馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

難産 頭部屈橈・腕節屈曲 そして地元獣医会

2024-01-19 | 繁殖学・産科学

午前中、種子骨炎と繋靱帯炎の2歳馬の手術。

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昼、難産が来る、とのこと。

いつもは1時間かかるところを35分で飛ばしてきた。アブナイ。

ひどい失位のようなのですぐに全身麻酔して後肢を吊上げる。

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頭頂部から来ている。

下顎にワイヤーをかけて、ひっぱってもらいながら頭頂部を押して直す。

子馬の口粘膜が見えるようになった。

チアノーゼだが、ピンク気がある。生きてるか?

胎盤(脈絡膜・尿膜)がまとわりついている。

早期胎盤剥離だったのかも。予定日3日前。

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屈曲した両腕節に触る。

中手骨に産科チェーンをかけて引っ張ってもらう。

それで、蹄に手が届くようになって、今度は繋に産科チェーンをかける。

腕節を押し込みながら繋のチェーンを引っ張ってもらって蹄が出た。

反対肢は若い獣医さんに同じようにやってもらう。

が、途中で胎仔の自発呼吸が始まった。

これは、さっさと出してやらなければならない。

また私に交替してもらって、残りの肢も整復した。

子馬は下胎向になっているので、両前肢を捻って押し込みながら直す。

あとは、引っ張るだけ。

すんなり出た。

臍帯がつながった状態でストップ。

臍帯は拍動している。

臍動脈だけ鉗子でクランプしてしばらく待つ。

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母馬の麻酔覚醒起立の用意をしてやらなければならない。

母馬を反転させるとき臍帯が切れた。

それなら、子馬は引き離した方が良い。

胎盤は縛って短くまとめておいて、直腸検査手袋に入れて、さらに短く縛り付ける。

ぶらさがっていると、後肢にからみつくし、滑るので覚醒起立の邪魔になるのだ。

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子馬は、気管挿管して酸素吸入したが、そのうち活発に転がり回るようになった。

腕節の拘縮があるが、中程度。

これなら治る希望はあるかも。

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この夜は地元獣医師会の新年総会だった。

獣医師会は、地元の町村獣医会、地区の獣医師会、北海道獣医師会、日本獣医師会、と階層構造になっていて、

実際の、狂犬病予防接種や、牛のワクチン接種(防疫事業)は地元獣医師会が実働している。

しかし、イヌの頭数は減っているし、小動物医院での接種が増えている。

集合注射での獣医師会の役割は減っている。

防疫事業での牛のワクチン接種は、料金が安く設定されていて接種に回る開業獣医さんから悲鳴が出ている。

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他の地区で一次診療に回っている開業獣医さんに診療の様子を講演してもらった。

以前からお願いしていたが、コロナ禍で総会が開けず、のびのびになっていた。

若いときからあちこちで仕事され、キャリアアップしながら、真摯に診療に取り組んでこられた様子がよくわかった。

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珍しくヤマガラ。

胸のオレンジが好ましい。

 

 

 

 


人工流産後の胎盤停滞のオキシトシン点滴と胎膜注水処置

2023-11-28 | 繁殖学・産科学

人工流産させた繁殖雌馬は、胎盤が落ちず、翌日、牧場でオキシトシンを注射したら前掻きして痛がった、とのこと。

餌は食べたり、食べなかったり。

人工流産から2日目の朝も胎盤が落ちていなかったので、また来院してもらうことにした。

胎盤停滞し、子宮内でエンドトキシン産生菌が増殖すると、簡単に産褥性蹄葉炎になってしまう。

体重は、人工流産前より110kg減った。690→580kg

胎仔は15kgくらいだっただろうか・・・・羊水が100リットル近くあったのだろう。

胎膜がぶら下がっているだけ。

その臍帯の血管に管を入れて微温湯を注入する。

若い先生にやってもらった。

その間にオキシトシンの点滴も始めた。

オキシトシンは筋注や皮下注では15分ほどしか効いていない。

痛みの様子を観ながら、30分や1時間は効かせたい。そのために点滴するのだ。

胎膜に重りもぶら下げた。2.4kg

1時間ほど経ったところで尿膜・脈絡膜を引っ張り出すことができて・・・・

落ちた。

広げて両子宮角までちぎれず排泄されたことを確認した。

残りのオキシトシンも入れて、水はさらに排泄された。

お腹はさらにくびれができた。

この馬は乗馬にしてもらえるらしい。

腹壁が後遺症なく治れば良いけど。

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このメギはさっぱり成長しないんだけど

庭にオレンジ色を残してくれている

 

 


馬の羊水過多の人工流産

2023-11-26 | 繁殖学・産科学

夕方、一旦帰ってから「疝痛の馬が来ます」と呼び戻された。

この1週間疝痛を繰り返し、食欲もあまりない、3回診療した、腹囲膨満し、動きたがらない、とのこと。

6時過ぎ、来院したら、

異常な腹部膨満。

まだ分娩予定まで2ヵ月半あるというのに、分娩間近のような腹囲。

下腹部には腫脹があり、左よりは痛がる。

腹囲が大きすぎて、もう腹壁がもたないのだろう。

私は今まで、胎膜水腫、羊水過多、双胎などで妊娠末期の腹壁が裂け、母馬も死んでしまった例何頭か見てきた。

今回の繁殖雌馬は、まだ分娩予定まで2ヶ月以上ある。

とてもこの腹囲の様子で分娩まで辿りつけるとは思えない。

そして、この1週間の疝痛も、真性の腸閉塞による疝痛ではなく、腹壁の痛みによる疝痛なのだろう。

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訊くと、繁殖供用初年度、次年度と流産、その後2産できたが、第4年度も流産、そして今年度だ、とのこと。

ほとんどまともに妊娠維持できない馬なのだ。

母馬を助けるためには人工流産させるしかない、と伝える。

子馬はいずれにしても助からない。

直腸検査でも、体表からの超音波検査でも胎動は感じられない。すでに死んでいる可能性大。

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子宮頚管を触ってみると、すでに緩んでいて、容易に胎盤に指が届いた。

正常なら、子宮頚管はしっかり締まり、容易には開かず、ピンク色の粘栓が付着しているはず。

胎盤を指で破って人為的に一次破水させた。

大量の薄いピンクの液が出るが、子宮にも腹部にも収縮して押し出す力がないようだ。

シリコンチューブを入れて排液する。が、胎膜が絡んでときどき止まる。

E2ホルモン、PG、オキシトシンを投与してもらう。

子宮の中に手を入れているが、胎仔には手が届かない。

馬は具合が悪そうで、枠場にもたれてしまう。

腹はかなりたるんで余裕が出てきた。

口から泡沫性の流涎。

あとは入院厩舎で様子を観てもらうことにした。

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夜8時、白い袋が出てきた、と連絡。羊膜だ。様子を観ましょう。

8時20分、羊膜が破れた、と連絡。

羊水が抜けて子宮が小さくならないと、胎仔に手が届かないだろう。まだ様子を観ましょう。

夜10時、様子を訊くと馬は痛がらずに伏臥している、踏ん張る様子もない、とのこと。

自力で胎仔を押し出すことはできなそうだ。

朝まで待つと、子宮内と産道が乾いてしまうだろう。

厩舎へ行って産道から腕を入れると、胎仔の頭と肢2本に届いた。

肢に産科チェーンをかけて引っ張ってみるが簡単には出せそうにない。

もう一人の当番獣医師をヘルプに呼んで、診療室の枠場へ馬を移した。

子宮弛緩剤を投与し、子宮内へ産道潤滑剤をたっぷり入れて、頭にも産科チェーンをかけて、両前肢と一緒に牽引して娩出させた。

胎仔がまだ小さかったので出せたが、もっと大きい妊娠期だったら出すのはもっとたいへんだったかもしれない。

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この母馬はもう繁殖供用しない方が良い。

まともに妊娠維持してまともに分娩できる可能性はかなり少ない。

羊水過多がどうして起きてしまうのかわからない。

胎盤が正常に造られない、あるいは胎盤が正常に機能しないのだろうと思う。

子宮内膜に問題があるのかもしれないが、初年度の妊娠から流産しているので、加齢や後天的ダメージによるとは考えにくい。

本来、母体にとって”異物”である胎仔や胎盤を維持できることの方が不思議なのであって、

それがどうしてうまくいかないのか解明することは難しいことなのかもしれない。

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がんばって残っていた庭のリンゴ

 

 

 

 


この秋は直腸膣瘻が多い

2023-11-10 | 繁殖学・産科学

この秋は直腸膣瘻の手術が多い。

毎年せいぜい5-6頭だと思うが、この秋はもう10頭以上やっただろう。

分娩のとき、子馬の鼻っ面か肢が直腸を突き破ってしまうことで起こる。

初産馬でしか起こらない。

未経産は”産道”ができていないのだろう。

コロナ・バブルでサラブレッド生産頭数は増えている。

この春、初産馬が多かったのかもしれない。

直腸と膣を上下に切り分け、直腸の孔と膣壁の孔それぞれにしておいて、それぞれの孔をしっかり縫うのがコツ。

手術時と手術後しばらくは、大量の便が来ないように絶食と下剤投与も必要。

それが、秋になって離乳してから手術しましょう、と言う理由のひとつ。

もうひとつ受傷後は分娩で傷んでいて、糞汁で汚染されてもいるので、傷として治ってからやりましょう、ということ。

直腸膣瘻は、小さい損傷だとまれに自然治癒したり、

分娩後に縫合して治癒する例があるが、期待できるような確率ではない。

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直腸膣瘻、第三度会陰裂傷、尿膣、子宮頸管裂傷、などは秋のうちに治しておきましょう。

いずれもなかなか大変な、あるいは難しい手術になります。

年が明けてから「そういうと・・・」と手術を考えるのはのんきすぎるかな。

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だいぶ前だけど

葉を落とした梅に・・・・ウグイスじゃなくてモズ(百舌)。

鳴き真似をするので「百舌」と呼ばれるらしい。

 

 

 

 


早期胎盤剥離による難産

2023-05-02 | 繁殖学・産科学

空腸腸間膜ヘルニアの手術が終わった頃、難産の依頼。

両前肢から来ているけど頭が捻れていて出せない。

近くの牧場。

20分ほどで来院した。

枠場で両前肢に産科チェーンをかけて・・・とやろうとしたが親が前膝を着いてしまった。

16歳?かなり体型も崩れている。

子馬は生きて動いている。

全身麻酔して出す方が速くて確実だろう。

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全身麻酔して後肢を吊上げて、手を入れてみる。

頭も口から来ているので、引っ張てみるしかない。

ブロードサポート(産道潤滑剤)を入れて、頭にワイヤーをかけてひっぱる。

が、下胎向になっているので、両前肢を捻って上胎向に直す。

あとは引っ張るだけ。

体に胎盤(絨毛膜)を巻いて出てきた。

最初から前肢の蹄も胎便で茶色く汚れていた。

           ー

臍が切れて・・・・子馬の小腸が出ていた。

手で押さえておいて、器具を持ってきてもらう。

臍輪を切り広げ、小腸を押し戻して、臍輪は手早く縫合閉鎖する。

あらためて麻酔して小腸を洗って、きちんと閉腹しなければダメだ。

しかし、とてもすぐに麻酔できるような状態ではない。

           ー

子馬は、自発呼吸はないが心拍はあった。

気道を吸引するが、泡だった黄色い粘液が入っていた。

後肢を持ち上げてみるが、鼻から羊水はほとんど出てこない。

気管挿管してデマンドバルブで陽圧換気するが肺はほとんど膨らまない。

子馬はとても生き延びられるような状態ではなく、そのうち心拍も止まった。

           ー

予定日より10日ほど早くお産が始まった。

しかし、破水は確認できなかったのだそうだ。

早期胎盤剥離が起きて、分娩が始まったのだろう。

それで胎仔は最初から胎便を漏らしていた。

(胎仔は低酸素になると腸蠕動が出て胎便を排泄する)

最初から羊水は茶色く汚れていたそうだ。

その胎便混じりの羊水を誤嚥した。

早期胎盤剥離だと娩出を急ぐ必要がある。

が、牧場で出せなかったのなら・・・仕方がない。

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ハクモクレン。

花付きがよくなるよう、花が大きくなるよう、堆肥やってみるかな。

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家畜高度医療センターで働きたい若い獣医さんは居ないだろうか

救命救急もやっていて夜中の仕事もあるし

忙しくてたいへんなこともあるが

やりがいのある仕事だし

努力すれば自分を向上させていける職場だと思う