのかどうか、わからないし、調べる方法も難しい。

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動物の多くは、ヒトの眼と比べると色弱だ。

ヒトの眼がどうして色調判別に優れているかは諸説あるようで、

果物や木の実の熟成を判断できることが生存に有利だったからとか、

他の固体の顔色を判断できることが生存に有利だったからとか、も考えられているらしい。

獣医師として生き残るのにも、色調の判断に優れていることが有利、なのはまちがいない;笑

 

          

 

 


大腿部での駆血方法

2023-07-11 | technique

1歳馬のフレグモーネ。

最初は飛節の腫れだったが、下肢にも広がった。

RLP ; Regional Limb Perfusion 肢局所灌流をするのが良いだろう。

しかし・・・・・

飛節の近位まで腫れあがって静脈が見えない。

触っても波動を感じられない。

下肢から駆血帯を巻き上げて、後膝の下で駆血したが、それより遠位は腫れていて静脈を刺せない。

それで、膝蓋骨より上で駆血帯を絞めて、それに棒を入れてグルグル回して絞めた。

棒を持ち上げておくことで駆血帯が遠位へずれることを防ぐ。

後膝のすぐ下の内側で静脈に留置針を刺すことができた。

駆血している間に、飛節辺りでも静脈が浮いて見えてきたので、駆血できているのだろう。

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肢や腕に巻いたロープや包帯に突っ込んだ棒を回すと強く駆血することができる。

これは止血にも使える。

しっかり巻き付けるより強力に締め付けることができるが、長時間締めてはいけない。

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私は登山やボーイスカウトの救急法として習った。

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きのうは、

中手骨顆骨折をLCP固定した2歳馬のプレート除去手術。

当歳馬のロドコッカスによる筋間膿瘍の切開。

1歳馬の頚椎のX線撮影。

当歳馬の下顎骨折のプレート抜去。

1歳馬の飛節OCDの関節鏡手術。

放牧地で鼻血を出した1歳馬の検査。

2歳馬のDDSPの軟口蓋のLaser焼烙。

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「馬運車何台も停まってますけど?」

「獣医師3人で対応してるんですけど・・・・笑」

そうそうお待たせしないで対応できたと思います;笑

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ギボウシ、ホスタも少しずつしか大きくならない。

でも、ちゃんと宿根してくれて、毎年少しずつ大きくなっているようだからいいか。

人も同じ。