馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

球節の骨折を見逃していないか? unicortical fracture はどれくらいある?

2021-06-28 | 整形外科

掌側/底側の皮質だけが割れるunicortical condylar fracture 単一皮質顆骨折。

顆骨折の中でどれくらいあるのか?

7%ほどはあるのではないか、というデータが次の文献に示されている。

                -

Frequency distributions of 174 fractures of the distal condyles of the third metacarpal and metatarsal bones in 167 Thoroughbred racehorses (1999-2009)

B.D.Jacklin and I.M.Wright

Equine Veterinary Journal 44 (2012) 707-713

167頭のサラブレッド競走馬の第三中手骨と中足骨の遠位顆の174の骨折の頻度分布(1999-2009)

あのNewmarket Equine Hospital のWright 先生たちの報告。

                -

12の骨折(6.9%)は単一皮質骨折であった。

と、Resultsに書かれている。

6例は辺縁が尖鋭で急性の骨折だと見え、6例は辺縁が明瞭ではなく、骨折周囲に骨吸収があり、長期の病変であるか、軟骨下の病変の進行の期間のあとに起こったと見えた。

                -

Newmarket Equine Hospital もこの調査期間(もう10年以上前だ)には、この単一皮質顆骨折を見逃さないように完全な検査をしていたわけではないようだ。

そのことが、Discussion に書かれている。

                -

ほとんどの症例で、骨折は背掌/底方向X線画像撮影で判別された。あるいはわずかな追加撮影で。

しかし、急性例でのように、掌/底側の軟骨下骨の”単一皮質”骨折は通常、ルーティンの背掌/底像では描出されない。

屈曲位での35°近位背-掌/底側35°遠位-背側近位方向撮影も、この調査では行われた。

これは、Pilsworthらによって記述された撮影方向の変更である。

この方法では、中手骨/中足骨は垂直で、下肢の関節は屈曲させて保持され、X線束は水平である。

著者の意見では、この撮影方向は、中手骨/中足骨の顆の軟骨下骨を評価するのに優れている。

その画像では顆の関節面移行部を、近位種子骨の底部で、かつ基節骨の掌/底側突起の間に描出できる。

 しかし、この撮影方向においても、掌/底側の軟骨下骨の潜在病変がわずかであると、これらの単一皮質骨折はしばしば7-10日はX線画像上は現れず、ときには2-4週間も判明しない。

単一皮質骨折に代表されるような見逃しは今回の調査のわずかな部分にすぎない。しかし、これは警告として解釈されるべきである。なぜなら、それは調査においてはおこりがちなことであるからである。

単一皮質骨折の多くはX線画像には現れず(少なくとも最初のステージでは)、保存的に管理される。

さらなる診断のために上診されることは少ない。

臨床において起こっている単一皮質顆骨折の比率を低く評価していることが起こりうるのである。

                 -

Newmarket Equine Hospital のIan Wright先生たちでさえ、完全な顆のX線撮影はできていなかった、という苦しいDiscussionだ。

1988年におなじNewmarketで掌/底側を描出するための、屈曲打ち上げ撮影が報告されているが、1999-2009年のNewmarket Equine Hospital もそれはルーティンではやっていなかった。

この一番右のやつ。

だから、掌/底側の単一皮質顆骨折を見逃し、過少評価しているだろう、ということ。

そして、にもかかわらず、174例の顆骨折のうち12例(6.9%)は掌/底側の単一皮質骨折だった。

                  -

日本では、そんな率では見つかっていない。

私たちは中手骨あるいは中足骨の顆の単一皮質骨折をかなり見逃しているだろうし、

調教馬、競走馬の球節の病変・損傷を正しく評価できていない、のではないかと思う。

               /////////////////

北海道にも控えめな夏が来ている。

わずかに暑さを感じるようになり、強い日差しを楽しめる。

牧場は牧草作業で忙しい。

毎日、1頭ずつ開腹手術馬がやって来る。

日中来ることもあるが、昼間に来ないと夜に来る。

こいつは川で夕涼み。

 

 


球節の骨折を見逃していないか? unicortical condylar fracture 顆の単一皮質骨折

2021-06-22 | 整形外科

中手骨遠位の顆骨折にも気をつけなければならい。

背-掌方向で撮影しているから顆骨折なんて見逃さない?

顆骨折は掌側や底側の皮質だけに亀裂が入る unicortical condylar fracture 単一皮質顆骨折を起こすことがあることが報告されている。

                    -

Unicortical condylar fracture of the Thoroughbred fetlock: 45 cases (2006-2013)

Equine Veterinary Journal 47 (2015) 680-683

要約

研究実施の理由

中手骨/中足骨の顆の骨折は、通常、前駆的病理学的変化があってから起こる。

損傷を早期に発見することは、ひどく悪化するリスクを抑えることに不可欠である。

しかし、単一皮質の顆骨折の臨床的、診断上の特徴は現在までほとんど記述されていない。

目的

中手骨/中足骨の短い単一皮質骨折と初診で診断された競走馬の症状、画像、予後について記述すること。

研究デザイン

回顧的症例調査

方法

2006から2013年のイギリスの獣医療の一次診療で最初の1回の見解で単一皮質顆骨折があったすべての平地競走馬を、

画像記録で検証し、臨床経過、病変の部位、治療、リハビリ指導、および結果について分析した。

結果

調査期間中に45症例が検出された。

前肢に多かった(35/45、77.8%)。

症例の平均年齢は3.4±1.3歳であった。

球節部の触診でわかる臨床的異常は明確ではなかった。

多く(35/45、77.8%)の損傷はX線画像で診断された(屈曲させての背掌/底方向撮影)。

残りの症例はMRIが必要だった。

7頭は最初の診断で、あるいは後の損傷で手術になった。

30頭のうち28頭(93.3%)は、無関係な他の理由で引退せず、競走復帰したが、

5頭(16.7%)は保存的管理をされているうちに再発し、中央値305日であった。

診断ミスのために2頭は致命的な骨折に至った。

結論

単一皮質顆骨折の臨床所見は軽度であることがあり、適切な診断画像が損傷発見のために必要である。

損傷の診断の失敗は致命的な骨折につながりうる。

ほとんどの症例は保存療法に反応し競走復帰したが、再損傷のリスクは一部の症例で手術を考慮することに根拠を与える。

獣医師の警告と適時の介入は、競走馬の球節の顆完全骨折の発生を有意に減らす可能性を持っている。

                 -

競走馬の中手骨/中足骨の顆は、掌側や底側の皮質だけが割れることがある。

普通の背-掌/底方向撮影では骨折線が写らないことがある。

写し出すためには、球節を屈曲させて遠位背側-近位掌/底側方向で撮影する必要がある。

大きく打ち下ろししているX線画像ではない。

球節を屈曲させて”打ち上げ”ている。

そのことで、掌/底側皮質を描出できる。

                     -

撮影方向と必要性については1988年に報告されている。

A flexed dorso-palmar projection of the equine fetlock in demonstrating lesions of the distal third metacarpus

Veterinary Record (1988) 122, 332-333

この文献の図。

球節をかなり曲げて、中手骨が垂直であるなら垂線から125°(つまり35°打ち上げる);右端の図。

そのことで、顆の掌側の皮質を写すことができ、しかも種子骨と重ならないようにできる。

                    ---

地方競馬場で球節に骨片骨折が見つかり、先週、手術に来院した競走馬。

全身麻酔する前に、しっかり球節を画像診断した方が良いと考えた。

そして・・・

当たり前の撮影でもわかる内側顆の骨折が見つかった。

ただのchip fracture だと思っていきなり全身麻酔しなくて良かった。

関節鏡手術で骨片を取り出したあとは、外内方向のX線撮影しかしない。

覚醒起立にはとてもリスクがあっただろう。

この馬は、関節鏡手術で骨片を取り出し、顆はscrew固定し、キャストを巻いて覚醒起立させた。

                  -

内側顆の骨折は、背掌/底方向撮影で2本の骨折線が見えることが多い。

背側と掌/底側の骨折線がずれて写るからだ。

この症例は、掌側の骨折線しか見えなかった。

珍しいが、背側の骨折線がほとんど伸びていないのだ。

                   -

unicortical condylar fracture 単一皮質顆骨折なんて、とても珍しいんじゃないかって?

(つづく)

                 /////////////////

きょうは、

顆粒膜細胞腫の卵巣摘出手術。

肢軸異常のscrew抜去手術。

あがり馬の疝痛、結腸便秘。

午後は、

当歳馬の臍ヘルニア。

2歳馬のDDSPの軟口蓋laser焼灼。

当歳馬の顔面骨折のプレート抜去。

当歳馬の飛節近位部の皮下膿瘍の切開。

黒毛繁殖雌の疝痛、腸閉塞。

入院厩舎に、結腸捻転の繁殖雌馬。

もりだくさんでした。

 


球節の骨折を見逃していないか? P1の縦骨折

2021-06-21 | 整形外科

第一指骨の近位背側に小さな骨片が見つかって関節鏡手術をすることはしばしばある。

が、跛行の程度や、第一指骨の縦骨折がないか、十分に検査してから手術を決めなければならない。

だから、かならず背-掌方向の撮影が必要だ。

それも良好な質のX線画像でなければならない。

                    -

背-掌方向の撮影をしたからといって安心はできない。

亀裂骨折は、数週間してから骨折線がX線画像に現れることがあるからだ。

関節鏡手術してから数週間して、第一指骨の背側に骨増勢が起こり、短い、縦の亀裂骨折があったとわかったことがある。

(つづく)

                 /////////////////

住民票を置いている町からコロナワクチン接種の案内があって、

7月の初めに予約することができた。

電話がつながるまで40分くらい電話をかけ続けたけど;笑

相手が話し中だと、しばらくするとこちらの電話が切れてしまうんだね。

自動で何度も同じ電話番号にかけてくれ機能が欲しくなった。

ネットで受付しないのは田舎だからか?

                    -

きちんと承認の過程を経たワクチンでないことは承知の上だ。

今まで安全性の実績がないmRNA(メッセンジャーアールエヌエー)ワクチンであることもそれなりに理解している。

副作用があること、ある程度の比率でひどい副作用であること、も知っている。

自分がCOVID19に罹って、どれくらい重症化する率があるかを考え比べて、早く接種したいと思っている。

 

 

 

 

 

 

                 


腹水採取のための腹腔穿刺

2021-06-21 | technique

Photo_102

某専門誌に馬の疝痛について原稿を頼まれた。

もう書き上げて提出した。

手こずるかなと思っていたが、忙しい春の間でもスラスラ書けた;笑。

いつも考えていることだからだろう。

            ー

読者層を考えると、馬を日常的に診療している獣医さん向けの文章ではない。

開腹手術を日常的にできる、あるいは依頼できる地域の獣医さん向けではない。

しかし、きちんと診断すること。正しい対処をすることは書いておきたい。

北海道の馬を診療することがある獣医さんや、馬生産地の新人獣医さんの役にも立つ文章にはしたい。

            ー

腹腔穿刺についても書かなければならない。

このブログでは何度か書いているんだけどね;笑

            ー

馬の正中は膨らんでいるので指の感触でわかる。

・20Gの針を回しながら、針先を感じながら、回しながらゆっくり刺す。

・刺すときは頭と顔は逃げておく。

・キャップを外したEDTA管を持っておく。腹水の滴下はしばしばすぐ停まる!

経験からのコツを教えてやっているのに、聞かない、できない、価値が理解できない、覚えてないヤツが多いんだけどね。

(針を刺す右手にEDTA管を持っていることもできる)

(馬の体に触れておくべき左手にEDTA管を持っていることもできる)

            ー

採れた腹水の検査と評価は・・・・またそのうち。

             ////////////////

アカシア、って呼ばれることが多いけど、実はニセアカシア。

さらに本当はハリエンジュ、らしい。

これは赤い花が咲くカスクルージュ。

香りが良く、良質な蜂蜜の素になるらしいが、私には香りはわからない。

 

 


当歳馬2ヶ月齢の空腸捻転 開腹の判断

2021-06-16 | 急性腹症

ちょうど2ヶ月齢の子馬が夕方6時半から疝痛。

フルニキシン無効、鎮静してもまた痛くなる、ということで7時40分に来院。

転げまわるほど痛いわけではない。

心拍は100。親から離して連れて来られた昂奮もある。

蠕動は亢進気味。

PCV37%、乳酸値3.6mmol/l。

超音波検査しようとするが、じっとはしていない。

それで、メデトミジンとブトルファノールで鎮静した。

小腸が盛んに動いている。

完全に膨満している部分や肥厚した部位、あるいは動いていない部位は見当たらない。

                 -

蠕動亢進して痛いのか?

ブチルスコポラミンを投与してみる。

子馬の痙攣疝や異常な蠕動亢進には効くだろう。

しかし、子馬は寝込んでしまった。

聴診するとまだ蠕動亢進している。

寝ていると、腹囲膨満しているようだ。

フルニキシンを投与してみる。

疝痛を抑え、異常な蠕動を制限してくれることを期待する。

しかし、立つと身をよじり、前掻きしする。

倒れこんだり、転がりまわるほど痛いわけではない。

                -

来院してからもう1時間ほど経った。

再度超音波検査するために鎮静剤と鎮痛剤を投与する。

超音波所見は変わらない。

相変わらず蠕動は亢進気味。

                -

右側で数分かけて聴診する。

蠕動音は聞こえるが、しっかり内容が運ばれる音は少ない。

そして・・・回盲部の通過音、管から有響部がある部屋へ流れ込む特徴的な音、は聞こえない。

「手術しましょう」

これだけ蠕動亢進しながら小腸から盲腸への流れ込みがない、回復しない、のはおかしい。

                -

開腹し、盲腸から小腸を吻側へたどる。

すぐ出てこなくなった。

ループ状の小腸がまとわりついて絡んでいた。纏絡。

完全には締め付けられておらず、解くことができた。

そこから小腸をさらに上位へ辿っていく。

回腸は正常、その吻側の空腸下部は纏絡していた部分で点状出血し、肥厚もある。

空腸の中位は、腸間膜付着部に水腫があった。

内容を盲腸へ推送し、盲腸はポンポン。補液管を刺して減圧した。

                -

小腸全体は盛んに蠕動し始めた。

疑わしきは切除する、が判断基準なら予後不良だ。

切除するには範囲が長すぎる。

しかし、回復することを期待することにした。

腸管操作前に、ソディウムカルボキシ・メチルセルロース液をかけてある。

癒着防止に働いてくれる、はず。

                  -

術前PCV37%、

腸内容も抜かなかった。

順調なら明朝には哺乳できるだろう。

だから、術後の輸液はしないことにした。

それなら、入院しないで帰りましょう。

翌朝、子馬は調子良いということだった。

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とうちゃん ねぶそくだべ

いっしょにひるねしてやるか