馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

重症畜2頭

2015-08-30 | 急性腹症

結腸亜全摘をして入院している繁殖雌馬が、その朝から調子が悪くなった。

切除できない大結腸基部が壊死し始めているなら、もうできることはない。

                       -

午前中、2歳馬の去勢。

当歳馬の寛跛行。ひどい骨盤骨折だった。

午後、血液検査をしているあいだに、2歳馬の疝痛の連絡。

予定していた関節鏡手術を延期してもらって、緊急開腹手術。

来院してもひどく痛い。

                       -

回腸盲腸重積で、盲腸内に重積した腸管を盲腸の外から触れる。

しかし、回盲部は術創の外へ引っ張り出せない。

重積した小腸の腸間膜が盲腸へ引きずり込まれて短くなっているため、腸間膜根部へ近くなってしまっているのだろう。

これでは回盲部を処置して重積部を切断することもできない。

重積した小腸は引張って抜けてくる気配はまったくない。

しかたがないので、空腸下部を右腹側結腸へ側側吻合する。

                       -

午後4時前には手術は終わったが、その2歳馬はなかなか起立しなかった。

夜、7時を過ぎてやっと入院厩舎へ移動。

しかし、疝痛が始まった。

重積した小腸が絞めつけられる鈍痛ではなく、引き込まれた部分へ引張られる牽引痛なのだろう。

かなり痛い。

フルニキシンを投与してもほとんど鎮痛できない。

夜10時、輸液管がはずれて呼ばれた。

深夜12時、輸液管が壊れたので交換。

結腸切除の繁殖雌馬も苦しがっていてフルニキシン投与する。

早朝、4時前、輸液がなくなって呼ばれた。

朝、6時前、抗生物質投与し、採血して血液検査する。

2頭とも、もうほとんどできることはない。         

あとは、可能性に賭けるだけ。

そして、駄目な時には苦しまないようにしてやらなければならない。   

                  /////////////

         

  外科医 須磨久善 (講談社文庫)
海堂 尊
講談社

医師にして人気医療ミステリー作家となった海道尊氏のノンフィクション。

読み物としてはちょっと礼賛がすぎるようにも思うが、実際、須磨久善先生の業績実績はすばらしい。

日本人医師としての標準的エリートコースを歩いて来たわけではないのに、どうしてそれが可能だったのかが興味深い。

信念、情熱、柔らかい考え方、そして海外で学んだこと、人としての強さ、etc.だろうか。

それでいて順調にいっている海外のポジションを捨てて「日本へ帰ろう」と思ったのは、愛犬のため。というのもとても面白かった;笑。

愛深き人なんだろうな。

 

                   

 

 

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動物園の事故

2015-08-27 | 動物行動・心理学

札幌の民間動物園からペリカンが逃げ出して、胆振地方に現れたそうだ。

捕獲を試みるようだが、なかなか難しいだろう。

札幌円山動物園ではマレーグマが事故で死に、業務改善命令を受けたと思ったら、今度はシマウマが輸送のストレスでショック死したという。

動物園に落ち度があったのか、避けられない事故だったのかは知る由もないが、大動物獣医師としては動物を扱う難しさは多少なりとも理解している。

ましてや家畜ではなく野生動物だ。

逃げちゃいました、死んじゃいました、では済まないのはわかるが、予想もしないことが起こる。

放馬させたことがない馬関係者はいないだろう。

                               -

私のところでも信じられないようなことがおきたことがある。

私は検査室にいて、診療はしていなかったのだが、物音に驚いて診療室へ行ったら、繁殖雌馬が枠場で暴れていた。

そのうち、枠場から飛び出した。

飼い主さんも恐れおののいて曳き手を離してしまった。

私はサンダル履きのまま曳き手をつかまえたが、その馬はもう錯乱状態で、抑えきれるものではなかった。

ガラス窓から飛び出そうとして窓へ突っ込みそうになる。

どうしようもなくて曳き手を離したら、診療室の中を走り回ったあげく、診療室から飛び出してなんと廊下へ入っていった。

そのまま廊下を走って、曲がり角で転倒し、あわてて玄関を開けたら正面玄関から出て行った。

外へ出たらなんとか落ち着いてつかまえることができた。

とにかく外へ出たくてパニックを起こしていたのかもしれない。

人も馬も大きな怪我はなかったが、その馬は二度と枠場へ入らなかったそうだ。

                               -

若い馬が馬運車へ乗ろうとしなかった。

「目隠しすればイイよ」とたまたま他所から来ていた獣医さんがアドバイスして、牧場の人がジャンバーを馬にかぶせたら・・・・

暴れ出して、放馬。

前が見えないままの馬はたまたまそばに止めてあった業者の人の乗用車のトランクに激突してのっかかり、車はベッコリへこんだ。

そのあとは・・・・よく覚えていない。

今でも馬を連れてくるのに、輸送用無口頭絡(ロープでつくってあり金具を使っていない)と数メートルある長曳き手を付けて来る牧場があるが、本当はそうするのが安全なのかもしれない。

                              -

牛も抑えきれないで敷地内で暴走したことがある。

職員住宅の方まで走っていき、もう少しで私の新車につっこむところだった。

暴走する牛を無口頭絡で止めるのは難しい。

力だけでなくテクニックがいる。

                             -

育成牛が診療室兼手術室を駆け回ったこともある。

私は関節鏡手術の準備をしていたのだが、枠場では牛の手術もしようとしていて、その牛が手をかけていない牛だった。

農家の人は診療室へ引張って歩く自信がないため、診療室へトラックを後付けにして牛を降ろしたらしい。

案の定、トラックから飛び降りたその黒毛の育成牛は飼い主を振り切って、診療室を走り回り、関節鏡手術器械を載せた台をひっくり返し、

ステンレスのシンクをへこませた。

「バカヤロー!誰が牛を入れてイイって言った!器械が壊れてたらお前らの給料から引いとくからな!!」

と怒鳴ったことはよく覚えている;笑。

                             -

馬が逃げ出して国道へ走り出たこともある。

交通事故につながらないかハラハラした。

しかし、どんなに走っても馬に追いつけるわけもない。

                             -

動物を扱う人にとってはそれは日常なんだけれど、動物はその中でときおり信じられないような行動をする。

相手がクマやトラやライオンならもっと別なレベルの注意が必要なのだろうけど、馬や牛でさえ扱いきれなくなることがある。

動物とは・・・そういうものだ、と私は思う。

                          ///////////////

きょうは、

2歳馬の球節のchip fracture の関節鏡手術。

午後は血液検査業務のあと、

2歳馬の種子骨軸外部骨折の関節鏡手術。

外側からスコープを入れて、内側種子骨の関節面の反軸側を観たところ。

骨片はいくつかに粉砕していた。

 

 

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第一指骨はワイングラス

2015-08-25 | 整形外科

2歳馬の第一指骨の縦骨折。

発症翌日もかなり痛い。

第一指骨をワイングラスにたとえる馬外科医もいる。

上と下が幅広く、中央でくびれたその形状と、もろさ、弱さからだろう。

USAでは骨折の評価にCTが使われるようになり、第一指骨が思いもよらない方向に割れやすいことがわかってきている。

だから、「あ~縦骨折か」と安心しないほうが良い。

x線画像で骨折線が見えない部分に想像でスクリューを入れることもしてはいけない、とされている。

あるところから思わぬ方向に亀裂が入っていて、固定するつもりのスクリューが骨を割ることになるかもしれないからだ。

                        -

関節面近くにスクリューを2本入れて関節面の亀裂をしっかり圧迫する。

これには馬外科医のあいだでも賛否両論あるようだ。

スクリュー3本で近位部を内固定し、骨体中央にスクリューを1本加えた。

よく見ると遠位部掌側皮質に亀裂らしきものが見える。

骨体近位から中央部までの縦骨折だけでなく、遠位部にも損傷があるのだろう。

しかし、詳細に把握することはできないし、有効に内固定する方法もなさそうだ。

長めにキャスト固定することで対応する。

しかし、術後も強い痛みが1週間ほど続いた。

対側肢の蹄葉炎予防に気を使うが、痛みは防御反応でもある。

                     //////////

ルドベキアが咲き誇っている。

園芸品種も多いが、野草としてもあまりに強い。

セイタカアワダチ草も美しくないわけじゃない。

でも、あまりに増えすぎるので嫌われている。

庭にノラニンジンを植えようと考えるのはヘンかな・・・・・?

                  

 

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高波の日曜の夜の結腸捻転馬は腸間膜の奇形だった

2015-08-24 | 急性腹症

きょうからサマーセールで診療は閑。

きのう日曜日も診療予定ははいっていなかった。

夜になって繁殖雌馬の結腸捻転。

結腸の損傷は中程度。

右背側結腸の内容がひどく多くて、結腸全体を創外へ引き出せない。

先に骨盤曲を切開し、少しずつ胃状膨大部の内容を送り出して、前回りの捻転を整復しながら結腸を引き出した。

                    -

この馬、結腸骨盤曲近くの腸間膜が広すぎる。

何度か経験があるのだが、こういう場合、腸間膜を縫い縮めても破れてしまう。

それで非吸収糸で背側結腸と腹側結腸壁を縫いつけた。

                    -

小腸も膨満していたので、回腸から引き出してチェックする。

すると空腸の下部に腸間膜が二重についている部分があった。

メッケル憩室間膜の遺残だ。

これはしばしば小腸捻転の原因になる。

それで、小腸にまとわり付いている腸間膜を切除して正常な付着のしかたに直した。

                    -

あとは新しいやりかたでcolopexyして終了。

日中楽したとは言え、日曜の夜の重労働だった。

                ///////////////

金曜の午後から台風の影響でひどく波が高い。

ズ~ンとひびいて、くだけた潮が飛んでくる。

防波堤が崩れて土嚢を積む作業を夜もやっている灯が見えていた。

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海岸が痩せるのはダム建設や砂防ダムと因果関係はないのだろうか・・・・・

 

 

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橈骨骨幹部横骨折完治

2015-08-21 | 整形外科

橈骨横骨折発症と内固定手術から4ヶ月あまり。

ほぼ完全に骨癒合した。

競走馬にしたい子馬なので、プレートは抜かなければならない。

それと、橈骨と尺骨が癒合したことで、尺骨の成長が遅れ、肘関節にギャップができている。

またminimally invasive でやる。

穿刺切開でスクリューを抜いて、LCPは遠位部の穿刺切開を広げて、引き抜く。

・・・・が、すでにLCPの上にも骨がのっかっていて10本のスクリューを抜くのにも苦労するし、

スクリューを抜いたあともプレートはびくともしない。

なんとかあちこちで骨を叩き割って、骨起子でプレートを持ち上げて動くようにして、なんとか引き抜いた。

尺骨の外側を小切開し、電動骨鋸bone sawで尺骨に骨切り術を行う。

尺骨頭側への成長を促進してくれることを期待する。

橈骨骨幹部中央での横骨折がこれで完治した。

あとは馬がはしゃいで無茶なことをしたりせず、徐々に発育の遅れを取り戻してくれるのを期待する。

                      ///////////

きょうは、苫小牧で社台ホースクリニックカンファレンス。

とても興味深い症例報告ばかりで、たいへん勉強になった。

このような機会をあたえていただいていることに心から感謝します。

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