馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

重症馬に牧場で急速静脈内輸液する方法 3

2014-02-27 | 馬内科学

2005AAEPでのG.A.Perkinsの講演は、「重症馬に」ということになっているのだが、

では、どうやって脱水を評価するか。

                        -

体重は体重算出用のテープか体重計で調べることができる。

脱水は、皮膚テント、粘膜の湿潤度、毛細血管再充満時間(CRT)、心拍、拝尿、頚静脈充満、眼球陥没などで評価する。

     皮膚テント(秒)    粘膜    CRT(秒)  心拍   その他

5%      1-3        少し粘    <2    正常   排尿減少

8%      3-5         粘      2-3    40-60  動脈圧低下

10-12%   >5         乾燥     >4    >60  頚静脈充満低下・眼球陥没

検査室データでは、

PCV、血清蛋白値、尿比重、BUN、クレアチニン、乳酸などを脱水の評価に使う。

(参考引用おわり)

                        -

皮膚テントは、エンデュランスの獣医委員をしていると、

「頚じゃなくて肩先でみてください」

とライダーに言われたりする。

頚の皮膚は汗の具合や頚の位置でたるんだりするからだ。

                        -

口粘膜は正常では濡れてピカピカ光り、きれいなピンク色をしている(馬によって色素がついているのがいるので注意)が、脱水すると唾液が粘り強くなり、乾いて泡立ったりする。

                        -

口粘膜を指で押して、白くなったところが元に戻るまでの秒数がCRT

この表はかなり厳しく計っている。

おまけに表示の仕方がヘンだ。(3-4秒だったらどうなの?;笑)

                        -

心拍は脱水だけの指標ではない。

                        -

検査データではPCVが汎用される。

しかし、貧血があると間違いの元だし、

馬の種類、性別、季節によって正常値が異なる。

だから、血清蛋白値その他も参考にすべきだ。

乳酸値は疝痛馬では脱水というより痛みと腸管の絞扼部の有無に影響される。

                        ---

さて、どうでしょう。

5%程度の脱水の馬にはしょっちゅうお目にかかるのではないでしょうか??

その欠乏量は(維持量や予想欠乏量は別にしても)500kgの馬なら25?なのです。

(つづく)

                         //////////

3週間ほど蹄球部の化膿が治まらない1歳馬。

P2275819全身麻酔して小さい瘻管を探ると丸いものが奥にある。

木片にしてはあまりに丸くて滑らかで大きい。

軟骨か?

骨片か?

切開して取り出したら・・・丸くて長い枝だった。

                         -

P2275827目脂や涙が多すぎる2歳馬。

鼻涙管が鼻側開口部近くで狭窄している。

というか途中で傷がついてそこから漏れてくる。

全身麻酔して、眼の方から管を入れて、本来の開口部ではないところを切開して管を引っ張り出した。

このまま管を残しておけば、あらたな開口部が作られる。

                         -

どちらも吸入麻酔までは必要ないが、立位でやろうとするのはちょっと難しくて危険。

                        ---

P2275821ひなたぼっこしながら

脚を投げ出して昼寝していた。

物音に気づいておきたけど

寝ぼけている。

そんな顔でショ?

 

コメント (7)
この記事をはてなブックマークに追加

重症馬に牧場で急速静脈輸液する方法 2

2014-02-26 | 馬内科学

2005AAEPでのG.A.Perkinsの講演のつづき。

                          -

馬の診療にもっとも良く使われる14Gカテーテルでは最高流量は5?/時間で、これでは治療効果が限られるし、しばしば輸液量が不足する。

太い輸液管と10Gカテーテルを使えば20?/時間あるいはそれ以上を投与することができ、患馬を安定させ、牧場で治療を続けるか、近くの外科・救急病院へ搬送することができる。

この講演の目的は、患馬の治療における輸液プランをいかに確立するかと、野外環境で急速静脈内投与を行う方法を見当することにある。

(つづく)

                           -

日本では10Gの留置針や静脈カテーテルは簡単には手に入らない。

私は持続点滴をしないのであれば、14Gの留置針を使って1時間に8-10リットルほどの輸液をすることが多い。

ほとんどの馬はそれで排尿する。

腎機能が働くことは恒常性の維持にとても重要だ。

その1時間に疝痛のようすや、腸蠕動や、一般状態の推移を観察できる。

                          ---

P2265817分娩予定日を過ぎた繁殖雌馬の疝痛。

フルニキシンに反応せず来院。

鎮静剤を投与しても不穏感。

PCV54%。

乳酸値は0.8mmol/?以下。

心拍50-60回/分。

まず高張食塩を2?。

それから乳酸化 リンゲルを11?。

高張食塩を入れ始めて蠕動音が聞こえだした。

飲水欲が少し出た。

輸液中に食欲が出た。

輸液後排尿した。

疝痛は治まって帰っていった。

                          -

午後は、繁殖雌馬の歯科治療。

牧場で歯を擦ったがあまり改善されなかったとのこと。

311、411が内側に倒れて、過長歯になっていた。

                          -

その後、2歳馬のDDSPのTieforward手術。

                        ///////////////

P2265814オラは肉食。

Naを積極的に摂る必要はないので、塩気をうまいとは感じない。

汗もかかないので、汗で水分を失わない。

その分、ハーハーするし、

ヨダレはすごい。

今日みたいな日は、もう暑かった。

コメント (9)
この記事をはてなブックマークに追加

重症馬にどうやって牧場で急速静脈内輸液するか

2014-02-25 | 馬内科学

2005年私はシアトルで行われたAAEP年次大会へ出張させてもらった。

そこでCornell大学の Gillian A. Perkins (アメリカ獣医内科専門医)が

How to Rapdly Adminstration Intrvenous Fluids to Critically Ill Eqine Patients on  the Farm.

重症馬に牧場でどうやって急速静脈内輸液を行うか

と題する講演をしていた。

重症馬に。

牧場で。

というのがキーワードである。

                           -

まず要約。

脱水を起こした病馬の輸液必要量(欠乏量)は25-40?であり、1日30?の維持量も必要である。

大口径の静脈カテーテルを使って、大量の輸液(1時間当たり20?以上)を重症馬に急速に投与することができる。

                           -

Introduction には、

平均的な体重500kgの病馬が5-10%の脱水を起越していると、初期の輸液必要量は25-50?である。

とある。

これは、単純な話で、脱水を体重比で示せば、500kgの馬が体重の5%の水を失っているとするならその量は25?だということだ。

                           -

ここからは私の算数。

体の60%は水分だとされていて、40%は細胞内液、20%は細胞外液である。

急速に起きた脱水だから細胞外液だけが失われていると単純化する。

500kgの馬の細胞外液は100?。

それが25?失われているということは1/4を失ったことになる。

PCVを血液の濃さの指標として使うと4/3倍になっているはず。

健康だったときのPCVが35~40%だったとすると、脱水後は45~52%くらい。

これくらいのPCVを示す症例にはざらにお目にかかるだろう。

                         ---

昨夜10時前に来院した馬は、PCV54%、超音波検査で小腸が膨満しているのを確認した。

胃拡張もありそうだったので、ストマックチューブを入れて10?ほど胃液を回収した。

開腹すると小腸はかなり膨満し、腹膜炎で腹水も増量していた。

20-30?以上は体内で「隔離」され、脱水を起こし、さらにはエンドトキシンショックでもあったのだろう。

SIRS(全身性炎症反応症候群)と言ってもいいかもしれない。

                           -

はっきりと脱水があるときには、5%程度の脱水が起きていることはざらにある。

(つづく)

                          /////////////

P2255812今日は、子馬のALD(Angular Limb Deformity)肢軸異常の矯正手術から。

午前中、子宮動脈破裂の剖検。

どちらも春の季節もの。

午後は、2歳馬の歯槽骨膜炎?

4歳競走馬のTieback & Cordecotmy .

繁殖雌馬の副鼻腔炎と鼻出血。

                           -

P2195805これは1週間ほど前の夕方のようす。

この1週間でかなり雪と氷はとけた。

それでも、見えてきた地面はまだ固く凍っている。

 

コメント (4)
この記事をはてなブックマークに追加

補液と輸液

2014-02-24 | 馬内科学

動物用の輸液剤を製造販売している日本全薬工業が作っている牛の補液についての冊子に、

「補液」という用語は、東京大学教授であった臼井先生が、

大動物では本来必要とされる量の輸液をすることが現実的には難しいので、「補液」と呼ぶことを提唱された。というような説明がされている。

この「補液」という用語の由来についての説明の真偽は定かではない。

他人の医療でも「補液」という言葉は使われていて、輸液と明確には区別されていないようだ。

                          -

本来行われるべき輸液ができないから、「補液」で済まそう。という考え方は好きになれないので私は「補液」という言葉は好きではない。

器材に乏ししく、取り巻く環境が今より厳しかった臼井先生の時代はともかく、今は留置針にしても、輸液管にしても、輸液剤にしても、厩舎構造にしても、労務環境にしても、やろうと思えば必要と思われる輸液を行える条件はそろっている。

                           -

20年以上前、私たちも年に数頭の開腹手術をしていた。

今より運ばれてくる疝痛馬の状態ははるかに悪かった。

手術後は入院してもらって、1日2回から3回点滴していた。

馬のそばで補液剤をフォークにぶら下げて数?の補液をするのだが、子馬は1時間を超すと抑えられているのに飽きて暴れ出す。

PCVが高い成馬には量をたくさん入れたいのだが、他の仕事もあるしそうそう1頭の馬についていられない。

結局、PCVが高い馬は、飲水・採食できるようになって自然に脱水が改善されるまでPCVは下がらなかった。

状態が悪い馬ではPCVはなかなか下がらなかった。

1回1時間あまり、数?の補液を頑張って3回繰り返しても、24時間のうち3-4時間しか点滴していないので、当然と言えば当然だった。

                            -

S 1992年に研修に出してもらったカリフォルニア大学Davisや、フロリダ大学獣医教育病院では、必要がある馬には頚静脈カテーテルを留置し、持続点滴が行われていた。

(右写真;フロリダ大学獣医教育病院入院厩舎での持続点滴)

USAでは大動物用の5?の輸液剤が市販されていて、それを入院厩舎の天井からいくつかぶら下げて、夜の間も当直のテクニシャンや学生がときどき見張りながら持続点滴が行われていた。

成馬はわれわれ人間の10倍近く体重がある。

馬に2-3?の補液をしたところで、ヒトに換算すれば200-300mlの水分と電解質でしかない。

はっきりと脱水があるのに、コップ1杯か2杯の水や塩気は気休めにしかならない。

(つづく)

                        /////////////

今日は、腕節の剥離骨折の関節鏡手術。

橈骨遠位外側関節面。

中間手根骨近位も圧迫してみるが折れてはいない。

橈骨遠位内側関節面にも軟骨損傷部はあるが、関節面辺縁は傷んでいない。

DRで確認のレントゲンを撮って、関節軟骨の浮いている部分は摘出し、関節内を充分に洗浄して手術終了。

大雪もあり骨折から2週間以上帰ってこれなかったらしい。

手術前にははっきり腕節に熱感と腫脹があった。

                          -

Dsc_2575あは

あたたかくなってきたから

オラ、せーたーぬぐゾ

コメント (4)
この記事をはてなブックマークに追加

緊張感・プレッシャーとの戦い

2014-02-23 | How to 馬医者修行

SOCHIオリンピックも終わる。

選手達の妙技・美技だけでなく、緊張感やプレッシャーと戦う姿にも考えさせられるものがあった。

日本人選手でも、「緊張なんてしません」と言っていた選手もいたし、

本来の実力を発揮できなかった選手もいたようだし、

実力以上の結果を収めた選手は・・・・・いなかったか。

                       -

プレッシャーはあって当然だし、

緊張するなと言っても無理な話で、

かと言って、実力を発揮できなければ勝てない。

                       -

ずっと前に、医療事故をおこさないための緊張感の度合いについてを記事にした。

フェーズ3という状態が望ましいということだったが、スポーツでは異なるかもしれない。

もっと無我の境地というか、自然に体が動き、しかしアドレナリンは充分出ているのが望ましいのではないだろうか。

あるいは競技にもよるかもしれない。

アイスホッケーだと興奮状態で闘争心全開に近いのが良いかもしれないが、

カーリングではもっと冷静さが要求されるだろうし、

フィギュアスケートは・・・とても精神のおきどころは難しそうだ。

                        -

馬外科医の精神的プレッシャーについても聞いてみたくて、Dr.Richardsonに尋ねたが、

「(プレッシャーは)ない。それで自分の行動を変えたりしない。」

という返事だったので、それ以上話を聞けなかった;笑。

                        -

人前で緊張する場合、人という字を掌に書いて飲み込む動作をすればイイとか、人をカボチャだと思えとか言われるが、ほとんど効果はないだろう。

そして、このようなことが言われるのは、「人前」とか「人に見られていると」というのが緊張の大きな要因だということになる。

人が見てようが見ていなかろうがそんなもの関係ない。という境地もありかもしれないが、フィギュアスケートなどでは観客へのアピール度が「演技」の表現力として採点される。

人が見ていた方が自分を発揮できる。くらいの気持ちでいるのが望ましいのかもしれない。

                        -

自分に集中すると言っても、対戦相手がいる競技も多い。

スキークロスやスケートショートトラックなどは駆け引きというより、対戦相手がいるための運不運もつきまとう。

私たちの診療も、ただただ純粋に馬を治すための最良の治療に集中するというわけには行かないことが多い。

治療費を考えずに、助かっても経済価値が無くなってしまう馬を最後まで治療するわけにはいかないことはしばしばある。

                        -

緊張するのは自信が足らなくて、それは準備が不足で、実力以上のものを出そうとするからだと言われることもあるが、オリンピック選手になると準備不足ということはそうそうないだろう。

しかし、どれだけ練習して準備してきても、完璧な準備ができたと思えなかったり、

準備は完璧でも勝てるとは思えなかったり、すこしでも良い結果をと思うことはあるかもしれない。

私も経験や実績が無かった頃は、手術前に「手に負えなかったらどうしよう」と不安になることはあったかナ~・・・・・・今はすっかり、ずうずうしくふてぶてしくなった;笑。

                        -

女子スノーボード大回転パラレルで銀メダルだった竹内智香選手は、固い斜面を見て、

「今日は私の日になる」

と思ったそうだ。

そのくらい思えれば、困難でたいへんな手術も楽しんで挑めるかもしれない。

                     ////////////

Dsc_2566_2 スーパーサイヤ犬のオラには緊張は関係ありません

     -

Dsc_2565

コメント (8)
この記事をはてなブックマークに追加