馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

消毒ワゴン

2020-02-27 | その他外科

家畜高度医療センターで使っている消毒ワゴンを紹介したい。

以前は、こういうのを使っていた。

ベイスン式消毒のためのもので、洗面器(って最近は言わないよね、じゃあどう呼ぶの?)を2つ乗せ、タオルがかけられるようになっている。

しかし、これに洗浄消毒剤(ポピドンイソジン、クロルヘキシジン)とクロルヘキシジン・アルコール綿と水とブラシを乗せるとけっこう重い。

持ち上げて運ばなければならないので、辛い。

アルコール綿が入ったタッパーや滅菌ペーパータオルをしょっちゅう落とすし、使い勝手が悪かった。

それで・・・・

キャスター付きのワゴンを買って乗せた。

ステンレスでできた医療用のこういうワゴンが医療器材として売られているのは知っている。

しかし、けっこうな値段がする。

それで私がニトリへ行って適当なサイズのワゴンを買って来た。

ワゴン自体は3000円くらいだったんじゃないだろうか?

                   -

たいへん使い勝手はよろしい。

移動も楽になった。

所内評判も上々。

めったに褒めてもらえないけど、褒めてもらえた;笑

今日の緊急開腹手術の術野準備でも活躍。

そのあと、細菌性関節炎の関節洗浄の術野消毒でも活躍した。

家畜高度医療センターでは、そのように、あっちとこっちで消毒作業が必要なことがあるので、

もうワンセット準備しておきたい。

ニトリで充分。

今日の開腹手術は分娩後の小結腸壊死だった。

腸間膜は破れてはいなかったが、小結腸の一部が壊死して動けなくなっており、

小結腸を切除吻合しなければならなかった。

                ////////////////

日も長くなり、日中は暖かくなるのだが、朝はまだまだ寒い。

暖かくなれば新型コロナウィルスの流行も治まるのか、専門家にも予想がつかないらしい。

香港や東南アジアなどでも感染は起こっているようだし・・・・

ただ、窓を開けられる陽気になれば、閉鎖環境での感染は減るのだろうと思う。

 

 

 


新・冠ウィルス

2020-02-26 | 感染症

世間は新型コロナウィルス感染症で持ちきりだ。

報道が少し加熱しすぎている気もする。

マスコミの対応もそれを助長している。

          ー

新型インフルエンザのときも、最初は隔離、検疫が注目されたが、そのうち市中感染が広がっているのがわかって、患者数を数えるどころではなくなった。

当初恐れられたよりはるかに致死率が低かったのも幸いだった。

          ー

「菌」って言う人がいるけど、ちがうから、ウィルスvirus だから。

コロナウィルスは、流行時には一般の風邪の30%を占めるそうだ。

しかし、今回は新型なので、全ての人が有効な免疫を持っていない。

ただ、子供たちが重症化しにくいのは、コロナウィルス風邪に近年かかって抵抗力を持っていることが多いからだ、という説もある。

          ー

 

このSF小説を思い出した。

とても面白かった。

この本に出てくる病原体は細菌だったんだっけ?

南極で生き残った人類の「復活」への決意と努力に泣いたのを覚えている。

今読むとより切実かも。

          ー

今思えば、札幌雪まつりは中止すべきだった。

中国は、春節の最初から自粛、移動禁止、すべきだった。

世界的なpandemicに向かっているのか、まだ抑え込む努力を徹底すべきか、そしてそれが効果を示すのか、まだ疫学の専門家にもわからないようだ。

          ー

きのう、きょうは職場の管理職会議だった。

TV会議にすべきだったのかも。

夜は懇親会。自粛しなくて良かったのか;笑

          ー

風邪をひいて具合が悪かったら学校も職場も休むべきだ。

今この状況だからじゃなくて、日頃から。

 

 


家畜診療技術全国研究集会2020

2020-02-19 | 講習会

始発の飛行機で羽田へ。

新型コロナウィルス感染症(新・冠・ウィルス)が懸念されているが、空港は落ち着いたものだった。

東京駅で乗降したのは初めてじゃないだろうか?

この集まりには20年以上来ていない。

前回来たときは古びた会場だったが、今回は新しい立派なホールで驚いた。

東京駅から皇居の方へ歩き、有名企業の自社ビルが並んだ中のホール。

1日借りるといくらかかるんだろ?;笑

プロジェクターは明るくて見やすい(明るすぎて出力が低いレーザーポインターは見えない)し、

マイクが高性能なのか、手に持ったり口を近づけたりしなくても声が通る。

北海道の産業動物学会に比べると、内容のレベルは高くない、が認識だったのが、

今回は、全体がレベルアップしているのに驚いた。

興味深い演題が多かったし、完成度が高いのにも感心させられた。

大学や企業や家畜保健衛生所と連携しながら、学術的にもレベルが高く、

それでいて現場に密着した発想で進められ、たいへんな努力をされている調査研究・症例報告が多かった。

会場からの質疑応答はあまり盛んではなかった。

大学の特定の先生の質問やコメントが目立った。

しかし、質疑時間が多めにとられているので、質疑応答も聴衆の参考になる。

座長も大学の先生に務めていただいているので、発表会としての質が保たれていた。

牛や豚(残念ながら馬の発表はなかった)の臨床技術の発表会を東京丸の内でやる必要があるのか?とも思うが、

われわれだって、capital で活動することがあっても良いのかもしれない。

まあ、私は私の分野のcapitalは、”うち”だと思っているんだけどね;笑

           ー

翌日、その立派な会場で講演させてもらった。

とても熱心に皆さん聴いてくれたし、

「面白かった」との感想も聞けた。

狙い通り牛臨床を整形外科分野からinspire できたのではないかと自負している。

 

 

 


妊娠末期の空腸捻転

2020-02-18 | 急性腹症

朝、入院馬の治療。

網嚢孔ヘルニアで空腸切除・吻合され、腹腔内出血もあり、重症だった妊娠末期の繁殖雌馬。

なんとか回復して退院できることになった。

          ー

雪が降って、除雪もしなければいけない。

その前に電話があった別な繁殖雌馬の疝痛の来院を待ちながらトラクターで除雪する。

          ー

来院した繁殖雌馬は、まだ痛い。

しかし、血液所見は悪くない。

超音波でもはっきりした異常は確認できない。

入院厩舎で様子を観ることにした。

          ー

予定の、1歳馬の飛節軟腫のX線撮影。

はっきりした異常は確認できない。

1ヶ月ほど経過を観ることにした。

          ー

入院厩舎の繁殖雌馬がやはり痛い。横臥する。

開腹することにした。

空腸の一部が脾臓近くではまり込んでいるというか、捻れているというか・・・

抜けたりほどけたりしてしまうと、どうなっていたかはわからない。

なにせ予定18日前の妊娠子宮が大きくて、腹腔内探査も十分にはできない。

空腸を1.3m切除・吻合した。

         ー

その手術が終わる前に、2歳馬の切歯骨骨折。全身麻酔で。

開腹手術が終わってから、起立不能で安楽殺された1歳馬の剖検。

         ー

午後は、血液検査業務と、

3歳の喉頭蓋下シストとEEのlaser手術。立位で、内視鏡下で。

合間に、除雪。

暖かくて除雪してあるところは溶ける。

         ー

3時から、1歳馬の骨盤骨折のX線撮影と超音波検査。立位で。

どこが、どう折れているか明瞭には把握できない。

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夜はあまり眠れない。

東京での講演を控えて緊張しているわけではない。

きのうの大手術の興奮と緊張と反省のせいだ。

 

 

 


Rhodococcus equi 感染症を減らすために

2020-02-16 | 新生児学・小児科

あちこちの講習会などを聴くと、未だにロドコッカス感染症が生産牧場にとって大きな問題であることを感じる。

生産地の獣医さんたちも、ロドコッカス肺炎の治療に苦慮している。

しかし、みんなピントがずれていると私は思う

            ー

ロドコッカス感染症を減らすためには、生後1ヶ月以内の子馬を感染から守ってやらなければならない。

先日、話した牧場も毎年ロド肺炎に困っている、と言う。

「去年、肺炎で治療していた子馬を入れていたパドックに、生まれたばかりの子馬を放しているでしょ?」

と訊くと、そうだ、との答え。

子馬は、生まれて早い時期ほどRhodococcus equi に感染しやすい。

ロド肺炎に感染した子馬は、糞便中にも大量のRhodococcus equi強毒株を排泄している。

Rhococcus equiは土壌菌で、土壌の中で生存しつづけられる。

去年、ロド肺炎子馬が汚した厩舎脇のパドックに新生子馬を放すのはRhodococcus equiに感染させるために入れているようなものだ。

            ー

パドックを消毒した方が良いか?と訊かれることが多いが、土を消毒しようとするのは無理だ。

汚れたパドックは客土して、草を生やしておくのが良い。

子馬はその上で寝るからね。

            ー

厩舎の中も洗浄、消毒した方が良い。

ロド肺炎の子馬は、咳をして大量の喀痰を厩舎の壁をはじめいたるところにつける。

乾いてホコリとして厩舎内で舞い上がるし、子馬は馬房内の壁をベロベロ舐める。

分娩馬房も使う前にきちんと洗浄・消毒すべきだ。

でないと、次から次へ出産してくる赤ちゃん馬を感染させることになる。

            ー

すぐに、消毒薬は何が良い?とか消毒薬は何はダメ、とか言う話になりがちだが、

消毒より掃除・洗浄することの方がだいじ。

これは獣医師でさえ、それも感染症・伝染病を扱う獣医師でさえ誤解しているか、実践的な認識が足らない。

ホコリまみれ、汚れだらけの厩舎を消毒しようとしても無駄。

その前に、洗浄しなければならない。

有機物が残ったまま有効に消毒する方法はない。

そして、洗浄するためには、その前に厩舎を片付けて掃除しなければならない。

            ー

ロド肺炎の子馬の多くは、生後1ヶ月以内、それも生後1-2週間以内に感染している。

            ー

ロド肺炎の子馬が発症してくるのは30-45日齢だ。

「もっと遅くになった」という人が居るが、それは感染の初期を見逃している

子馬が咳をしてロド肺炎として治療を始めるときに血液検査は強い炎症像を示している。

もっと前に感染し、潜伏期間を経て、化膿性肺炎が始まり、それが肺膿瘍になり、気管の中にRhodococcus equiがいっぱいの粘液が溜まり、ゴロゴロいって咳をするようになって、から、治療が始まることがほとんどだ。

潜伏期間は感染実験で10-13日。

実験馬のほとんどが発症するような菌量に暴露させないと実験にならないのでこの潜伏期間だが、自然感染ではもっと少ない菌量に暴露されているので、野外例の潜伏期間はもっと長いはず。

化膿性肺炎が始まるときに子馬は発熱する。小さな化膿性病巣が集まって肺膿瘍になるのに2-3日。

獣医さんがロド肺炎を診たときに、X線撮影や超音波検査で肺を調べると、膿瘍が確認できることがほとんど。

つまり、多くの症例は肺膿瘍ができるまでの感染初期を過ぎてから”初診”されている。

            ー

はっきりした症状が出ないと獣医師に診療依頼しないし、獣医師もはっきりとした症状がないと検査も治療もしない

それもその牧場にRhodococcus equiを蔓延させる。

ロド肺炎が毎年のように出る牧場の子馬は、ほとんどがRhodococcus equiに暴露される。

そのほとんどの子馬の肺に膿瘍ができる。

それでも、丈夫な子馬は自分で耐えて後遺症なく育っていく。

しかし、弱かったり、体調を崩すと肺膿瘍は大きくなり、化膿性肺炎がぶり返す。

それから治療が始まると、簡単には治らない。

膿瘍だよ?膿のかたまりだよ?切開したり排膿させたりできないんだよ?

簡単に治るわけないでしょ。

早く治したかったら、早期に治療すべきだ。

検温だけでは早期発見できないのなら、30-45日齢の子馬を血液検査や超音波検査でスクリーニングすると。良い。

            ー

Rhodococcus equiに感染した子馬は気管内に強毒株をいっっぱい持っている。

咳をすればそれで馬房やパドックを汚す。

喀痰を飲み込んでいるので、糞便中にも強毒株が増えている。

当然、パドックはじめ放牧地もRhodococcus equi強毒株で汚れる。

その子馬は丈夫で、自分の力で悪化せずに発育しても、弱い子馬、幼い子馬は発症する。

重症化した子馬の治療に何十万もかけるより、もっと軽症の子馬を早期発見して治療した方が良いし、

なんなら早期発見のための検査に費用をかけた方が良い。

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トミー・リー・ジョーンズが登場するあのコマーシャル・シリーズは好きだ。

https://youtu.be/f9CoqIVXCUU

トミーリージョーンズの不機嫌な顔が面白いし、日本の現在を風刺していて、それでいて温かい。

コンセプトが秀逸なのだろう。

私もどういうわけか(笑)東京オリンピック馬術競技を馬外科医として手伝いに行くはめになった

スポーツにはしばしば感動させてもらい、エネルギーをもらってきた。

まあ、その代償かな;笑

4年に一度じゃない、一生に一度だ、し。