馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

新生子馬の上腕骨骨折

2023-02-28 | 整形外科

15日齢の子馬が上腕骨を折ったようだ、との連絡。

血統が良い雌の子馬なので、繁殖雌馬にするのでも良い、とのこと。

そう連絡をもらったら手術器具からスクリューから滅菌して待たなければならない。

電動ドリルTRSとプレート各種は滅菌しておいてある。

来院して馬運車のそばでX線撮影した。

外で日差しの中でモニターを見たのできれいな斜骨折に見えた。

「手術がうまく行けば繁殖雌馬にはなれるだろうし、競走馬になるのもあきらめたものではない」

と言ったのだけど、社長の判断はあきらめる、とのこと。

              ー

解剖場で手術に準じてプレート固定のシュミレーションをしてみた。

しかし、fragments があって、厳しそうだった。

骨を取り出してみた。

メインの骨折線はよくある折れ方。

近位の頭側が長い斜骨折。

ただ、その伸びた部分が2つのfragmentsに割れてしまっていた。

ただでさえプレート固定が難しい上腕骨だ。

このfragmentsを3.5mm screw で留めておいて、単純な斜骨折にしておいてLCPで支柱性を持たせて・・・・

というのは難しいだろう。

完全な整復ができていないと支柱性が再建できないし、

double LCP (おそらく頭側にブロードLCP、外側に短いナローLCP) するために筋間をあちこち大きく分ければ術後の神経麻痺様の症状が強くなり、起立と横臥を繰り返さなければならない新生子馬の生活に問題が起こる。

それが、また内固定の崩壊につながる。

あきらめるのが正解だっただろう。

              ー

馬房内での事故のようだった。

特別うるさい母馬ではないようだったが、それがサラブレッドなのだ。

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先日、某スキー場へ出かけた。

どういうわけか、ずっとヘリが二機、スキー場の上を舞っていた。

救助訓練なのだろうと思ったら、バックカントリーへ出たスノーボーダーが行方不明になっているとニュースで知った。

別なスキー場では、逆エッジで頭を打ったスノボの女子学生が亡くなった。

スキー・スノボの人口はずいぶん減っているらしいのだけど。

大きなスキー場では外国人スキーヤー・スノーボーダー・雪遊び観光客が多い。

そして、バックカントリーに出た外国人の遭難騒ぎも増えている。

遊びせんとや生まれけむ、戯れせんとや生まれけむ。

 

 

     

 

 


尺骨骨折はLCPかDCPか?

2023-02-26 | 整形外科

 

馬の骨折症例に向き合うとき、あらためてこの本はいい本だ。

AOのHPでの情報入手も好いが、この本にはより詳しい記述もある。

そして、難しい症例になれば、How toはいくつかあり、意見も選択肢も複数持つべきだ。

(牛の内固定をやりたい獣医さんたちも、この本を手に入れて勉強すると良いと思う。

すべての章が牛にも役立つわけではないが、応用問題を解いておくことが牛での実践に役立つと思う。)

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このEquine Fracture Repair の尺骨骨折の章は、この本の監修者であるAlan Nixon先生が直々に書いておられる。

私は2015年の香港AO advanced course でお世話になった。

この本では、尺骨骨折はDCPよりLCP固定が優位だ、とはっきり書かれている。

typeⅣ(粉砕骨折)の再建のためのLCPの使用。

(A)手術前のX線画像は尺骨頭部の近位尾側部へと延びている骨折面を示している。

(B)9孔LCPによる修復。スクリュー挿入の順を番号で示した。

1=最初の皮質骨スクリューはプレートを骨に押し付けている。

2=2番目の皮質骨スクリューはプレートを通して、lag screw となっているが、骨折を圧迫する力をかけている。

3=3番目の皮質骨スクリューは別の骨折線を圧迫するようにlag 法で挿入された。

4-9=Locked screwsは骨折をより強く安定させている。

 抗生物質含有ポリメチルメタアクリルレート(PMMA)シリンダーがインプラントの周りにあることに注意(矢印)。

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尺骨はこういう鍵型に折れることがパターンとしてある。

そこから亀裂が延びていて、TypeⅣ粉砕骨折だ、としているのだが、「骨片が3つ以上あること」という粉砕骨折の古典的な定義にはあてはまらない。

しかし、この骨折は慎重に、comminuted nature 粉砕骨折としての性質を持っていると認識して固定した方が良いのだろう。

そのことで、

LCPを使っている。

尺骨頭部に入れたscrewはしっかり長いスクリューを使っている。

ただ、double plate にはしていない。

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ひとつには、Nixon先生は成馬の尺骨骨折を扱うことが比較的多かったのでLCPの優位性を説くのだろう。

私たち生産地の馬外科医は当歳馬の尺骨骨折を手術することが多く、

すると尺骨も薄く小さいのでDCPの方がscrewを入れやすく、そしてLCP/LHS固定の頑丈さがなくても大丈夫なことが多い。

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尺骨にLCPを使うに当たっては、注意しないといけない点がある。

(D)この遠位から3本目のscrew(矢印)はやや外側を向きながら橈骨へ入っている。

橈骨外側の皮質に内側から当たっているが、削る、というほどではなかったようだ。

この馬は無事に治った。

しかし、こういう悲劇的な結果につながることもある。

この馬では遠位2本のLHSが橈骨外側の皮質に入ってしまった。

そして、その結果として橈骨骨折が起きた。

う~ん、この程度の損傷で、骨折につながってしまうのか、とも思う。

尺骨は薄い骨なので、もともとプレートを載せるのが難しい。

そして、LHSはLCPが固定されると、それに垂直にしか入らない(角度が固定される)ので、自由度はない。

LCPを載せるときに充分に注意をしなければいけないのだが、compression をかけると位置が変わるし、

遠位部は筋層も深くなるので、目視、触知しにくい。

LHSを入れないのなら、LCPを使う価値はない。

だから、私はDCPで固定できるなら尺骨骨折はLCPではなくDCPでやりたいと考えている。

しかし、粉砕しているのなら別だ。

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忙しくなってきた。

午前中は、1歳馬の飛節OCDの関節鏡手術。

分娩予定日寸前の繁殖雌馬の疝痛。

メッケル憩室腸間膜による空腸回腸捻転だった。

その手術の最中に分娩後8日の繁殖雌馬の結腸捻転。

その手術が終わる前に、黒毛の尾位難産の依頼。

後肢2本はすぐに引き出せたが、横胎向気味になっていて出てこない。

途中で母牛は倒れてしまった。

引っ張る方向を変えたらなんとか出せた。

が、今度は母牛が立たない。

「しばらく放っておきましょ」

牛はいじけてしまうと余計に立たなくなる。

2時間後、なんとか立ち上がって帰って行った。

            ー

ときどきゴジュウカラもやってくる。

林の中で、樹の幹を跳ね回り、頭が下になっても気にしない元気者。

ゴジュウカラもシジュウカラもいるけど、ロクジュウカラはいないんだよね;笑

 

 

 

 

 

 

 

 

 


北海の狩猟者

2023-02-20 | 図書室

いつだったか、手塚治虫さんの「シュマリ」を読んだ。

明治維新の頃、北海道で生きた男の物語。

ちらりと、その頃の北海道を訪ねてみたかったと思った。

今よりはるかに厳しく、辛く、危なく、乱暴な時代だったと思うが。

           ー

この本の著者は明治生まれだが、大正から昭和を根室から知床ですごした。自伝でありエッセイ。

本の前半は、ヒグマ猟が淡々と描かれている。

ハンターとはなんと執念深いものか。

足跡を追い、数日がかりで付け狙い、撃ち倒す。

子連れの熊でも容赦ない。

まだまだ、自然が圧倒的な強さを持ち、人が傷つけてもびくともしなかった時代の物語。

           ー

この本に記録されている道東から知床の自然の豊かなこと。

山には山女魚や岩魚があふれ、原生林は深く、獣たちの密度が濃い。

本の後半は、どれほど山女魚が釣れたか書かれている。

           ー

この本の時代は、知床や別海方面に入るには、釧路から陸路を行くか、

海路で根室半島を回って標津へ上がるか、

北見方面から山を越すかしか方法がなかったのだそうだ。

今は中標津がけっこうな街になっていて、空港もある。

根室の獣医さんたちは会議や学会に飛行機で出張してきたりする。

           ー

私は知床半島の付け根の忠類川をカヌーで下ったことがあるが、とてもワイルドな川だった。

頭上をオジロワシが舞い、川にはサクラマスが泳いでいた。

川の曲がり角のたびに、ヒグマが水浴びしてないか怯えながら下った。

昭和初期だと、どれほどだったろう、と思う。

           ー

養老牛温泉に二度ほど訪ねたことがある。

この著者は、養老牛温泉の開拓者だったのだそうだ。

開発が壊したもの、そのために失われたもの、そして時代というものを思わずにはいられない。

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早朝、地震があった。十勝沖。このあたりは震度2.

昨夜から何度かに分けて雪が降った。

この冬一番の積雪だったかも。

それでも気温が高く融ける。日照量がもうちがうのだ。

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朝、1歳馬の飛節OCDの関節鏡手術。

4歳馬の繰り返す胃潰瘍の内視鏡検査。

当歳馬の食道梗塞。通過できず。

1歳馬の飛節OCDの関節鏡手術。

2歳馬の跛行診断。

当歳馬の食道梗塞の再診。通過していた。

今日から、新たな実習生4名。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


成馬の尺骨骨折プレート固定に関するあれこれ

2023-02-18 | 整形外科

尺骨骨折のプレート固定手術をしたら、必ず頭ー尾方向のX線撮影もして、プレートスクリューが尺骨からはみ出していないことを確認することがたいせつ。

大丈夫だ。

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どの程度から粉砕 comminuted だと考える、扱う、のかという点については・・・ 

Equine Fracture Repairに載っている症例写真。

この症例でも粉砕だとしている。

たしかに尺骨頭側の内外方向への変位は大きい。

そして骨折線は1本には見えないが、これが粉砕骨折だというなら粉砕でない尺骨骨折は珍しいだろう。

ただ、この症例は・・・・

固定後に亀裂が明瞭に見えてきた(C)。

粉砕していたのだ。

成馬の尺骨骨折を甘く見てはいけない。

成馬の頑丈な骨が折れるとき、大きな力を受けて、それに抵抗した上で爆発するように折れる。

弱い骨がポキンと折れたのと違い、骨折線は複雑な走り方をし、粉砕しやすいのだ。

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成馬の尺骨骨折をcompression plate で固定したが、プレートを骨の表面に沿うように反らせ過ぎて、

関節へつながる部分の骨折線が開いたまま残ってしまった、という写真。

これは多少は仕方がないことだと思う。

私は今回の症例では、骨折線の上に来る部分を prebending しておいた。

多少、効果はあったかもしれない。

しかし、それ以上に、関節部から遠位へと骨折線が走っていたら、その骨折線を貫通するようにプレートスクリューを入れるべきだ。

上のEquine Fracture Repair の写真はそうしていない。古い症例の画像なのだろう。

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to be continued

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昨夜は、繁殖雌馬の空腸腸間膜ヘルニアに、

繁殖雌馬の結腸捻転に、

たいへんな夜だったらしい。

おまけに断水し、今日の午前中の手術は延期。

昼、高齢馬の疝痛が来院するところへ、妊娠末期の繁殖雌馬の疝痛が先に到着。

待っていられない状態で、開腹したら推定診断どおり結腸捻転だった。

開腹手術中に高齢馬も来院したが、すでに腹膜炎を起こしており、予後不良。

これも推定診断どおり有茎脂肪腫だったらしい。

私は剖検を観る暇もなかった。

続いて、1ヶ月齢の黒毛和種子牛の嚥下障害。

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すっかり春の様相だ。

春は子馬のIgGを調べ、異常がないかチェックするベビーチェック事業を長年やってきた。

これは、NOSAIが半額を負担し、事故低下のためのサーヴィス事業として実施してきたが、

NOSAIの全道合併でその事業もなくなった。

馬IgGは測定することはできるが、全額牧場の負担になる。

詳しくはNOSAI獣医師にお尋ねください。

円安でもあるし、ウマIgG試薬もひどく高くなった。

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シジュウカラ。

裏の林の中でいちばん活発かもしれない。

でもスズメより弱いようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


分娩後の疝痛は小結腸腸間膜裂による小結腸壊死だった

2023-02-18 | 急性腹症

分娩後3日目の繁殖雌馬が疝痛で来院する、という。

分娩後から不調。

お産は重かった。

4年前に結腸捻転で手術を受けている。そのときも分娩後2週間で、colopexy 結腸固定術を実施している。

というのが事前情報。

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Subjective 所見は、分娩後、便の出が悪い。怒責すると水のような便が少量でる。

もう種付けする予定はない。子馬を育ててくれれば良い。

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Objective所見は、

PCV42、WBC9200、乳酸値2.4

腹囲膨満。

直腸検査すると、手が入っていかない。

40-50cmのところで粘膜が浮腫を起こしていて、その奥に固い便があり、さらにその奥で直腸が捻れていて便で固く膨らんでいる。

浣腸したが、水もほとんど入っていかない。

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Assessment アセスメント 評価。

分娩で小結腸の腸間膜が破れて小結腸が動けなくなり排便できないのだろう。

開腹手術しか助ける術はないが、開腹しても直腸近くて切除、吻合できない部位だとあきらめるしかないが。

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Plan 計画。そして、治療内容。

開腹したら、小結腸全域に便がいっぱい詰まっている。

内容を出さないと操作も探査もできない。

切開して内容を洗い出す、が時間がかかる。

そして、骨盤腔近くで腸間膜が破れているのが見つかった。

乳房の前まで開腹手術創を広げても、腸間膜の裂孔の端にしか届かない。

とても、これから壊死する小結腸から直腸を切除・吻合できない。

あきらめる。

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この分娩による小結腸の腸間膜裂による小結腸壊死は毎年数頭が来院する。

直腸検査で、手が届くところに粘膜の浮腫を感じたら、それは縫えない直腸近くの壊死なので、予後不良の判断をしても良いのかもしれない・・・・・

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ウッドデッキの小鳥の餌台。

ほとんどスズメなのだけど、小鳥たちが餌を求めてやってくる。

秋から冬は餌を見つけるのはたいへんになるらしい。