馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

膵臓障害のミステリー 2 成書の記載

2015-06-29 | 急性腹症

馬の疝痛と膵臓障害について成書にはどう記載されているか・・・

                         -

Equine Surgery, 4e
Jorg A. Auer Dr Med Vet MS,John A. Stick DVM

Saunders

馬外科医のバイブル、Auer先生のEquine Surgeryには・・・・・・

記載がない。

まあ、消化器だけでなく、運動器も、眼科も、繁殖関係も、呼吸器も、すべて網羅した本なのでページ数も限られるし、

外科手技に重きをおいているので手術の対象にならない疾患は記載されていないのだろう。

                          -

では馬内科学の決定版、Equine Internal Medicine には・・・・

これもほとんど記載がない。

Equine Internal Medicine, 3e
Stephen M. Reed DVM Dip ACVIM,Warwick M. Bayly BVSc MS PhD Dip ACVIM,Debra C. Sellon DVM PhD DACVIM
Saunders

膵臓は消化器官であると同時に、血糖値をコントロールするインシュリンの分泌器官として重要なので、糖尿病との関係で記載されているだけ。

                         -

では馬の疝痛についてのバイブル、White先生のEquine Acute Abdomenには・・・・

Equine Acute Abdomen
Nathaniel A. White,James N. Moore,Tim S. Mair
Teton NewMedia

これは膵臓の項があり急性膵炎と、慢性膵炎およびインシュリン依存真性糖尿病について記載されている。

このような成書は担当の執筆者が過去に発表された学術報告に基いて記述するものなのだが、

急性膵炎についての記載で引用されている文献はひとつだけ。

「急性膵炎は馬の重度の疝痛のまれな原因である。」

原典は・・・・・Current Theraphy in Equine Medicine 2nd ed.

Current Therapy in Equine Medicine 2
N. Edward Robinson
W B Saunders Co

このシリーズ化された馬臨床の教科書は最新刊は7版まで出版されているが、

急性膵炎の記載は第2版にしかない。

書いていたのはJill J.McClure。

どうやらEquine Acute Abdomenの急性膵炎の記載も、ほとんど彼女の記述を踏襲しているらしい。

Jill J.McClureの急性膵炎についての記載はとても貴重なものだ。

                      -

以下、抜粋と要約。

馬の急性膵炎が、ひどい疝痛、胃の膨満、ショックに特徴づけられること。

生前診断が難しく、開腹手術でも膵臓は目視できず、剖検でも見過ごされ易いこと。

馬の急性膵炎の原因は不明だが、小腸閉塞による腸液の逆流も原因になるかもしれないこと。

急性膵炎の特徴は中程度から重度の疝痛、循環性ショック、胃拡張、脱水、心拍数増加、呼吸数増加、CRT延長、粘膜充血、末梢の冷感、発汗。

検査室での検査としては、血清アミラーゼ、血清リパーゼ、腹水アミラーゼ、アミラーゼ・クレアチニン排泄比などがある。

剖検で確認された膵炎の症例は、しばしば700から1000 IU以上のアミラーゼ値を示す。

治療は胃破裂を防ぐための胃の減圧、輸液、など。

急性膵炎の馬の予後はプアだが、これは多くが剖検で見つかることから来ているかもしれない。

適切な臨床病理診断が普及すれば内科治療に反応する疝痛が膵炎によるものであることが確認されるようになるかもしれない。

                        -

さて、さらにこの記載の元になった学術報告を調べてみたい

(つづく)

 

 

 

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膵臓障害のミステリー 

2015-06-27 | 急性腹症

今年初種付けで受胎している若い繁殖雌馬。

夕方から疝痛で運ばれてきて、十二指腸が拡張しているのが超音波検査で確認され、かなり痛いので開腹手術することになった。

小腸閉塞を疑っているので、馬の左側に立って開腹する。

盲腸背側紐から回腸を引っ張り出して吻側orad へと辿っていく。

空腸下部にも内容は流れてきていた。

しかし、空腸上部へ行くほど腸間膜を軸に回転しているようで引張り出しにくい。

できるだけ内容ごと引っ張り出す。

空腸近位部は少し厚くなり、ややオレンジ色がかっていた。

空腸の最上部は回腸と同じように両側に腸間膜がついていて結腸に固定されているので触感で判別できる。

ただし回腸のように目視することはできない。

そこから盲腸底部の右外側を走っている十二指腸を触ると膨満している。

胃も大きくはないが、拡張している。

しかし、空腸の内容を反吻側aborad へ推送すると、また上位から内容が流れてくるので閉塞は解除されたようだ。

                      -

さて空腸上部の腸間膜を軸とした捻転だったのか?

初期で軽度の上位空腸炎なのか?

あるいは別な問題なのか?

考えなければならない。

この季節、青草を嫌ほど食べていることは間違いなく要因だろう。

夕方、収牧してから疝痛が始まったが、入れてから飼い付けはしていない、とのこと。

                      -

来院時の血清でアミラーゼとリパーゼを測定した。

アミラーゼ 761 IU/L

リパーゼ 580 IU/L

馬のアミラーゼとリパーゼの正常値は?

高いから膵障害と断定して良いか?

そして、この馬の予後は?

(つづく)

                   //////////////

今日は昼から雨。

これはきのう。

①洗濯物の張り番をしている

②洗濯物の日陰で休んでいる

③すきがあったら毛とヨダレをつけてやろうとねらっている

さて、どれでしょう?

 

 

 

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日本の乳牛と肉牛はどこにどれだけいる?

2015-06-26 | 牛、ウシ、丑

日本の馬は8万頭ほどしかいない。

その馬たちがどこで生まれて、どこにいるのかはなんとなくわかっているつもり。

では、牛は?

日本に牛がどのくらいいて、都道府県ではどこに多いのか、そして北海道は全国の何割を占めているのか・・・・・?

で、調べてみた。

むかしなら図書館へ行って、資料や本を引っ張り出さなければならなかったが、今はネットで簡単に新しい情報が探せる。

便利な時代になったものだ。

                    -

この政府統計はエクセルの表で示されている。

エクセルのファイルを開くことができる方は見ていただきたい。平成25年2月の調査。

                       -

乳牛は全国に 1,423,000 頭。

北海道には 806,800 頭。

だいたい6割近い乳牛は北海道にいることになる。

北海道に次いで乳牛が多いのは、栃木県 53,500頭、その次が岩手県 45,500頭、その次が熊本県 44,800頭。

面白いことに、その周辺の県も乳牛が多いかというとそんなことはなくて、東北では岩手県以外は岩手県の半分以下。

関東では他の県は4万頭以下。

九州でも熊本以外は2万頭以下。

近畿でも兵庫県だけが17,100頭で、兵庫以外の府県は1万頭に満たない。

酪農はその地域の特定の県だけで盛んなのだ。

これは乳業会社や公立の農場などがあったり、県や農協が酪農に力を入れてきた県でだけ酪農が盛んになったのではないだろうか??

                       -

肉牛は全国に 2,642,000 頭。

北海道には 516,000 頭。

全国の2割にも満たない。これは私にとって意外だった。

それでも府県別では北海道がもっとも多くて、次いで鹿児島県の 342,900 頭、次が宮崎県の 250,100 頭。

鹿児島と宮崎を合わせると北海道より多い。

全国的にはあとは多いのは熊本県の134,000頭、岩手県の97,100頭、栃木県の91,800頭、宮城県、長崎県の約8万頭、と続く。

                     -

さて、いろいろ思うことはある。

乳牛、酪農はまずは北海道だ。それも道東・道北方面だろう。

肉牛は全国に分散していて、北海道が最も多いものの、東北も北関東も、九州も多い。

密度の点では、鹿児島・宮崎は北海道以上かもしれない。

                     -

今、農業共済制度は、農水省の指導で「一府県一組合化」が進められようとしている。

北海道はあまりに地域が広く、あまりに家畜頭数が多いので、とりあえず5ブロックに分かれた組合合併が計画されている。

その先には一府県一組合へのさらなる合併推進があるのだそうだ。

しかし、牛の頭数を見ても、「一府県一組合」というのは合理性がなく理不尽かつ乱暴な話で、地域の面積を見ても、頭数を見ても無理がある。

北海道で一つに成れというくらいなら、九州、四国、中国、近畿、東北、それぞれ一つにまとめなければならない。

それでも北海道より狭くて頭数も少ないのだ。

                      -

日本は相変わらず、廃藩置県のあとのままだ。

 

 

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中手骨骨折の応急処置

2015-06-25 | 整形外科

1歳馬。

放牧して走り回り始めたと思ったら、1頭だけ走れなくなって、そのときにはもう折れていたそうだ。

骨折端が皮膚を突き破っていたが、皮膚の損傷はひどくないし、転倒していないので汚染も少ない。

ハーフリムキャストを巻いて来院したが、異常可動を抑えることはできていなかった。

トラックの中で添え木を肘の下まで当てて腕節も曲がらないようにした。

長い鼻捻子棒がちょうど良かった。

全身麻酔して、キャストをはずしてX線撮影したが、中手骨が粉砕骨折していた。

内固定に使える割れてない部分は両端のわずかな部分しか残っていない。

これでは厳しい・・・・・

せめて3つとか4つのピースに割れた骨折ならなんとかチャレンジしたかもしれないが、これでは無理。

それでも、いつか粉砕骨折や開放骨折を治せる日が来ると思っている。

                    //////////////

たたかうきみうたを~

たたかわないやつらがわらうだろ~

ふぁいと!

      

 

 

 

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第一指骨縦骨折のスクリュー固定

2015-06-23 | 整形外科

屈腱炎で休養していた競走馬が、やっと速い調教ができるようになったら第一指骨を骨折してしまった、とのこと。

右前第一指骨が正中から外よりへと縦に割れている。

かなり痛い。

                     -

キャスト固定でも治るかもしれない。

しかし、スクリュー固定した方が、速く治るし、競走復帰後の競馬成績も良いことが知られている。

                     -

最近は関節面近くに2本スクリューを入れて、背側と掌側の皮質をしっかり圧迫するのが良いと考える馬外科医が多い。

(あまり関節近くにスクリューを入れるのは良くないとする反対意見もあるようだ)

第一指骨に入れたスクリューは基本的に抜かない。

だからしっかりカウンターシンクしてスクリューヘッドを埋め込む。

そのことで繋靭帯背側枝が動くあたりにスクリューを入れても問題は起こらないようだ。

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手術後はキャストを巻いた。

痛みが和らいでキャストでゴツゴツ歩けるようになるまで数日~1週間ほどキャスト装着してもらう予定。

中手骨と第一指骨の背側皮質が直線状になるように巻いた。

ヒールブロックを付けて、蹄尖部は樹脂スーパーファーストで磨耗に対して補強した。

ヒールブロックは、ヒール踵ブロックなので、この辺りに着けるのが正しい。

着け慣れていない人は蹄尖近くに付けすぎることが多い。

すると、馬は立っているのも歩くのも楽にならない。

                        -

good luck !!

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オラはこの角、折りたい!

 

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