結腸便秘の症例が経腸水投与で治った?
では、本当に問題が無いのか、塩類下剤投与や等張電解質液投与、あるいは静脈輸液と比べてどうなのか実験してみましょ。
という結果が2004年のAJVRに報告されている。
右背側結腸に人工採材口を着けた実験馬7頭を使った大規模な研究で、論文も10pに及ぶ大論文だ。
Effects of enteral and intravenous fluid therapy, magnesium sulfate, and sodium sulfate on colonic contents and feces in horses
経腸・静脈輸液治療、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウムの馬の結腸内容と便への効果
AJVR 65,5,695-704 (2004)
目的-静脈輸液治療あるいは経腸の硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、水、あるいは電解質液で治療した馬の、全身性の脱水補正、血漿中の電解質濃度、結腸内容と便の水分増加、消化管通過の変化を評価すること。
動物-右背側結腸にフィステル(腸内容を取り出せすための人工口)を着けた7頭の馬。
手法-交差法により、実験馬は交互に6種のうちのひとつの治療をうけた;無処置(対称群);乳酸化リンゲルによる静脈輸液治療;あるいは経鼻胃管を通しての硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、あるいは電解質液投与。
一般診察を行い、血液、右背側結腸内容、便を48時間の観察期間中6時間ごとに集めた。
馬は最初の24時間口カゴをしたが、水は自由に飲ませた。
最後の24時間は乾草、塩、水も自由にさせた。
結果-電解質液の経腸投与とNa2SO4の経腸投与が右背側結腸の内容の水分増加の点では最も良い治療であり、次いで水の経腸投与であった。
便の水分量増加の点では硫酸ナトリウムが最も良い治療であり、次いでMgSO4と電解質液であった。
硫酸ナトリウムは低カルシウム血症と高ナトリウム血症を引き起こし、水は低ナトリウム血症を引き起こした。
結論と臨床的関連-電解質液の経腸投与は右背側結腸の内容の水分量増加を促進し、大結腸便秘の馬に用いうるかもしれない。
Na2SO4あるいは水の経腸投与は右背側結腸の内容の水分量増加を促進するかもしれないが、重度の電解質バランスの狂いにつながる可能性がある。
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この研究で確認しておかなければいけないのは、使われた馬は実験馬で結腸便秘発症馬ではないこと。
結腸便秘発症馬は腸閉塞状態にあるだろうし、腸の蠕動も本来のものではないかもしれないので、この研究の結果がそのまま症例馬に適応できるかどうかはわからない。
研究が大規模なので目的がわかりにくいが、著者らが証明したかった仮説は、
「電解質液の経腸投与がPCVや電解質や血清蛋白値の変化を最小限に右背側結腸内容の水分量を増やす。」
ということだった。
そして、また
「静脈内輸液治療、水、下剤(硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム)の経腸投与は右背側結腸と便の水分量を増加させる点で効果に乏しい。」
ということであった。
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この試験ではMgSO4・7H2Oは1g/kgBWを1?に溶かせて使われた(めちゃくちゃ濃い!)。
Na2SO4は1g/kgBWを3?に溶かせて投与された(めっちゃ濃い!)。
塩類下剤は、水で薄めて投与した方が早く効く。
濃いまま投与すると、腸管内に水をひっぱってから効果を現すからだし、
血管から水をひっぱるので脱水が起こる。
診療でこんなに濃い塩類下剤を使っている獣医師はいないと思う。
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この試験での水の投与は水道水を使い、最初の12時間は1時間に5?(合計で60?)投与した。
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電解質液はNa135mmol/l、Kmmol/l、Cl95mmol/lのものを最初の12時間は1時間に5?投与した。
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静脈内輸液は乳酸化リンゲル液を最初の12時間は1時間に5?投与した。
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で、結果は上の要約のとおり。
等張の電解質液を経腸投与するのが、いちばん体の恒常性を狂わせずに、速く結腸内容と便の水分含量を増やした。
水ばかり飲ませたり、塩類下剤を投与すると、血清の電解質濃度が狂う。
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さて、日本の便秘治療も変わるだろうか?
この経腸電解質液の投与は相当な量になるので、器具を用意しなければならないし、
胃拡張や小腸閉塞を併発していないか注意する必要がある。
まず何より便秘だと確定診断することから始めるのが基本だ。
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朝は除雪。
終わったと思ったら、午前中は吹雪模様でこの冬一番の積雪。
凍り付いてテカテカになってしまった。
今日で仕事納め。
とりあえず、正月中の診療予定はない。