馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

馬臨床技術向上研修2020 1日目

2020-09-30 | 講習会

おととしからやっている馬臨床技術向上研修。

北海道の5地域のNOSAIから一人ずつ、そして引率の高度医療センターOBがいらっしゃった。

朝、脛骨骨折をdouble LCP固定した当歳馬の傷が開いて再縫合するのを見学。

そのあと、サラブレッド生産地の馬の診療の概要を講義。

午前中は競走馬の腕節骨折の関節鏡手術の見学。

そのあと、馬の麻酔の講義。

その最中、当歳馬の疝痛の依頼。

小腸閉塞で、開腹手術。

ひとりの獣医さんには助手をしていただいた。

続いてカケスの矯正手術の後の当歳馬の診察。

そのあと、牛の麻酔の講義。

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それなりに密度の濃い1日になったのではないだろうか。

みなさん牛の診療に追われる毎日の中で馬の診療の研修に来られている。

馬臨床の知識や技術を観ていかれるのも良いが、牛の診療に役立つ何かを見つける機会にもなればと思う。

私たちも他の地域の様子を聞いて刺激を受けたい。

 


繰り返す”肩”跛行 蹄膿瘍

2020-09-28 | 蹄病学

1歳馬が、前肢の跛行をして、休ませると良くなるが、放牧を再開するとまた痛くなることを繰り返す、とのこと。

来院して球節、蹄、腕節、肘関節をX線撮影した。

異常がない(?)ので、全身麻酔して肩関節は大型X線撮影した。

わずかに関節面の曲線が崩れているように見えた。

しかし、そんな極々軽度の異常ではっきりした跛行を繰り返すか??

よくよく見ると、蹄の中に感染像がある。

蹄尖部には裂蹄があり、汚れが入っている。

そこから感染したのだろう、ごく小さい感染巣なのだが・・・・・

今度また痛くなったら、蹄と肩をブロックしてみましょう、ということにした。

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で、また跛行は再発した。

しかし、こちらの診療予定が詰まっていて、すぐには予定を入れられなかった。

来院したら跛行は間欠的でごく軽度。

Dyson Grade で1/8。

これでは神経ブロックしても効いた確信が持てない。

蹄を触ってみると・・・・明らかに患肢の蹄が熱感があった。

これは蹄だわ。

こちらで鎮静剤投与して、X線撮影しながら病巣まで掘るか、とも考えたが、あとあとの管理のこともある。

牧場で装蹄師さんに頼むことにした。

X線画像をプリントアウトして見せるように渡しておいた。

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私は図書館から借りて単行本を読んだ。

森絵都さんの短編小説。

表題の短編はどうかなと思う。

とくにひねりがあるわけではなく、表題も意味がわかりにくく、日本語としての魅力がない。

痛快だったのは、”危機一髪”かな。

しかし、この作者の小説は、よく書けている、うまいな~、と思わされるのだが、あとで思い出せないのはなぜだろう・・・・

 


高齢馬の外陰部の腫瘍

2020-09-27 | その他外科

28歳の元繁殖雌馬。

今は、功労馬として養われている。

右眼はもう見えていない。

痩せているが年齢を考えるとしかたがない。

毛は長くカールしているが、年齢を考えるとしかたがない。

陰部に腫瘤ができてだんだん大きくなった。

それを取りに来た。

鎮静剤投与して(聴診してから慎重に!)

尾椎硬膜外麻酔して(経年で尾椎が変形しているかもしれない!)

局所にも浸潤麻酔して

止血しながら切除した。

陰核そのものだったのかもしれない。

equine sarcoid 馬類肉腫化していないか、検査に出しておこう。

ばあちゃんに、しあわせな余生を送ってもらいたい。

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森絵都さんのショートショート。

相変わらず小説の手法としてうまいな~と感心する。

生活の中のゆずれないことへのこだわりが引き起こすささくれ。

タイトルはどうかと思う。

相談、するのではなく主人公たちは反応し行動を起こす。

それはたいてい幸せや満足ではなく、不幸や軋轢や悲劇につながる。

男より女性のほうがゆずれない一線があったり、こだわるのかも。と言ったら偏見かな?

日高山脈最高峰・日高幌尻岳と、その右のイドンナップ岳(手前にあるので高く見えている)。

森絵都さんも、登山好きで動物好きらしい。

 

 


刺し傷とはどこまでの大きさを呼ぶのか?

2020-09-24 | その他外科

何度もひどい外傷を診てきたが、これもその1つ。

夜間放牧明けの1歳馬。

さほどひどく見えない?

盛り上がっている部分は折れた肋骨のようだ、とのこと。

しかし、触ってみるとどうも肋骨の断端のように思えない。

ポータブルX線撮影装置で横方向で撮影してみる。

肋骨が変形しているところはないように見える。

盛り上がっているところを切開した。

肋骨だとしてもこれだけ変位しているなら整復しなければいけないし・・・・・

盛り上がっていたのは肋骨ではなく木の折れた端だった。

指でひっぱっても動かない。

何でつかむか・・・

除鉄用の剪鉗でつかんで引き抜いた。

ヒューヒュー鳴って空気が出入り始めた。

塞いでおかないと胸腔の陰圧がなくなったら呼吸できなくなる。

ガーゼで塞いでおいて、周りを洗浄する。

木のかけらがいくつも出てきた。

超音波検査では、腹腔には出血はなさそうだった。

しかし、胸腔は左も右も血液と血餅が溜まり、肺の腹側辺縁は無気肺化して潰れている。

傷から指を入れると、丸くて押すと圧痕がつくものに触る・・・・たぶん胃だ。

横隔膜を破っているようには触らない。

開腹手術してもこのあたりの横隔膜だと修復するのは難しい。

立位で傷を縫ってしまうことにした。

空気が出入りしないように縫合した。

切開した胸部の筋層も縫合し、皮膚も縫う。

それから胸腔にトロッカーカテーテル18Frを入れた。

吸引器で吸引し、200mlほど血液が抜けた。

腹腔にも胸腔にも抗生剤を入れておいた。

「刺し傷」なんだけど、牧柵が胸腔や腹腔に刺さっているのも刺創と呼ぶのか?

「外傷治療」の点数では治療費は安すぎる。

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翌日は40℃、翌々日は39℃、で胸腔ドレインから血液流出があったがドレインは詰まり気味。

ということで再来院してもらった。

胸腔の血液は減っており、その朝は38.9℃。

再穿刺や、ドレイン再留置は必要ないと判断した。

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ガーデニングの本でもなり、田舎暮らしの本でもある。

そして、ドラマのような人生の本でもある。

イギリス貴族に生まれて、その社会になじめず、所持金なしで日本に流れ着いて、英会話教室を運営しながら3度目?の結婚をした。

男は、登山家で、カレー料理店を経営しながら、写真家になり、2度目の結婚をした。

2人の子供も生まれて、その間に古民家に住み、ハーブガーデンを創り、ガーデニングで評価されるようになったが、しかし、すでに人生は秋で・・・

珠玉の写真と、切れのある本音の正直な文章。

よい本だ。

 

 

 

 


今日は暇かと期待したけど・・・  ひどい外傷と結腸捻転2頭

2020-09-18 | 急性腹症

午後に去勢の予定しか入っていなかった木曜日。

完成させて提出しなければならないカルテもあるし、片付けもしたいし、書きかけの文章も進めたい。

が・・・・

朝、夜間放牧明けの1歳が、肋部を外傷し、肋骨も折れているのに触る、との依頼。

結局、2時間近くかかってしまった。

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午後、繁殖雌馬の疝痛の依頼。

ひどい。

結腸を引っ張り出し、内容を抜き終わったところ。

骨盤曲切開部の粘膜は完全壊死。

このままでは助からない。

結腸亜全摘してでも「やってみる?」 もう一度牧場に確認する。

やってみることにした。

結腸の吻合と閉腹を途中まで手伝って、私は待っていたもう1頭の疝痛馬の診察。

先に持ってこられた血液はPCV42%、乳酸値1.4mmol/lだったので、ひょっとすると風気疝かと思っていたのだが・・・

まだ痛い。

疝痛を発見してから4時間以上経っている。すでにフルニキシンを2回投与している。

超音波で肥厚した結腸壁が見えた。浮腫を起こした結腸動脈も見えた。

直腸検査では肥厚した結腸は触らない。頭側へ変位してしまっているのだろう。

先の馬を覚醒室へ運び出して、すぐ手術を始めた。

今度の馬は大結腸は薄紫色程度。

骨盤曲切開部の粘膜もほとんど正常。

結腸動脈周囲の浮腫はかなりある。

これなら大丈夫だろう。

colopexyする。

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夕方、散歩に出たら相棒がどんどん歩いて海へ向かう。

良いものおちてなかったね。

夕暮れの海辺もいいもんだ。