馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

1歳馬の下顎骨折

2020-05-31 | 整形外科

1歳馬が下顎を骨折していて、食べられない、とのこと。

哺乳中の子馬と違って、固形物しか食べない馬では下顎の片側の骨折でも噛めなくて、痩せ衰えてしまう。

手術しましょう・・・ということで、

この左側の歯槽間隙の骨折だと思っていた。

しかし、仰向けにしてみると下顎の形が左右で大きく違っている。

右側の咬筋部はかなり腫れている。

なんと、右の下顎体が大きく割れている。

そして、「く」字型に変位しているのだろう。

下顎骨縁に骨鉗子をかけて、力いっぱい引張ってもらいながら、骨折部を押す。

バキバキッと嫌な音と感触があった。

変位はかなり整復されたらしい。

X線画像の骨折線も細くなった。

尾側から薄い板のような骨である下顎骨をLCPで固定することにした。

頭側にLHSを入れて、腹側のcortical screwコンプレッションをかけて入れて、あと2本LHSを入れた。

耳が写っていることでわかるように、この辺りは”こめかみ”で神経や血管や耳下腺があり、外科侵襲を加えたくない部分だ。

これで骨癒合を待つことにしたい。

切歯骨も固定する。

私は外側からbi-cortical になるようにプレートを当てるのを好むが、歯肉の下で浮いている部分を留めたいので、腹側にLCPを当てることにした。

が、結果的には難しかった。

術後は、ペレットをふやかしたものを与えてもらうことにした。

腹が減れば、じゅるじゅると噛まずに食べられるだろう。

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このツツジも研修宿泊棟の裏。

誰にも見られなかったのが、少し見えるようになり、陽も当たるようになった。

そして、宿泊棟の食堂からも見える。

 

 

 


臍ヘルニアへのゴムリングで

2020-05-30 | 新生児学・小児科

子馬の何%がデベソ(臍ヘルニア)なのかデータはない。

どうやら5%前後は居るようだ。

この地域で5000頭の子馬が生まれるので、5%として250頭。

放置されることもあるが、200頭くらいは処置されていて、

NOSAI20名、HBA10名、開業10名、牧場勤務獣医師数名、が4-5頭ずつくらい処置している、というところではないだろうか。

(NOSAIは40名以上獣医師が居るが馬に対応している労力としては半数ほどだろう)

放置されても自然治癒する臍ヘルニアもかなりあるように思う。

臍ヘルニアが大きすぎる、遅くなって馬が大きすぎる、ゴムリングをかけたら痛がったので外した、などの理由で全身麻酔しての手術をすることもある。

2018年に家畜高度医療センターでは13頭の臍ヘルニアを手術した

           ー

処置のほとんどはゴムリングをかけて臍の皮膚が脱落するのを待ち、

皮膚が壊死して脱落する頃には、腹壁のヘルニア輪が閉じる、という方法を用いている。

           ー

臍の皮膚が脱落したら、腸内容が漏れてくる、ということで手術を依頼された。

ゴムリングをかけるときに腸管が挟まったのだろうと見当はついた。

しかし、どうして腸閉塞を起こさなかった?

たぶん大腸壁(盲腸か大結腸)の一部を挟んだので内容の通過は妨げなかったのだろう。

と推測した。

ただ、臍に腸管が癒着していて、それを剥がすと腸の孔から腸内容が漏れてしまう。

危険な手術になるだろう。

          ー

透明な液体も漏れてくることがあるので、オシッコじゃないか、と言われたが、そんなはずはない。

もう膀胱は臍から離れている月齢だ。

臍の頭よりから開腹して臍を内側から触る。

小腸だ。

腹腔内で腸鉗子をかけておいて、臍の周りをぐるりと腹壁から切離した。

臍を切り取って・・・・・・

空腸が細くならないように、長軸方向に孔が開いたのを、短軸方向に縫合閉鎖した。

            ー

臍ヘルニアの他の処置としてはヘルニアベルトをする方法もあるが、サラブレッドでどれくらいうまくいくのかわからないし、

ヘルニアベルトが事故の原因になる可能性もあるかもしれない。

気をつけてゴムリングをかけてもらうしかない。

ゴムリングをかけて疝痛症状があったら・・・・すぐ取るしかないだろう。

遅れて外して、腸壁が壊死していたら、腸内容が漏れたり癒着したり、致命傷になりかねない。

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研修宿泊棟は内装工事が進みつつある。

裏では西洋ナシの花が咲いている。

 

 

 


忙中閑なし

2020-05-28 | 日常

朝、3歳馬のTieback&cordectomy 

580kgの大型雄馬で、うるさくてOGEできなかったそうだ。

その馬が、寝ているうちに別室(X線撮影室)で2歳馬の腰痿のX線撮影。突然、ヨタヨタになった。

午後、1歳馬の飛節OCDの関節鏡手術を始めておいて、別な部屋(覚醒室)でF1子牛の尿膜管破裂?を開腹。

しかし、尿膜管破裂ではなく、尿道破裂だった。

5日齢で会陰尿道切開しても肥育牛にはなれないだろう。あきらめる。

それから2頭続けて2歳馬の去勢

1頭は覚醒室で。それが寝ている間に、もう1頭は倒馬室で。

夕方から1歳馬の下顎骨折。覚醒室で倒馬して麻酔導入。

切歯骨骨折ということだったが、反対側の下顎骨体がバッキリ横骨折していた。

それぞれLCPで固定したが・・・・食べられるようになるか・・・・

夜になって繁殖雌馬の結腸捻転

8頭目の患者さん。

馬は7頭目。

全身麻酔も7頭目。

手術が終わって夜9時半。

さらに繁殖雌馬の疝痛の依頼。

麻酔から立ち上がって10時半。

来院した繁殖雌馬はなんとなく疝痛は落ち着いていた。

薄緑のあわ立ったような泥状便の排泄もあった。

直腸検査でも超音波検査でも怪しいところがあるが、馬を外へ出してみると食欲もある。

帰って様子を観てもらうことにした。

「まだ安心できないからね!」

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 野や林は野鳥でにぎわっている。

餌台にはほとんどスズメしか来なくなった。ときにカラス;笑

 

 

 

 

 


優先すべきたいせつなこと

2020-05-27 | 急性腹症

早朝、入院厩舎から輸液が入っていかない、との電話。

寝てしまって輸液管がからまってしまった、とのこと。

「寝たって、腹痛いみたい?」

「いや、ボクが寝ちゃってその間に馬が歩き回って・・・・」

行ってみたら、輸液管は捻れてグルグル巻き。

その捻れた回数だけ馬房の中を歩き回ったのだ。

入院馬が元気すぎるのも困ったものだ。

            ー

その後、馬を診ていないのに連絡をたのまれた獣医さんから電話。

何だかわからない話なので、牧場から直接電話してもらうように伝える。

牧場と話して連れてきてもらうことになった。

それから担当の獣医さんから電話があった。

前日の午前中からの疝痛。夕方にもなっても痛く、便秘だろうということで下剤を投与した。

夜中、さらに痛くなったとのこと。

来院したら状態はひどい。

関節鏡手術の術後期間の馬で、便秘の可能性もあるかと思ったが、PCV57%。全身擦過傷。

便秘ではこうはならない。

開腹したら結腸捻転だった。

チアノーゼはひどくないが、結腸の膨満がひどく結腸を術創から出すのに手こずる。

骨盤曲を切開して内容を捨てる。

骨盤曲切開部の粘膜の状態はひどくはない。

しかし・・・・

盲腸結腸ヒダより基部でも結腸壁の損傷が進んでいる。筋層までダメージがある。

結腸亜全摘をしてでも、と思ってそこまで手術を進めたのだが、これでは亜全摘しても助からない。

あきらめることにした。 

              ー

朝、予定の1歳馬の耳瘻管摘出。

当歳馬の内股の膿瘍切開。

2歳馬のDDSPの軟口蓋laser焼烙。

午後、2歳馬の橈骨骨軟骨腫の腱鞘鏡手術。

              ー

前夜分娩し、今朝から不調の繁殖雌馬。

朝の血液検査でWBC3000。

来院したら、WBC1700,PCV67。心拍は100超。

こうなってはもう手術には耐えられないし、おそらく消化管破裂だろう。

剖検したら、子宮角先端の穿孔だった。

どうして急激に状態が悪化したのかわからない。

              ー

尿道延長術を行った繁殖雌馬の再検。

当歳のときに鼻梁陥没骨折を持ち上げる手術をした1歳馬の再検。

やれやれ。

朝の結腸捻転はきのう来るべきだった。

午後の子宮穿孔は朝に来るべきだった。

そして、手遅れになったらもう来るべきじゃない。

遅れずに的確に診断・判断すること

難しいが、それが一番大切な優先すべきことだ。

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オラの散歩に満開の花は優先事項ではありません

 

 

 

 

 


5月末の日曜日

2020-05-25 | 急性腹症

朝、前夜から入院していた繁殖雌馬の開腹。

脾臓が腫れていて、

大結腸を空にしたら胃が右側へ変位している。

それが疝痛の原因ではないだろうが・・・・なんだかわからない症例だった。

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続いて、繁殖雌馬の結腸捻転。

チアノーゼはひどくないのだが、ひどくむくんでいた。

術前のPCVは54%だったのだが・・・・大丈夫だろう。

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午後、慢性化した飛節の細菌性関節炎の関節鏡手術。

大量のフィブリン塊をひっぱり出した。

これではneedle to needle の関節洗浄は意味ないだろう。

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夕方、この日三頭目の開腹手術。

お約束のように結腸捻転だった。

結腸のチアノーゼも膨満もひどくないが、結腸動脈周囲の出血はひどかった。

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オークスは観る暇もなし。

デアリングタクト! おめでとう!!

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ときにとぼとぼあるくようになってきた相棒

とうちゃんも腰も首も痛いけど

追い越していくなよ