馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

多指(趾)症 polydactyly

2014-04-30 | その他外科

14P4246110 ご存知のとおり、馬は第三中手骨が発達して残り、第二・四中手(足)骨は副管骨としておまけ的に付いて、途中で終わっている。

が、「先祖返り」などとも言われるが、その第二指の退化の仕方が少ない子馬が生まれることがある。

人でも指が多く生まれることがあるらしい。

人は6本指になるので、魚のヒレの近くまでの先祖返り atavism ということになるのかしら?

偉人や有名人にも多指症の人がいたらしい。

                          -

馬では、外貌上問題になるし、残しておくとひっかけたりしかねないので取ってしまうことになる。

副管骨の骨折で、先っぽを取るようにはいかない。P4246114

なにせ大きくて太いし、ちゃんと球節、種子骨、屈腱、蹄などの構造を持っているし、屈腱や動静脈にしても本来のものと分岐・癒合しているからだ。

(右)

                          -

11できるだけ目立たなく、普通の肢にみえるようにしたいが、近位部も普通の馬より大きいので、摘出の仕方は迷うところだ。

(左)

豊臣秀吉も親指が一本多かったという記録があるそうだし、

出世してもらいたいものだ。

      -

polydactyly

poly は多い。

dactyly は指。

管骨cannon bone が多いという意味でduct  かと思っていたが、「管」ちがいでした。

                                                        ////////////////////

今日は、

午前も午後も3歳競走馬のTieback & Cordectomy。

その他に、

20歳の繁殖雌馬の子宮内膜シストのlaser破砕術。

1歳馬の上腕二頭筋滑液嚢炎。

開腹手術後の発熱馬の検査。

入院厩舎に、帝王切開馬、腸炎の新生子馬。

P4296142

 

 

コメント (11)
この記事をはてなブックマークに追加

コアカリ「馬臨床学」2

2014-04-29 | 図書室

Photo_2獣医学教育モデル・コア・カリキュラムが策定され、これにしたがって獣医学教育を行うことが始められている。

6-7割りはこの内容を教えてください。

それ以外は各大学の特色で結構です。

学外実習へ出る前には共用試験を行って、それに合格した学生には学外で参加型実習できる資格を与えます。

というのが、 コアカリ事業の概要だろうか。

                            -

「馬」をコアカリの中に残すかどうかは議論があったらしい。

「産業動物」の中に含めるので良いではないか。という意見も多かったのだろう。

しかし、多くの科目でそうなのだが、牛について教え、豚について触れ、ついでに「馬についても」となっていても、実際には馬については教えられずに終わってしまう。

だいたい海外では「産業動物」としてくくられることはないように思う。

Small animal.  Equne.  そして、Food animal という分け方だ。

                           -

動物種の違いというのは大きくて、解剖構造や生理が違うので、当然、病理・薬理も違ってくる。

これが獣医学のたいへんなところで、医学・薬学でもコアカリは行われているが、コアカリに示されたポイント数は、獣医学の方が医学・薬学より多くなっているそうだ。

獣医学科の学生や教員は医学の学生や教員より優秀なのか?(笑)

臨床となると、動物種が違うと現実にはほとんど歯が立たない。

病気が違い、生理反応が違い、薬の投与量が違い、使える器具や技術が違うからだ。

紆余曲折のあと、「馬臨床学」がコアカリに残されたことは馬関係者として喜ぶべきことなのだろう。

そのポイント数は魚病学よりはるかに少ないのだけれど;涙。

                          -

が、「馬臨床学」を馬の臨床に必要な知識をすべて網羅した教科書として書くことはできない。

コアカリではポイント数に準じてテキストのページ数が決められていて、「馬臨床学」ではせいぜい120ページほどになる。

現代の馬の臨床を120ページで網羅するのは無理だ。

そして、他の科目、例えば解剖学、生理学、病理学、薬理学、伝染病学、などにはそれぞれ「馬」についての項目が含まれている。

重複しても構わないとなっているが、ページ数が限られているので、他の科目で教わるものはそちらで勉強してくださいということになる。

                          -

「馬臨床学」も器官別に書くことが決まっている。しかし、これも勝手に増やすことはできないので、神経病、皮膚病、などは含まれない。

そんなこともあって、あくまでコアカリテキストであって、馬臨床家が診療する上で紐解いて参考にできる教科書ではないのだけれど、少なくともこれからの新卒獣医師は馬の臨床についてこれだけのことは学んで来るという指標になっている。

そして、思えばわれわれが学んだ数十年前の家畜内科学、獣医外科学、臨床繁殖学から内容は大きく変わっている。

馬臨床家の皆さんにも目を通していただければと思う。

(つづく)

コメント (10)
この記事をはてなブックマークに追加

難産な夜

2014-04-29 | 繁殖学・産科学

10:38に起こされる。

難産、頭失位、両前腕節屈曲、そして後肢も産道に入ってきているとのこと。

近くの牧場なので急いで準備しなければならない。

難産介助器具の用意。

全身静脈麻酔の準備。

直腸検査用カッパを着て、手袋をはめて、etc.

11:05 準備が全部終わらないうちに馬が到着した。

すぐに倒馬する。

プロポフォールを使いたかったが、使い慣れたTIVA(Total IntraVenous Anesthesia 全静脈内麻酔)にする。

頭部失位は牧場で治してきたとのこと。

だが、まだ羊膜は破れていない。へんなお産だ。

腕節を伸ばさなければならない。

なんとか片方直す。11:20

あらためて産道を触ると後肢がしっかり入って来ている。

どうも胎仔の姿勢もおかしい。

それでも鼻がヒクついて生きている。

「大事な馬なら帝王切開したほうが良いかもしれません」

「そうして下さい」

ということで、他の当番獣医師を呼び出す。

新生仔の蘇生もあるので人手が必要だ。

手術台の用意、吸入麻酔の準備、帝王切開の道具の用意、etc.

術野の消毒を始める。11:30

11:50には手術開始。

ふつうは子宮の中の胎仔の飛節を探してその上の子宮を切開する。

が、後肢もすっかり産道へ向いているらしい。

仕方がないので、血管が少ない部分を切開し、子宮の中から後肢を引っ張り出す。

産科チェーンをかけてホイストで吊り上げて胎仔を娩出させる。

胎仔は飛節が曲がり、腕節が伸びず、背中も湾曲していた。

それでこんなひどい難産になったのだろう。

馬の帝王切開では子宮壁からの出血が多い。

子宮壁の血管を締めるように子宮壁をひろいながら子宮を縫合する。

あとは腹腔に抗生物質を入れて閉腹する。

終わって12:45。

覚醒室へ運び出す。

器具の片付け、診療室、手術室の掃除、洗濯、ざっとカルテを書いて、1:20。

1:50には馬が動き出したが、まだ眼球脳振盪している。

2:10 馬が伏臥して起きようとするが、前肢が立てない。

その後も何度が立たそうとするが、前肢が立てない。

どうも立ち上がろうという意欲に欠ける。

2:45 馬の耳元で携帯のヴォイスレコーダーに録音しておいた馬のいななきを聞かせたら、顔つきが変わって立ち上がった。

入院厩舎へ歩かせて2:55。

                           -

今朝6時前に診察すると低体温(35.7度)、ずっと軽度の疝痛があり震えたり不穏感があったとのこと。

高張食塩液を1リットル投与したら水を飲んだ。

その後、オキシトシンを混ぜた酢酸リンゲルを点滴する。

フルニキシンを投与したら不快な症状は見せなくなった。

排尿し、草を食べるようになった。

あとは後産が出れば退院しても大丈夫だろう。

                          ---

今日は、子宮穿孔した繁殖雌馬の安楽殺。

競走馬の腕節の関節鏡手術。

黒毛和種子牛の細菌性精巣炎?

腸炎の新生子馬の入院。

午後は当歳馬の臍ヘルニアの手術。

帝王切開馬の胎盤を少しだけ牽引して陰部から出し、重りをぶら下げて、オキシトシンを投与した。 

                         ///////////////

P4286128とうちゃん

さ・ん~~~ぽ

いくべ

-

-

-

P4296129あ~

すっきりした

 

コメント (8)
この記事をはてなブックマークに追加

QHの慢性蹄葉炎

2014-04-28 | その他外科

P4256118 クウォーターホースの繁殖雌馬。P4256119

レイニング競技でも活躍した馬だそうだ。

妊娠末期なのだが、以前からの蹄葉炎で肢が痛い。

X線撮影したらすっかりローテーションしているので、深屈腱切断手術をすることになった。

深屈腱をローテーションさせる力は深屈腱の牽引力なので、

深屈腱を切るとローテーションの進行をとめることができる。

11_2そして、蹄尖部が浮くほど蹄の荷重部は変わり、蹄踵部へ荷重が移る。

左写真はより悪かった左前。

深屈腱を切って、さらに蹄尖部を削蹄したところ。

もっと蹄尖部は切り落としたいところだが、蹄壁が短くなりすぎると割れて開いてしまう恐れがある。

サラブレッドよりはるかに蹄壁も蹄底も硬くて厚い。

良い爪だ。

P4256120
このあと、蹄踵部を削った。

かなりデ・ローテーションさせることができた。

         -

-

-

12右前。

すでに深屈腱は切ってある。

左右前とも上湾を付けた蹄鉄を打って、蹄叉サポートクッションが入った靴を履いてポックラポックラ歩いて来たのだが、

反回ポイントを踵側へずらした方が良いのがX線画像を見るとよくわかる。

(右上)

右前も蹄尖部を切って、

踵部を削った。13

(右下)

  P4256121                       -

痛いことをする間も、

とても落ち着いていたし、

蹄も硬くてしっかりしているし、

肢を台に載せても嫌がらない。

良い患者さんだった。

                        ///////////////

P4286126ほんとうに雨が降らない4月だった。

牧草が伸びなくて困っているようだ。

今朝は少し地面が湿った程度。

これじゃあね・・・・

 

 

 

 

コメント (6)
この記事をはてなブックマークに追加

コアカリ「馬臨床学」

2014-04-28 | 図書室

Photo長い獣医学の歴史を振り返ってみれば、実は獣医学とは馬の臨床医学であった。

それは、馬が人々にとって生活の役に立つ、最も価値のある家畜だったからだ。

千年、二千年の歴史の中で、馬がスポーツや競馬やコンパニオンアニマルでしかなくなったのは、トラクターや自動車が普及したこの100年あまりのことでしかない。

           -

過去に固執してもしかたがないが、現在でもサラブレッドが獣医師が扱うもっとも高価な動物であることは間違いない。

小動物コンパニオンアニマルは家族として心情的に大切に飼われているが、ほとんどすべての小動物は経済的価値が云々されることはない。

”その「ペット産業」は今や1兆円市場”などと言われている。

えっ、そんなもんなんだ。

馬券売り上げの減少が憂慮される競馬産業だが、減ったとは言え、馬券の売り上げだけでも2兆円を優に超えるのはご存知のとおり。

その主人公である競走馬を誰が治療するのか? 

健康管理の知識や技術はどの学問が支えているのか?

と見渡せば、獣医師以外にはない。

                             -

馬は、人を背に乗せてくれるという、他の動物にない強烈なヒューマン・アニマル・ボンドを持っている。

動物の気持ちを考え、接し方が相手をどう変えるのか考え、自分よりはるかに大きい動物を操る難しさと面白さを最も人に教えてくれる動物だろう。

そして、乗馬はスポーツとして世界中で大いに認められ、地域性を育みながら文化や生活としても営まれている。

いまだに移動手段や農作業に使われている地域もあるし、ブリティッシュ、ウェスタン、その他の生活と気候風土と歴史に根ざした馬との活動がスポーツを超えたものとして世界中で誇りをもって維持され愛されている。

その中で獣医師は大いに尊敬されている。

主人公たる馬に詳しい者であり、馬の健康上の問題を解決してくれる特有の技術と知識と経験を持ち、馬を診療することを許された資格を持っている者だからだ。

                            -

が、今や日本の獣医科大学では馬の臨床を充分に教育できるところはない。

ほとんどの獣医科学生は馬に触ることなく、馬について学ぶことなく卒業し、国家試験に受かれば獣医師となるが、

「馬についても学びました」

と胸を張れる新卒獣医師はいないだろう。

馬は怖くて危ない動物で、馬を飼っている人はもっと恐ろしい(笑)と思われている。

かつては馬が主たる対象動物であったので獣医学科教員も馬についての知識や技術がある先生が多かったが、今やはとんどの教員が馬に対する興味も意欲も知識も技術も経験も持っていない。

仕方がない。

毎年約1000名の新卒獣医師のうち馬を扱うことがある道に進むのはわずか10名ほど。

1%のために16ある獣医科大学でカリキュラムを組むことは難しい。

ただ、日本では馬については教えていません。日本の獣医師は馬については知りません、できません。では、世界の中で日本の獣医師や獣医学教育が尊ばれ、国際水準を満たしているとされることはないだろう。

馬はいまだに、そしてこれからも、獣医師が対象とすべき、特有で、価値がある、歴史ある、愛すべき動物だからだ。

(つづく)

 

コメント (4)
この記事をはてなブックマークに追加