馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

馬の科学 廃刊

2019-06-30 | How to 馬医者修行

「馬の科学」が廃刊になるのだそうだ。

驚いたし、とても残念だ。

私が馬の獣医師になった頃、年に12巻発行されていた。

馬の獣医学や臨床や研究や海外情報の記事がいっぱいで、毎号隅々まで読んでいた。

前身の「獣医技術」も書庫に蔵書されていた。

専用のファイルもあったので、私は全巻そろえていた。

JRA競走馬総合研究所の普及誌ということになっているが、臨床家にとってもとても興味深い内容で、若い馬の獣医師にはたいへん勉強になった。

JRAのトレセンでどのような診療や研究が行われているかを知ることもできた。

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日本ウマ科学会が発足したとき、「臨床家には関係ない会だな」と思って入会しないつもりだった。

(そう思う充分な理由があったと思う)

しかし、「今後はウマ科学会の会員に配布するが、それ以外には配布しません」とお触れがあったので、

馬の科学を欲しいためにウマ科学会に入会した。

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そのうち季刊になった。

そして、今回、廃刊されるとのこと。

現在は情報が取り易くなったので、情報誌としての使命を終えた、とのこと。

それには疑問も残るが、経費削減や手間のこともあるのだろう。

かえすがえす残念だが、致し方ない。

「馬の科学」を楽しみに読んで刺激を受けた時代を思い出すし、

たいへん勉強させてもらったことに感謝したい。

 

 


1ヶ月齢の橈骨螺旋骨折

2019-06-28 | 整形外科

出張前日にやった橈骨骨折LCP固定について記録しておきたい。

この子馬は、X線撮影されていたが、添え木は当てられていなかった。

橈骨完全骨折は、前腕の内側へ開放骨折になりやすい。

綿包帯で肢を巻いて、蹄から背まで以上の長さの添え木を当てて、添え木と肢をガムテープやダクトテープで固定しておいてもらいたい。

開放骨折になっていたら・・・・・・・救命率は大きく下がってしまう。

橈骨神経が切れたら・・・・・・・予後不良だ。

これは手術台に乗せて肢を吊り上げたところ。

吊り上げる前はひどく変位していた。橈骨神経が心配だ。

幸い、小さな皮膚穿孔もなかった。

整復は難しかった。

結局、肢を思いっきり引張り挙げた状態で、内外にずれている骨折部を大きな骨鉗子で挟みつけたら、ほぼ整復できた。

4.5mmscrewをlag fashion で入れて仮止めした。

ブロードLCPを当ててみる。

頭側にブロードLCPを固定した。

骨折部の1孔だけはempty holeにした。

内側にナローLCPを当ててみる。

ナローLCPを固定した。

悪くないと思う。

最初のX線画像で、螺旋骨折部から近位へ亀裂が伸びている。

それには術後に気がついた。

内側のLCPの近位側のscrewは1本はLHSではなくて皮質骨screwを使うべきだったかもしれない。

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子馬は、麻酔がかかったまま敷藁を敷いた馬房へ入れて母馬と一緒にした。

その方が安心して、すっかり麻酔が覚めるまで寝ているだろうと考えた。

起立は問題なく、その夕方のうちに起き上がった。

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夏至を過ぎて、

だんだん日が短くなる。

これから暑さへ向かうとはいえ、寂しい気がする、ナ!?

 

 


東京タワーの元で

2019-06-27 | 講習会

朝の便で、羽田へ。

京急で東銀座へ。そこで地下鉄日比谷線に乗り換えて、神谷町へ。

ロシア大使館を警備しているおまわりさんの物々しさに驚きながら、麻布台ビルへ。

全国公営競馬獣医師協会の事務所へははじめて来た。

午後、総会。

そのあとで、1時間、競走馬の骨折の応急処置と治療について語らせていただいた。

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研修事業に20年協力してきたことに感謝状と立派な記念品をいただいた。

懇親会の三次会から抜けて、外へ出たら、東京タワーが輝いていた。

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また早朝の便で北海道に戻り、昼過ぎに職場へ出たら、午前中に開腹手術があったとのこと。

午後にも当歳馬の疝痛がやって来た。

 

 


1ヶ月齢の橈骨螺旋骨折

2019-06-24 | 整形外科

午前中、1歳馬の飛節OCDの関節鏡手術。

つづいて、6歳競走馬のEE Epiglottic Entrapment 喉頭蓋捕捉の切開手術。

昼休みしていたら、子馬の頭骨骨折の連絡。

午後に予定していた関節鏡手術とDDSPの治療を延期してもらって、内固定手術することにした。

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私は仰臥で手術するのを好む。

写真はどういうわけか回転できないのだが、折れた肢はホイストで吊っている。

体重を利用して整復しようとしているわけだ。

橈側手根伸筋の内側に沿って橈骨に至り、橈骨に大きな骨鉗子をかけた。

整復を試みるが、だめ。

螺旋骨折なのだが、長斜骨折のようでもある。

今日は、「へ」の字作戦はダメだった。

思いっきり引っ張っておいてもらって、大きな骨鉗子で挟むことでずれがなくなって、なんとかlag screw で仮止めできるようになった。

仮止めできたら一安心。

テンプレートでLCPの形状を決める。

が、私はだいたい橈骨をはじめ、いろいろな骨の形状を経験で知っている。

微調整は、実際にプレートを骨に当ててみるしかない。

LHS用のドリルガイドをハンドルにしてLCPを橈骨に押し当てておいて、push-pull device をねじ込んでLCPを橈骨へ押しつける。

まず骨折部近くに皮質骨screwを入れる。

近位側と遠位側へLHSを入れる。

骨折線にかかっている一つの孔はscrewを入れないことにした。

内側にはナローLCP11穴を当てた。

やれやれ、それでも手術は2時間ほどだった。

明日は東京へ講演に行かなければならない。

この骨折手術の最中に、2歳馬の疝痛の依頼が来ていた。

骨折手術が終わるのにあわせて連れてきてもらい、すぐ開腹手術になった。


馬の高カリウム血症の治療の総括 Results

2019-06-24 | 学問

さて、馬の高カリウム血症の治療について、AAEPでの講演を紹介してきた翻訳文も最後。

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Results

高カリウム血症の治療はしばしば一時的で、元の内科的状態が解消するまでの橋渡しである。

HYPP hyperkalemic periodic paralysis の症例は急速に改善され、長期間の管理はその後の問題を予防しうる可能性がある。

膀胱破裂は外科的に修復することができ予後は良好である。

しかし、それ以上に長期的予後が良くない状態(急性腎不全)は、初期には改善を見せても、後に悪化するだけかもしれない。

一般的法則として、高カリウム血症は、尿が作られていない患畜より、機能的な腎障害がある馬での管理の方が容易である。

Discussion

馬臨床家は述べてきた治療方法を高カリウム血症の初期治療として用いることができる。

輸液と下記のリストは容易に行うことができ、救命となりうる。

馬の高カリウム血症の臨床的治療

1. バランスのとれた等張の電解質液の5リットルバッグ

2. 加えて、50%ブドウ糖500ml

3. 加えて、レギュラーインスリン0.5ml(100units/ml)

4. 加えて、23%カルシウムグルコネート500ml

この輸液合剤は、1時間あまりで10ml/kgの量を投与できる。

もし静脈内輸液治療が遅れるなら、アルブテロールの吸入投与を行うことができる。

長期のケアとして、ブドウ糖とインスリンが入った静脈内輸液はフロセミド投与と同様、使うべきものかもしれない。

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この文章は、高カリウムが危険だから、救命目的で対処することが主眼となっている。

細胞内からカリウムが抜けた状態であるなら(腎不全や膀胱破裂での高カリは別にして)、カリウムを細胞外液から細胞内へ戻してやることは、一般状態の改善にも役立つのではないだろうか。

ブドウ糖の積極的利用はやってみようと思う。

それによりインスリンの分泌を促すこともできる。

どこかのタイミングで、血糖値のモニターもしておくと良いだろう。

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盛夏が近づいてきた。

繁殖シーズンも終わり。

牧草作業も始まるようだ。

今週は東京で1時間講演、来月は3時間の講習と3時間の講義を頼まれている。そして・・・・9月までに教科書の文章を書かなければいけないんだった。

8月には学会と症例検討会もある。

負けずに夏を楽しもう!!