馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

手術納め

2019-12-31 | 急性腹症

もう2人当番体制になっている年末。

午前中、競走馬の腕節の関節鏡手術。左右両方。

午後も診療予定が入っていたのだが、1歳馬の疝痛の依頼。

きのうからの疝痛とのこと。

便秘、回盲部重積、結腸左背側変位、が類症鑑別かな、と思って準備して待つ。

来院して、超音波で観たら脾臓のそばに左腎臓は見えず、膨らんだ組織に囲まれた血管が見えた。

たぶん結腸動脈だ。

(脾臓の動脈静脈が見える可能性もあるが、脾門の血管を取り囲む組織の量は多くない)

開腹して、結腸が脾臓にひっかかっているのを確かめて、脾臓を正中に引張るようにして結腸を外す。

結腸動脈の周囲は膠様浸潤があったが、虚血性損傷というほどひどくはない。

閉腹し終わって、手術開始から36分。

朝、外傷縫合し、午前中、関節鏡手術し、午後、開腹手術した。

1年を振り返る余裕もなかったし、大掃除もできなかったし、身の回りを片付けることさえしなかったが、これが私の仕事納めだった。

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それでは、皆さん、良いお年をお迎えください。

                     

 

 


3ヶ月齢黒毛和種の空腸捻転

2019-12-31 | 牛、ウシ、丑

一応の仕事納めも終わり、この日とばかりに症例の回顧的調査をしていた年末の日曜日。

3ヶ月齢の黒毛和種牡子牛が具合が悪くて横臥し、呼吸が速く、尿が出ていないので、膀胱破裂かも、との依頼。

子牛の膀胱破裂は珍しいし、膀胱破裂なら超音波で大量の腹水が見えるはず。見えなかったら違うだろ?

来院したら、子牛はもう立てないで横臥し、腹囲膨満。

超音波で腹部を観たら、

どうやら小腸閉塞らしい。

重積像や小腸壁の肥厚は確認できない。

腹水はあるが、極端に多くはない。

血液は、PCV58%とひどく悪い。乳酸値も高い。

ときどき後肢をばたつかせていた時間帯もあったそうだ。

開けて(開腹手術して)みますか・・・・・

仰臥で、右傍正中を切開した。

子牛子馬用の吸入麻酔器でイソフルレン-酸素の吸入麻酔で維持する。

私は馬の腸管手術に慣れているせいか正中近くを切開する方がやりやすい。

空腸の色調、収縮具合、膨満度が、上位と下位でかなり異なる。

なんとなく腸間膜を軸に捻れていたかもしれない。

こちらは収縮していて色調は悪くないが、厚さがある。

腹水は増量していたが透明で、白いフィブリンがかなりの量あった。

ベッタリ張り付いているところも。

しかし、癒着はない。

第四胃にはガスが溜まっていた。

盲腸は空虚だった。

空腸内容を推送したら、盲腸が膨らんできて、空腸の色調も全体がよくなった。

                  -

考えてみれば、私は年間数十頭の馬の腸管手術をこの20年ほどやってきた。

牛は腸管手術は多くないし、犬猫だって消化器の手術はそれほど多くないだろう。

そして、犬の消化器の手術は異物を誤食した単純な切開手術がかなりを占めるのではないだろうか。

腸捻転や重積の整復や切除吻合といった腸管手術を、もっとも多くやってきたのは牛や小動物を含めても私なんじゃないか?

と思った年末だった。

でも、牛はワカラン、牛は難しい;笑

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寒かった~

急患で呼び出されたので、朝の散歩はなし。

 

 


第三手根骨外側矢状骨折でscrew固定の適応ではないと判断した

2019-12-30 | 関節鏡手術

3歳競走馬の第三手根骨矢状方向への盤状骨折、ということで、

screw固定の準備もばっちりして挑んだ。

しかし、この矢状方向への”盤状”骨折は、多い内側ではなく外側。

第四手根骨との関節側だ。

骨片が変位しているのが気になる。

これが骨折部。右下が第四手根骨。

骨片は浮いているし、関節外までつながってはいない。

これではscrew固定の対象にはならない。

まず関節面の骨軟骨片を取り出し、ついで関節包側の骨片を摘出し、

さらに、その奥(遠位)の骨片を摘出した。

靭帯で頑丈にくっついていたのを捻り取ったので、どうつながっていたかもうわからない。

この競走馬、この骨折箇所以外も相当傷んでいた。

内側から橈側手根骨を観たところ。

外側から搔爬した後の橈側手根骨を観たところ。

関節軟骨の半分以上がなくなってしまった。

橈側手根骨と第三手根骨をつないでいる骨間靭帯も損傷し毛羽立っていた。

sky view (Flex Prox-Distal)撮影もして、骨片が残っていないのを確かめた。

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とある川べりの高い木にとまっているオジロワシ。

それにカラスがちょっかい出す。

カラスなんざやっつけちまえ。と、思ってしまうのはなぜだろう?

 

 

 

 


楽勝にはならない年末の一日

2019-12-28 | 日常

その日は午前と午後にscrewを1本ずつ入れるだけで、楽勝の予定だった・・・・

午前中はP2の底側突起の関節軟骨下嚢胞状病変。

こんなところに狙ってscrewを入れるのは簡単じゃない。

昼近くまでかかった。

          ー

午後はやり慣れた大腿骨内顆。

Cystの位置が好発部位よりわずかに軸側に寄っている。

角度が難しい。

その手術開始前、黒毛和種の難産・帝王切開の依頼。

馬の麻酔覚醒起立に1人、手術の片付けとあと1頭の予定の診療に1人、そして・・・

しょうがない、私1人で牛の帝王切開をする。

          ー

初産の黒毛。分娩予定日より5日遅れている。そのせいではなく胎仔が大きすぎるとのこと。

そのまま帝王切開する。

牛の帝王切開を手術するのは私は数年ぶりだったが30分ほどで終わらせる。

繁殖雌馬の疝痛も来るのだ。

          ー

帝王切開の片付けもそこそこに、繁殖雌馬の開腹手術の始まりを手伝う。

しかし、ひどいチアノーゼ。

気管チューブや麻酔器を確認するが問題ない。

なぜだ?

このチアノーゼでは生命活動は続かない。

心停止した。

フラット。

朝から疝痛症状を示していて、朝も心拍が100以上だったとのこと。

来院してもチアノーゼがあった。しかし、PCVは50、乳酸値7mmol/l。

超音波画像で結腸壁に肥厚があり、開腹手術することになったのだが・・・

あ~心疾患か?

          ー

剖検で、心臓の横幅が正常の倍以上になっていた。

肝臓は黒く鬱血しひどく大きい。結腸、盲腸ほかも水腫性に肥厚し、腎臓の周りにも膠様浸潤がある。

鬱血性心不全とでも呼ぶべき状態。

とても治療できるような病態ではなかったのだが、前々から複数の獣医師が診ていながら診断できなかったのは残念なことだ。

          ー

というような年の暮れ。

距骨骨折の馬はダメになった。

フルリムキャストを巻く、さらには脛骨遠位にTransvers Pin Cast を付けるかが方法だったかもしれないが、

それはそれでリスクがある。

というような年の暮れ。

 


4歳競走馬の繋靱帯近位付着部損傷

2019-12-28 | 整形外科

大掃除をし、1年を振り返る時季になったが、今年もそういう仕事の仕方ではなくなってしまった。

別なやり方を考なければいけないのだろう。

            ー

年内の手術予定もいっぱいいっぱい。

競馬場から帰ってきた競走馬の跛行を診て欲しい、との電話がきたので、「今、連れてくる?」

馬運車から降りてきたその4歳メスの競走馬。

直線の常歩では明瞭な跛行はなし。しかし、チョコチョコ歩き。歩様短縮。

左旋回だと左前跛行、点頭運動がありDysonGrade2.

右旋回だと左右ともDysonGrade1.

直線速歩だとDysonGrade1. やはり歩様短縮。

たぶん、両前痛くて、今日は左前の方が痛い。

            ー

蹄をはさんでも明瞭な痛みなし。

もう夕方で神経ブロックしているより、両前とも蹄・球節・腕節をXrayする方が早い。

左右前の球節は腫れていて、特に右前>左前。

右前球節に小さい骨片骨折を見つけた。古い。

両前とも球節にはかなりの負担がかかっている。

どうしてそう思うかわかるかい?

            ー

しかし、それだけだと左前の跛行である説明にならない。

もう4歳だけどね。繋靱帯近位付着部も撮影しておこう。

あら、傷んでる。

ほれ、この角度でも楕円形の輪郭状に透過線がある。

神経ブロックしてみたいところだが、もう日も暮れた。

超音波画像で、繋靱帯近位付着部の裂離骨折と繋靱帯のたぶん出血、を確かめた。

            ー

もうすぐ年が明けるしね、新春には種付けめざすわ、ということになった。

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ねんまつねんしのかつどうのためにくるまにもごはんひつようです