馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

子牛の上腕骨骨折のプレート除去

2018-11-30 | 牛、ウシ、丑

ひと月半前に上腕骨骨折をプレート固定した黒毛和種子牛。

傷の具合は良好だ。

うろうろと歩き回る。

患肢は少し前へ振り出すような歩様。しかし、神経麻痺ではないだろう。

上腕二頭筋などの筋力の問題だと思う。

両前肢は球節以下がゆるい。これも運動不足と筋力から来ているように思う。

増体は思わしくないが、骨折の影響だけではないかもしれない。

借り腹で生まれて、すぐに上腕骨骨折した。初乳も充分に飲めなかったのかもしれない。

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鎮静後プロポフォールを静脈内投与。

静脈カテーテルを入れて、

延長チューブを付ける。

伏臥にして、牛の膣鏡を開口器にして、

気管挿管する。

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骨癒合は良さそうだ。

一番遠位のscrewも成長板を貫いていないように思う。

しかし、肥育素牛として高く売りたいこともあってimplants(plate & screw)は抜く。

どうせこの骨折事故は家畜共済の対象にならない事故だ。

そして、橈骨近位骨端の頭側にDCPが緩衝したくぼみができていた。

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できるだけminimally invasive technique で抜去した。

贅骨がかなり出ているのは整復が完璧ではなかったことと、骨折から手術まで日数があったためだろう。

6.5mmscrewも5.5mmcortical screw も効いている感触は不充分だった。

子牛の上腕骨骨折は治せる(ものは治せる)自信がついた。

さて、今度はサラブレッド子馬だ。

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手術は無事終わった。

拮抗剤を投与したらすぐに立ち上がった。

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母は、内視鏡による胆石除去がうまくいったようで、肝臓の検査数値も良くなり退院できる。

そのヴィデオスコープ欲しいな。

いや、馬に使うなら3m以上の長さが必要か・・・・・

いや、私なら開腹手術して十二指腸切開か胆管切開して胆石切除できるかも。

 

 

 

 

 


第一指骨縦骨折と両前球節のDJD

2018-11-28 | 整形外科

8歳の競走馬。

左前の第一指骨の縦骨折でキャストをして競馬場から帰って来た。

この馬、両前球節は丸くない。

ジャガイモのようないびつな形をしている。

どうなっているかというと・・・・

こうなっている。

”チルドレン”の局所投与をしていたらしい。

骨の吸収を司る破骨細胞の活動を抑える薬だ。

こんなになってしまったことと無関係ではないように思う。

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左前第一指骨は近位関節面から縦骨折しているのは間違いない。

跛行も左前。

私がX線透視装置を見ながら左前第一指骨のスクリュー固定をしている間に、右前の関節鏡による関節内cleaning手術をしてもらう。

それぞれが終わって、今度は左前の関節鏡手術。

馬外科医3人がかりだ。

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母が、胆石から胆管炎を起こしたようで救急車で運ばれた。

私は馬の手術終了を見届けず、苫小牧の二次診療病院へ向かった。

 

 

 

 


THO 何頭目?

2018-11-27 | 馬神経病学

神経症状を示している元種馬。

右に頭が傾き、

右耳の角度が低い、でもひどくはなく、動く。

右眼には角膜炎の痕がある。右瞼の麻痺による乾燥性角膜炎だったと思われるが、右瞼も動く。

右の鼻、下唇は弛緩。でも、舌は露出していない。

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種馬場に居たときに転倒したらしい。

その頃、平衡感覚障害が重度だったのだろう。

転んでおかしくなったのではないだろう。平衡感覚障害がひどくなって転んだのだ。

すでに数年越しの経過があるようだ。

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X線撮影で、側頭骨舌骨関節付近が骨増勢しており、骨折らしい亀裂も見える。

喉嚢内視鏡検査で右の茎状舌骨は全体にひどく太くなっていた。

左側は正常。

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こういう症例では角舌骨もひどく変形していて摘出に苦労するだろうと覚悟していた。

底舌骨と角舌骨の関節が大きい。簡単には外せなかった。

角舌骨体は意外にきれいだった。

術創を奥までしっかり開くことができたが、角舌骨と茎状舌骨の関節が硬く大きい。

外側と尾側からは関節面にメスを入れることができたが、動かない。

結局、骨ノミを入れてハンマーで叩いて切るようにして関節を外した。

左側が底舌骨との関節。

右側が底舌骨との関節。

左側の茎状舌骨との関節はほとんど完全に骨癒合していたのがわかる。

THOはたぶん18頭目か19頭目。

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この馬、覚醒時にはやはりひどく右へ傾いていた。

寝ているのを見たことがないそうだ。

寝るとめまいがして辛いのかもしれない。

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裏の林で、ひどい折れ方をしたシラカバを見つけた。

この絵を思い出した。

ダリ、内乱の予感

平衡感覚を失うことを思うもよし、大企業の会長の逮捕を考えるのもよし・・・・・・

 

 

 


X線透視装置を使った第三中手骨外顆骨折スクリュー固定

2018-11-20 | 整形外科

日曜日、

地方競馬から第三中手骨外顆完全骨折で帰って来た競走馬の内固定手術。

完全に割れてしまっていたが、

関節面のずれはなく、

関節面の骨折線にピースがないことを確認できたので、

関節鏡を球節に入れることはなくスクリュー固定することにした。

X線透視装置があるのでスクリュー挿入位置の確認は容易。

X線透視装置は、手術室においてあって、「これなんですか?」とよく訊かれる。

うちではおかげさまで、たいへん重宝して使わせてもらっている。

整形外科のスクリューやプレートの使用量は我がセンターが最も多いとのことだ。

手術中の画像モニターが適切に撮れれば、内固定手術は順調に進む。

専用の充電式ドリルTRSもとても使い勝手が良い。

馬の内固定手術を30年。牛の内固定手術を15年。

やっとここまで来た。

私が初めてサラブレッド子馬の橈骨骨折のプレート固定手術をしたときは、手回しのドリルでやったんだよ;笑

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この競走馬、キャストではなく伸縮性包帯で球節を締め付けて帰されてきた。

皮膚は紫っぽく変色し、内出血した斑が散在していた。

バンデージで強く締め付けて骨折した肢を守ろうとするのは無理がある。

皮膚がひどく損傷したら内固定手術も難しくなる。

危なかった。

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日曜日午後はこじれた跛行。

細菌性種子骨炎と判明した。

月曜午前は2歳競走馬のTieback&cordectomy。

午後は、1年越しの篩骨血腫、食道内視鏡検査。

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とうちゃんはやすみのひはまきわりしてる

こんなわりにくいたまはおらもかじっててつだう


講習会 局所麻酔と静脈麻酔

2018-11-15 | 講習会

今日は地域の獣医師会の講習会。

講義だけではなく、実習をやりたかった。

話だけ聴いても、ふ~んで終わってしまうことが多い。

実際に自分でやってみてはじめて、できるかな、やってみよう、と思える。

話を聴いても、へ~と思うだけ。実際に目で見て、お~そうか、と思える。

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プロポフォールの全身麻酔は、静脈麻酔を一変させた。

しかし、それを目の当たりにしている獣医師は少ない。

まして自分でやってみようとする獣医師はごくごく少ない。

で、デモンストレーションでプロポフォール麻酔の覚醒の良さを見てもらいたかったのだが、

それは諸事情で実現しなかった。

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局所麻酔の実習はそれなりに体験していただけたのではないかと思う。

人数は実習が成立する限界だった。

これ以上多いと部屋に入れないし、見て触ってやってみて、という実習の利点がなくなる。

それにしても若い獣医さんが増えた。女性獣医師も増えた。

お互い馬の診療のプロフェッショナルとして高いレベルでやりとりできるようになるか・・・・

これからの課題だと思っている。

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頼まれる診療、できる診療をこなすことだけしていると、進歩はないのです。

今たべられるものをもらうことだけしていて、進歩しない、こいつのように、です。