馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

腹腔内出血・腹膜炎 What ?

2020-01-28 | 急性腹症

M先生が那須の研修から帰ってきた。

声は枯れ、お疲れのようだ。

2日間30人以上を相手に声を張ってしゃべれば声も枯れるしヘトヘトにもなる。

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週明け月曜日は午前中1歳馬の飛節OCDの関節鏡手術。

午後も飛節関節鏡の予定が入っていたが、その前の体調不良の繁殖雌馬が開腹手術になった。

10日前に疝痛、その後元気食欲不振、血液検査でSAAが著増しているが発熱はない。

3/18分娩予定(女性を診たら妊娠を疑え、はお医者さんの鉄則。繁殖雌馬では分娩予定と妊娠をチェックしろ、は馬産地の獣医師の鉄則)。

軽度の疝痛?があり、ほとんど食べない。

超音波検査すると腹水があり、超音波画像の質感でどうやら血液らしい。

全身状態は良くない。

すでに痩せ始めていて、口粘膜は不潔感、CRT延長、脱水PCV50%、乳酸値1.3mmol/l。

腹腔穿刺したら腹水白血球16万/μl。PCV11%。

RBC,PMN多数。マクロファージ。

freeの細菌はないが、凝集や貪食像はあるかもしれない。

(獣医科学生さんたちPMNって何か知ってるかい?)

こういうのは開腹すると思っていたよりひどいことになっている。

汚い腹水を吸引とサイフォン式で廃液する。

腹膜炎の原因を探るが、腸にも脾臓や肝臓にも子宮にも原因と断定できるものは見つからなかった。

大きな凝血塊やフィブリンがないのが特徴かもしれない。

大網は厚くて汚く、破れていた。

生理食塩液(生理食塩”水”じゃなくて”液”と呼ぶようにしましょう、ということらしい)を5リットルずつ入れて、廃液し、腹腔を洗浄した。

What's is Your diagnosis ?              

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さて私も那須へ行く。

のど飴もって;笑

宵空に三日月と金星?

 

 

 

 

 


1月の未熟仔

2020-01-26 | 新生児学・小児科

その子馬は、初産で1月半ばに生まれた。

予定日より6日早かった。

体重は40kgない。

立ち上がれず、親の乳を搾って哺乳ビンで与えていたが、それも吸えなくなって2日齢でNICU(新生仔集中管理ユニット治療)のために母仔で連れてこられた。

低体温で脱水あり、低酸素。

持続点滴を始め、尿道カテーテルを入れ、鼻からも胃チューブを入れた。

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来院翌日、私はまず話を聴いたのだが「厳しいな」と思った。

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ブドウ糖、アミノ酸が入った輸液剤を使うようになり、頭を上げられるようになり、翌々日には自力で伏臥できるようになった。

体温も37℃台にはなった。

哺乳ビンから1回50-100mlまた飲めるようになった。

持続点滴は、72時間毎にすべてを取り替えなければならない。

それで、一旦静脈留置カテーテルも外して、哺乳だけで維持できるかやってみた。

しかし、2日ほどでまた脱水が進んだ。

哺乳ビンから飲む量も増えなかった。

初産の母馬は乳が出なくなり、子馬は母乳を嫌いミルクしか飲まなくなった。

母馬はイラつきがひどくなり、邪魔になるだけなので連れ帰ってもらった。

子馬の皮膚テントは延長し、眼は落ちくぼみ、眼瞼内反になり、筋肉は痩せ衰えて、口の粘膜はベージュ色あるいはコーヒー牛乳色。

生まれて1週間目は、朝と夕方に補液した。

後肢の球節あたりから先は浮腫が強くなった。

生まれて8日目、さらにNICU管理と治療を続けるなら、また持続点滴し、血漿輸血もしなければならない。

FPT;Failure of Passive Transfer  受動免疫不全なのだ。

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X線撮影して、手根骨、足根骨の骨化が充分でないことも確かめていた。

肺もX線撮影してクリアではなかった。

            ー

あきらめた。

肺は良い状態ではなかった。

心臓は卵円孔・動脈管が開存していたが、それは正常。

前葉や下垂部には硬化部があり、小さい膿瘍もあった。

肺が未熟であったことと、哺乳で誤嚥したのだろう。

BUNも100を超えていた。腎臓は虚血。

消化管も充分動いていたとは思えなかった。気脹している部分があった。

腹腔臓器は黄色みがあった。肝機能も充分ではなかったのかもしれない。

生まれる準備が充分にはできておらず、未熟児としてのNICU管理も充分にはできず、MOF(多臓器不全)に陥った、というところだろう。

今年、最初に観た子馬だった。

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ごろごろと

あちこちで

雪が冷たくて気持ちいいのも元気ならでは。

 

 

          


明け1歳馬の骨盤骨折 少雪・暖冬の被害?

2020-01-25 | その他外科

1歳馬の後肢跛行。

1月3日に右後のひどい跛行。39℃の発熱。

地元の獣医さんは、抗生物質と鎮痛剤で治療。

血液検査で炎症像があって、しかし、徐々に肢を着けるようになり、体温も初日以降は解熱。

股関節炎か?ということで跛行診断に連れて来られた。

右の臀筋が萎縮し始めている。

ポータブルX線撮影装置で、立位で股関節を撮影してみた。

ひどい折れ方はしていないように見える。見えた。

ポータブルX線撮影装置では、腸骨・坐骨・股関節臼の外側縁は描出できる。

しかし、閉鎖孔が見えるような画像にはならない。

超音波画像診断装置で股関節周囲を観たら・・・・ギャップらしきものが見えた。

しかし、明瞭ではないし、確定診断はできない。

体重を右にかけるとき、ボクン、と音がした。

全身麻酔して骨盤を大型X線撮影装置で撮ることにした。

あ~折れている。

恥骨が割れている。

閉鎖孔が見えるように、左に傾けて撮っても同じ。

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診断はついた。

粉砕しているわけではないので、まだ希望はあるように思う。が、骨折線はかなり開いている。

雨が降ってできた氷の上で滑って転んだのだろう、とのこと。

暖かく、雪がほとんどないこの冬の被害かもしれない。

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薪ストーヴの魅力は火を眺めていられることかもしれない。

登山でもキャンプでも、焚き火をしていると火を眺めていて飽きない。

北欧にはずっと薪が燃える様子だけを放送しているテレビ局があるそうだ。

テレビに映してインテリア代わりに使うのだろう。

 

 


腕節掌側の飛散骨片の摘出

2020-01-22 | 関節鏡手術

腕節のchip fractureの関節鏡手術。

2018年度は78頭やった。

しかし、この馬は掌側外側にも骨軟骨片が飛び散っている。

scopeを入れることさえ難しい小さい腔なのだが、取り除いた方が良い。

先に掌側を手術した方が良い。

普通に背側を膨らませれば、掌側も膨らむ。その状態でscopeを入れる。

掌側が終わったら、背側を手術する。

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きのうは、

新生仔虚弱でNICU入院している子馬。状態は改善気味。

朝、腰萎で廃用になった2歳馬の安楽殺。

午前中、3歳競走馬の腕節chip fractureの関節鏡手術。

対側肢にも骨折を見つけて左右とも手術。

続いて、顔をぶつけた1歳馬。X線撮影して、手術はしないことにした。

午後は、血液検査をしてから、2歳馬のフレグモーネからの飛端腫の自潰。

夕方、突然苦悶して死んだ繁殖雌馬の剖検。急性心臓死のようだった。

夜、疝痛の繁殖雌馬が来る・・・・が私は引き上げた。

            ー

新規開業される調教師さんが挨拶に来てくれた。

bon voyage !

 

 

 

 

 


緊急!永続的気管開窓術

2020-01-21 | 呼吸器外科

この正月から呼吸がおかしい繁殖雌馬。

来院したら、チアノーゼ、喘鳴音がひどい。

これは喉頭の問題で呼吸困難になっているのだろう、と予想する。

うかつに鎮静剤投与しないほうが良い。

これ以上酸素を吸えなくなったら突然倒れてしまうかもしれない。

そうなったときのことも考えておかなければならない。

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喉頭内視鏡検査をしたら、披裂軟骨炎による喉頭閉鎖ではなく、左側の喉頭片麻痺による喉頭虚脱だった。

左側だけが完全に麻痺しても呼吸困難にはふつうならないのだけど。

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立位で永続的気管開窓術することにした。

私は自分ではやりません;笑

中腰で上向きで首や腰が辛い手術になるから・・・・このあと関節鏡手術する馬を待たせてるし。

ほらね。

教科書に書かれていない私なりのこの手術の工夫も伝えてある。

うん、よいできだ。

気管を切開したあとは喘鳴音もやみ、馬はとても楽になった。

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ゆきふった

でもすくない