馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

ひどい難産

2019-03-31 | 繁殖学・産科学

今年は難産が多い。

それも特別ひどいのが多いように思う。

例年、1-2頭しか帝王切開しない。

それを去年は8頭もやった。

今年は、すでに7頭。

4月の出産が最も多いので、このペースで行くと10頭を超えるかもしれない。

雪が少なく運動量は多かったのだろうと思う。

しかし、暖冬で胎仔が大きいのだろうか?

            -

夜中1時。

難産の依頼。

11時半に分娩が始まり、おかしいので獣医さんを呼んで、12時半からやってみたが、

頭頂部から来ていて、両腕節も屈曲している、とのこと。

ひどいようなので他の当番獣医師も呼び、研修の先生も呼ぶ。

来院して、全身麻酔の用意ができるあいだ、枠場に入れて手を入れてみるが、両腕節のそばに蹄も触る。

後肢も来てしまっている。

            -

帝王切開するつもりがあるか牧場に訊く。

家畜共済非加入の牧場なので、高額診療になる。

帝王切開するつもりはない。との回答。

            -

子宮弛緩剤を投与する。

全身麻酔して後肢を吊り上げ、潤滑剤を入れて、顔にチェーンをかけて引張ってもらいながらおでこを押す。1:50

それで鼻っ面が出てきた。

片方の腕節は他の獣医師がつかんで伸ばした。

もう片方は、中手骨にチェーンをかけて引張ってもらいながら、腕節を押して、それで届くようになった蹄から別なチェーンをかけて引張ってもらい伸ばした。

後肢をできるだけ押し込んでおいて、あとは引張る。

子馬の腰まで出てきたが、あとは男手4人で引張っても出ない。

子馬の胸椎の最後の方で切胎した。2:50

しかし、片方の後肢しか触れない。

もう片方は産道の外に何かの壁越しに触る。

子宮が破れて外へ出ているのかもしれない。

あきらめることにした。

             -

解剖場で開けてみる。

子馬の左後肢は画面の上、産道へ出ている。

子宮は、母馬の後から見て反時計回りに180°捻れている。

子馬の右後肢はその捻れた子宮を突き破らんばかりに押して、突き出している。

・・・・もし、出せるとしたら、胎仔を捻って、子宮を時計周りに反転させ、右後肢をなんとか引っ張り出して、両後肢を牽引して娩出させるしかない。

最初に推察したように、帝王切開の適応だったひどい難産だったと思う。

               //////////

先日、遠方からお客様がみえたので、うちの家族と馬に乗りに行った。

海が見えるトレッキングコース。

楽しんでもらえたようで良かった。          

 


開腹手術Day 3rd case and 4th case

2019-03-29 | 繁殖学・産科学

新生子馬は不思議なことに1ヶ月齢近くなるまで腸捻転はほとんどない。

しかし、この子馬は25日齢。

そろそろ腸捻転を起こしても不思議ではない。

で、開腹したら回腸での纏絡だった。

ぐるっと巻きついているのだが、幸い壊死していなかった。

空腸から捻転部位までパンパンに膨らんでいたが、内容を盲腸へ推送した。

SCMCを使った。

そでぃうむかるぼきしめちるせるろーす。

ぬるぬるで、癒着防止になる、かも。

              -

もう一頭、分娩翌日の繁殖雌馬が子宮穿孔が確認された、とのこと。

もう来院したらそのまま開腹手術する。

地元での診断どおり右子宮角の穿孔。

本日、4頭目の開腹手術。

子宮穿孔創を縫って閉じて、腹腔内の汚れた腹水を吸引して、生理食塩液を入れて抜いて、を繰り返して洗浄した。

終わって夜8時。

                 -

当番の獣医師は、その後、急変したNMSの子馬の死亡に立ち会わなければならなかった。

窒息死だった。

哺乳瓶でミルクをやるのはよほど気をつけなければならない。

強い吸引があるとき以外は哺乳瓶でミルクをやってはいけない。

子馬の口にミルクを流し込んではいけない。

子馬はむせることも、咳き込むこともなく、肺へ誤嚥する。

                 -

3回に分けて書いてきたが1日のことだ。

記録的な、1日4頭の開腹手術の記事、これにて終了としたい。

             ///////////////////

とうちゃんはこのごろかまってくれない

じぶんでもうふひっぱてきて

とおくながめてる

 

 

 


開腹手術Day 2nd case とその合間のNMS治療

2019-03-27 | 新生児学・小児科

昼、分娩後の繁殖雌馬の疝痛の依頼。

来院しても痛い。

血液も悪い。

結腸捻転だろう、で開腹して問題ない。

予想通り結腸捻転。

けっこうひどかった。

                 -

私は、今週検査当番。

血液検査件数も多い。

子馬のベビーチェックに、分娩後の繁殖の不調に、すでに生まれている子馬の検査、etc.

                                -

NMSの子馬の片方は回復して、自力で起立できるようになり、親からも哺乳できるようになった。

IgGが低いようなので、血漿輸血することになった。

寝て、立って、オシッコ垂れて、乳飲んで、寝る。

が、新生子馬の生活。

それができるようになれば退院できる。

それができるようにならないと子馬は成長できないし、どんどん衰弱する。

                         -

すでに夕刻。

しかし、来院した24日齢の子馬がやっぱり痛い。

to be continued

                         /////////////

 

夜間放牧を終え、朝に一旦厩舎へ入る1歳馬たち。


開腹手術Day 1st case

2019-03-27 | 急性腹症

朝、放牧地でショック状態になった馬が来ると言う。

分娩後5日の繁殖雌馬。

状態はひどく悪い。

腹腔穿刺して腹膜炎を確認した。

細菌は形や大きさが異なる複数の種類が見えた。

しかし、この馬、膣にかなりの大きさの血腫があった。

それが化膿して腹腔へ開いたのかもしれない。

膣から血腫を切開して搔き出した。

ひどい腹膜炎であることは間違いないので、開腹手術することにした。

そして・・・・

腹腔内は消化管内容だらけ、安楽殺することになった。

盲腸便秘からの盲腸破裂だった。

               -

その間、生まれて3日目の子馬が腹囲膨満して来院。

あまり乳も飲めない。包皮がひどく腫れている。

X線撮影、超音波検査で消化管の気張と腹水増量。

浣腸したが胎便は出てこない。

腹腔穿刺したが、腹水も採れない。

              -

入院厩舎にはNMS 新生仔不適応症候群の子馬が二組入院している。

その他に母馬がPOIの親子も。

忙しい1日の幕開けだった。

to be continued

                       ////////////

冬に逆もどりしたように寒い。

朝は-8℃だった。

 

 

 


糞塊による小結腸閉塞

2019-03-22 | 新生児学・小児科

休み明けで戻ってきたら、馬運車が3台とまっていた。

入院畜が複数いるみたいだ。

          ー

子宮穿孔を立位で縫合した繁殖雌馬。

結局、便の出が良くなく、腹膜炎になり、開腹手術したら小結腸の腸間膜が大きく破れていたそうだ。

小結腸は壊死していなかった。

          ー

NMS新生子不適応症候群の子馬。哺乳瓶で飲めるが、立てない。

          ー

前日から疝痛の3週齢の子馬。絶食中。

          ー

午前中に予定していた腕節の骨折の競走馬が来院した。

術前のXray画像は届いていない。

X線撮影しなおしたらchip fracture ではなくslab fracture 盤状骨折だ。

休養期間や予後が異なるので、あらためて馬主に連絡しなければならない。

結局、手術は延期。

急患ではないのだから、術前のX線画像を得て手術予定を組まないとこういうことになる。

予定もつまっているのに、予定をあけることになる。

          ー

当歳馬の胃内視鏡検査をしたが、胃潰瘍はなし。

それなら疝痛は腸閉塞だ。

おそらく小結腸。

と検討をつけて、空いた時間で開腹手術することにした。

小結腸に親の糞と思われるものが詰まっていた。

腸管は傷んでいなかったので、もみほぐして推送する。

              ー

続いて予定の上腕二頭筋滑液嚢炎の洗浄。

午後は喉頭片麻痺。

それから1歳馬の尺骨骨折のプレート固定。

こんだけやって、まあ5時には終わった。