馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

第3度会陰裂傷

2008-11-29 | その他外科

Pb040200_3 仔馬が鼻先や肢を直腸に突っ込み、そのまま生まれてしまうと、肛門括約筋まで切れて、第3度会陰裂傷と呼ばれる状態になる(左)。

直腸と膣がつながった状態で、膣からうんこをすることになる。

牛でも第3度会陰裂傷が起こるようで、昔、数頭手術したことがある。

しかし、牛は子宮頚管がしっかり閉じる構造になっているので、そのままでも子宮内膜炎も起こさず、妊娠可能なのかもしれない。

馬は、とくに発情期には子宮頚管が緩むので、第3度会陰裂傷のままだと受胎させて妊娠維持させるのは無理だろう。

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Pb040201(左写真は手術台で仰臥にし、陰部を左右に広げたところ)

 第3度会陰裂傷の縫合方法はいろいろな方法が報告されている。

直腸膣瘻の手術も考え方は同じで、直腸は糞汁が漏れないようにしっかり縫う。

膣壁は力に耐えられるようにしっかり縫う。

そして、直腸壁と膣壁のあいだに距離ができるように、しっかり左右を張り合わせる。

 ただ、第3度会陰裂傷の場合は肛門括約筋も切れてしまっているので、これも一度に再建しようとすると相当しっかり縫い合わせないと難しい。

また、直腸と膣はきれいに中央で切れているわけではないので、左右対称になりにくく、へんな引きつれもできやすい。

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Pb040202(左写真は直腸壁を縫合している途中)

 癒合させるコツは、

・手術前後の絶食と下剤投与を確実にして、術創が直腸便により破壊されないように すること。

・直腸と膣の切り分けをしっかりして、直腸壁と膣壁のあいだに距離を作ること。

だと考えている。

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絶食と下剤投与は必ず必要。馬の直腸便はすごい太さで出てくる。糸で縫ってある直腸にあのテンションが一度でもかかったらひとたまりもない。

絶食していて馬が可愛そうになって食べさせたり、「もういいかな?」で下剤をかけないで便が固くなると、癒合せずに、結局また傷が落ち着いてから絶食・下剤投与・手術を繰り返すはめになる。

馬のためにも1回で治してやりたいのだ。

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Pb290272 今日は現役競走馬の去勢。

その後、副鼻腔の蓄膿症かと思ったら・・・篩骨血腫の診断・治療。

午後は血液検査。

そして、月末の事務仕事。

明日から東京だ。


直腸膣瘻

2008-11-28 | その他外科

初産の馬は、分娩のときに仔馬の鼻先や肢が直腸を破ってしまい、肛門から鼻先や肢先が出てくることがある。

そのまま生まれてしまうと、肛門括約筋が切れて、直腸と膣の境がなくなる。

これは、第三度会陰裂傷と呼ばれている。

肛門から出てきた鼻や肢をなんとか押し戻して産道から産ませると、肛門括約筋は切れずに済む。

しかし、直腸から膣へ糞が漏れる状態はたいていその後も続き、直腸膣瘻と呼ばれる状態になる。

分娩の時にこういう傷害が起きた時、すぐに縫合することは推奨されていない。その理由は・・・・

・分娩時には産道周囲の腫れがあって、縫合しても癒合しにくいこと。

・癒合させるためには直腸が糞便で膨満しないように絶食と下剤投与が必要だが、たいていは仔馬は無事なので母馬の絶食は泌乳のために望ましくないこと。

・産道を縫合してあると、本交しか許されないサラブレッドでは、種雄馬の生殖器を傷つけることを嫌って、結局交配できないこと。

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 というわけで、その年は交配をあきらめ、仔馬を離乳させてから手術することになる。

馬は直腸にかなりの量の糞を溜めてから怒責して排便するので、直腸を縫合しても正常便を踏ん張られると傷が破れてしまう。

それで、手術の数日前から絶食し、下剤を投与してもらう。

手術の1週間前からなどと書かれている教科書もあるが、私は2日前からにしている。

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 枠場に馬を入れて、鎮静剤投与し、尾椎硬膜外麻酔すると、あとは鼻捻子保定で手術できる。

手術は数時間かかる。

助手二人に左右両側へ術創を広げてもらい、上を覗き込みながらたいへんな手術になる。

Pa230155左の写真の馬は、直腸膣瘻にしては穴が大きいとのことだったので、吸入麻酔し、手術台で仰臥位にして行った。

仰向けにすると、腹圧で陰部が押し出された状態になり、陰部を開くと直腸粘膜が押し出されているのがよく見えた(左)。

手術は、直腸と膣の間を切り分け、直腸壁と膣壁にそれぞれ穴が開いている状態にして、それぞれを縫合して穴を閉じてから、直腸と膣を縫い合わせる方法でおこなったが、

手術台で仰臥で行うなら、膣側だけから手術することも可能かもしれない。

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Pb280257 今日は1歳馬の球節掌側、第一指骨翼の骨片摘出。もちろん関節鏡手術。

午後は血液検査をして・・・・

競走馬の喉頭片麻痺のTieback & Ventriculocordectomy 。

ここ数日、良く歩く。

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ジャパンカップ!Japan Cup! う~んっと、日高っ子、みんなガンバレ!


犬の体重とボディコンディション

2008-11-26 | 馬内科学

Pb170223 「一次診療における犬の体重とボディコンディションの評価の頻度」

イギリス獣医師会が出している世界的な獣医学雑誌Veterinary Record に

犬の診察において体重とボディコンディションを調べることの重要性を喚起する調査成績が出ている。

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  How often do veterinarians assess the bodyweight and body condition of dogs?

        獣医師はどのくらいの頻度で犬の体重とボディコンディションを測っているか?

                    A.J.German, L.E.Morgan  Veterinary Record (2008) 163, 503-505

  体重測定やボディコンディションの評価は、コンパニオンアニマルの健康状態を把握するために役に立つ。しかし、一般診療において獣医師によってどのくらいの頻度で使われているかは知られていない。148頭の犬についての情報を分析して、どのくらいの頻度で体重とボディコンディションが測られているか調べた。体重は、103頭(70%)の犬で少なくとも1回は測られていた。測定間の中央値は114日(範囲5日~6-8年)、測定結果についての相談の回数の中央値は4回(範囲1回~44回)であった。体組成は43頭(29%)の犬で主観的に測定されていた。測定間隔の中央値は216日(範囲21日~6-26年)であり、測定結果についての相談回数の中央値は7回(2回~43回)であった。ボディコンディションは1ヶ所の1頭の犬でのみ測定されていた。

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 つまり、体重は測ってもらったことがある犬が多いが、その頻度はさまざまで、体脂肪率やボディコンディションはほとんど評価されていない。

で、写真のラブのように太りすぎてしまうんだな。

獣医師でさえ。というところも問題なんだろう。

犬も、馬も、太りすぎないようにするためには、まず気にして頻回に体重を測り、ボディコンディションを調べることのようだ。

そして、人も・・・・・・

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 今日は、競走馬の腕節の関節鏡手術。2回目の手術で、剥離骨折というより変形性関節症(DJD)によるものだった。

その後、休養馬の鼻血の内視鏡検査。喉嚢炎ではなかった。

午後は血液検査をしてから、2歳馬のDDSP(軟口蓋背方変)のTie forward手術。

その後、あがり馬(競走を終えて繁殖供用する馬)の胸膜炎の診断と胸腔穿刺。


hard days

2008-11-25 | その他外科

大量の鼻血を出した繁殖雌馬。

中一日おいて来院してもらった。

想像したとおり喉嚢真菌症。

左右両側の内頚動脈の結紮とプラチナコイル栓塞術。

吸入麻酔で手術するが、途中で馬を裏返さなければならない。

not sunny side up,  turn over please.

覚醒して帰って行ったのは、12時過ぎだった。

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午後、2日前から入院している疝痛の繁殖雌馬を初めて診察する。

酷い疝痛ではないが、2日間まったく便通がない。

妊娠馬にしても腹囲は異常に膨満している。

難しい判断だが、もう開けた方が良い(今開腹手術しないと予後が悪くなる)。

結局、小結腸の腸間膜が破れたことによる小結腸の閉塞(捻転と血行障害)だった。

腸間膜には古い癒着の痕があった。

かつてのお産で傷めて癒着していたところが破れて今回の疝痛になったのではないだろうか。

小結腸の損傷部を切除し、吻合する。Pb230244

久しぶりに3時間を越す開腹手術になった。

17歳なので、吊起帯を使って起立させる。

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30分の昼食をはさんで、12時間働いた。

万歩計は10,038を示している。

散歩もジョギングもしていない。

手術室周辺をうろうろしていただけだ。

健康的?

P1010247


a hard day

2008-11-24 | 呼吸器外科

Pb200231 顆粒膜細胞腫(卵巣腫瘍)の摘出手術。

膁部切開ではなく、内股部切開で行った。

膁部切開より術創を切り広げやすい。

膁部は馬が座ったり、立ち上がるときに引き伸ばされやすい部分なので、術創が開き易いし、歩くたびに痛みが強いようだが、内股部はそのようなことは少ないようだ。

膁部の術創は目に付き易いが、内股は見えないので、外貌上も良い。

しかし、これは術後処置をしづらい点では欠点でもある。

卵巣摘出に使った感想は、

卵巣は、膁部切開より少し遠い。しかし、術創を広げ易いので腫大した卵巣を外へ出すのは一長一短か。

子宮からの卵巣の切除、卵巣動脈の結紮は、術創から遠い分、難しいかもしれなPb200235い。

膁部切開より、腸管が出てきてしまい易いかもしれない。

腸管を押しのけながら、術創の中で結紮するのはたいへんだった。

顆粒膜細胞腫の摘出は簡単な手術ではない。血管を結紮した糸が滑って抜けると命にかかわる。

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Pb200236 涙が止まらず、そのうち膿性の目やにになった当歳馬。

先天性の鼻涙管の鼻側開口部の欠損のようだ。Pb200237_3

全身麻酔下で、眼の方の開口部からカテーテルを入れて、鼻の中でカテーテルの先端を触知する。

そこを切開して、カテーテルを引っ張り出す。 

この状態で2-3週間おいておくと、鼻側開口部も閉じなくなる。

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P3010176 ひきつづいて、現役競走馬のEE(喉頭蓋包埋)の手術。

(左写真はEEの別症例)

全身麻酔して、内視鏡で喉頭を観ながら、EEカッターで切開した。

喉の手術も神経を使う。

競走能力を左右するし、やり直しが難しいからだ。

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ひきつづいて、2歳馬の第一趾骨縦骨折のスクリュー固定手術。

発症当初はx線撮影でも骨折線は見えなかったそうだ。

1週間経っての再検査でわずかな骨折線が見えるようになったとのこと。

骨折はこのように最初はx線検査しても骨折線が見えず、少しずつ開いてくる症例がある。

1週間後に再検査して、きちんと診断した獣医さんに敬意を払う。

スクリューを1本入れただけで、わずかに見えていた骨折線も完全に見なくなった。

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夜になって、繁殖雌馬の疝痛。

強い痛みが数時間続き、血液でもPCVも乳酸値も上昇している。

超音波で分厚くなって、膨満した小腸が観えたので、開腹手術適応なのはすぐ判断できた。

開腹すると小腸がすべて肥厚し、紫色になっている。

空腸上部の腸管膜に穴があり、その穴を小腸全体がくぐってしまっていた。

小腸全体を穴から抜く。色調は回復した。

大結腸を引き出して、結腸捻転のときと同じように内容を洗い出して、腹腔内の結腸膨大部も空にする。

そうしておいて、結腸を馬の胸の上に置く。盲腸は馬の右側へ。小腸は尾側へ。

そのことで、なんとか空腸腸管膜根部の穴の全体が目視できる。

なんとか穴を完全に縫って閉じることができた

(右写真は別症例剖検時;穴の位置を見たい獣医さんだけどうぞ)。Photo_2

しかし・・・・覚醒中の骨折事故で助からなかった。

歩様が良くない馬なので吊起帯も着けていたのだが・・・・

全身状態、馬の蹄の状態・運動量・筋力、すべてが生死を左右する。

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15分の昼食をはさんで、16時間働いた。

指は午前中の手術で攣った(ツッタ)。

翌日は腰も三角筋も筋肉痛。

私には筋力トレーニングが必要だ。

解決策はコレダ(笑)。

Pb220242