馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

臼歯間隙とサク癖治療

2020-11-30 | 歯科・口腔外科

9歳繁殖雌馬。

初産前から噛み出しするようになり、妊娠末期に流産。

交配したが受胎せず、痩せて、毛ヅヤも悪い。

案の定、下顎臼歯に隙間があって、食べたものが詰まっている。

全身麻酔して、隙間を広げる処置をすることにした。

鼻から気管チュープを入れておく。

呼吸抑制があるプロポフォール麻酔で維持するし、口の中を洗浄した水を誤嚥させないで済む。

歯周病と言っていいのだろう。

410はグラついていた。

隙間を広げることで、物は詰まっても外れやすくなる。

その間に歯周病が治まって歯肉が回復すれば物が詰まりにくくなる。

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この馬、サク癖もひどいらしい。

サク癖バンドをしたら、嫌がって暴れるのでできないのだそうだ。

上顎切歯を抜くことにした。

9割のサク癖馬はそれでサク癖を止める。

草を食べるには問題はない。

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ジャパンカップは観れたよ。

すごかった。

三冠馬の1,2,3。

アーモンドアイ。強かったね~

今週、お休みします。

診療の相談、依頼は職場へどうぞ。

 

 


下顎切歯骨骨折の結束帯による固定

2020-11-29 | 整形外科

土曜日、午前中、競走馬の腕節骨折の関節鏡手術。

来院して触ってみるが、左右どちらの腕節も熱感がない。

着もひろっていない2歳馬。

早くに骨折していたのかもしれない。

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終わったあと、3歳馬が下顎を骨折したとの依頼。

「歯がめくれた」ではなく、「切歯と臼歯の間で折れている」と聞いたので、

電動ドリル、プレート、スクリュー、内固定器材、ベンディングプレス、などプレート固定フル装備を用意した。

来院したら、たしかにひどいが、切歯骨骨折だ。

めくれてないのは、303だけ。

これは、切歯をワイヤーで臼歯へとひっぱらないといけないか、と思い、鼻から気管挿管して吸入麻酔することにした。

手術台で仰臥にして、よく観るとほぼ完全に整復できる。

そして、3歳雄馬なので、犬歯(304・404)が歯肉の下に生えてきている。

その犬歯へワイヤーかプラスチック結束帯で縛ってやれば固定できるかも・・・・・

1本だと短いので、結束帯を2本つないで、それを下顎にグルリと回すようにして締結した。

それを3セット。

3歳馬なので、303,403は乳歯。

その根元に埋まっている永久歯を犬歯304、404へ引張れたのだろう。

グラついたりしなくなった。

歯肉は縫合しなくても良いくらい閉じた。

口カゴをして、2日間絶食してもらうことにした。

その間に、傷も閉じ始めるだろう。

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午後に予定していた飛節OCDの関節鏡手術は30分遅れで始めることができた。

日曜日は牧場が手薄で手術予定を入れたくない牧場がある。月曜から土曜はこちらの予定が埋まっている。

予定を変更せずに済んでヨカッタ。

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91の父がジャンパーの袖のマジックテープがくっつかなくなった、と言うので、

マジックテープを買って来て、前のテープの上に縫い付けた。

縫合は外科医の基本さ;笑


季節はずれの結腸亜全摘

2020-11-27 | 急性腹症

朝、相棒と散歩中に電話。

4歳繁殖雌馬、疝痛、フルニキシン・鎮静剤無効、胃カテでガスのみ、直腸検査で腸紐の緊張あり、etc.

きちんとするべき検査をして、要領よく状態を伝えてくれる診療依頼はかえって珍しい。

午前中に予定していた手術は延期してもらった。

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来院したら、痛くて立っていられない。

血液検査で、PCVと乳酸値が、47%、3.4mmol/lと高いのを確認して、即開腹。

結腸内容は多くないが、大結腸の絞扼による損傷はかなり。

骨盤曲切開部の粘膜もあまり良くない。

骨盤曲近くには、結腸壁が血腫になって肥厚している部分があった。

結腸動脈も異常に太い部分がある。

骨盤曲を縫合閉鎖して、捻転を完全に整復しても左側結腸の色調は回復しない。

切除・吻合することにした。

切除部分でも粘膜は健常ではなかった。

結腸動脈は、6重に結紮しなければならなかった。

季節はずれの大手術になった。

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あるときから、ムクゲのつぼみが開かなくなった、と思っていたら、

花が落ちた後の種だった;笑

 

 

 


手こずるかなと思った関節鏡手術2例

2020-11-26 | 関節鏡手術

朝、当歳馬の飛節OCDの関節鏡手術。

骨軟骨片が足根骨の前(背側)へ落ちていて、やっかいかな、と思って自分でやる。

が、さほど苦労はしなかった。

距骨外側滑車から剝がれた軟骨は3cmと大きかったものの、関節包に癒着もせず、近位足根間関節にはまり込むには大きすぎたようだ。

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午後も、第三手根骨の不完全な盤状骨折で、screw固定しなければならないので自分でやる。

不完全盤状骨折、と思っていたが、完全に割れており、関節内にも亀裂があった。

針を刺して位置の目印にする。

3.5mm cortical screw をlag technique で挿入した。

位置は良好。

しかし、この第三手根骨、よく見ると内側が矢状 sagittal 方向にも割れている。

さらにその外側よりに亀裂が見える。

もう一本screwを内側から外へ挿入するか考えたが、押さえたい骨の幅や厚さは screw head に比べて小さすぎる。

無理をして崩れたら残念なことになる。

通常の盤状骨折でも6ヶ月以上の安静・休養が必要だ。

しっかり休めば第三手根骨も回復するだろう。

橈側手根骨の損傷部をデブリドして手術を終了した。

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この2歳雌馬、注射をうつのもたいへん。

その性格も直せ。

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新たな修行を始めた。

とても難しく、厳しい;笑。

 


蹄側裂創

2020-11-24 | 蹄病学

初冬の日曜日。

5頭が来院の予定。

朝イチは、第一指骨の腐骨・骨柩症。

吸入麻酔して、手術台で仰臥にして、

骨増勢を削って、腐骨を摘出して、贅骨を削って終了。

           ー

その終了前に、飛び入りで3歳種雄馬の外傷。

後肢で、傷も汚れているので全身麻酔しないとまともな処置はできない。

妙な歩き方をしているのも気になる。

繋の外側なのだが、蹄側壁にかかっており、蹄軟骨も一部切れていた。

蹄踵部の蹄壁も切れている。

傷は汚れていて、どうやら前日に怪我していたらしい。

それを収牧の時には発見できなかった。

朝、馬房から出すときに気付いた。

蹄冠部は血行盛んな部位で、少し奥には血管叢がある。

馬房内でかなり出血していた、とのこと。

洗浄したが、擦ると血管叢が傷ついて出血する。

縫合し、distal limb cast を巻くことにした。

本当は half limb cast を巻きたいが、560kgある種雄馬。

運動不足のようだ。

half limb cast ではリスクが高まる。

この準急患の間に、予定していたTieback re-check。

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午後は、去勢。

競走馬の浅屈腱炎の PRP&cast 治療のキャスト除去と超音波検査。

この日、6頭目は、骨盤骨折疑いの当歳馬。

立位でポータブル撮影装置で股関節を撮影したが、股関節臼に骨折はないように見えた。

全身麻酔して大型X線装置で骨盤を撮影。

恥骨部で骨折していた。

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ニシキギも葉が散った。

オレンジの小さな実だけが楽しませてくれる。